10話 ハズレだった?
◇◇◇◇◇
華乃が立ち止まった場所は、いわゆる物置き部屋だった。
「この中から泣き声っぽい声が聞こえました…」
そう言い、木製の引戸を開けてみる。
『何がいる?』
『今日も物の怪と遭遇か?!』
視聴者は、固唾を飲んで中の様子を伺う。
物置き部屋の中は薄暗く、カビと埃の匂いが充満していて、華乃は少し顔を顰めながら注意深く中へ足を踏み入れる。
しかし…
「…うーーん、…何も無い…?」
鬼火が見える訳でも、空間の歪みがある訳でも無い。
『まあ、一層はほぼサーチ済みだからね』
『何かあれば、もう発見されてるって』
『いやいや、奇跡を起こすのが華乃ちゃんよ』
チャット欄も面白おかしく、緩やかに流れていく。
三帖ほどの小さな物置きの中には、幾つかの木箱や行李が置いてあるだけだった。
『箱の中身は?』
視聴者の指摘で、木箱や行李の中も調べてみるが…物の怪の気配は無さそうだった。
『なぁんだ!空振りかぁ』
『さすがに二度目のビギナーズラックは無しか』
「そうみたいですね…」
どうやら自分の気のせいだったみたいだと、
引戸を締めかけた時だ。
〈…ぅ、ぅぅ……〉
やはり、何か声が聞こえたようで…華乃は手を止める。
『どうした?』
『何か見つけたのかな?』
視聴者らも、じっと配信画面を見入る。
「やっぱり、ちょっとスキルを使ってみますね」
『おおお?!何なに?』
『でたあ!華乃ちゃんの“鑑定”スキルー!』
スキルを使用すると疲労も増すが…どうしても、何か気になった華乃は、【真眼】を使ってみる事にした。
【真眼】
「…え?」
すると、木箱の辺りから、ほんの僅かに
発光が見られたが…消え入るように点滅していった。
「木箱辺りに…ほんの少しだけ反応があるようです
…これは…サーチ機器では検知できないくらい微弱な点滅ですね…」
『マジか?!』
『すげぇ!【真眼】のチカラ!』
『本気で“見えてる”のかよ?!』
華乃はすぐに、木箱の中身を確認してみる。
木箱の中身は、皿や調理器具などが入っていたが…
「何も……反応もない…ようですね」
華乃は【真眼】の精度を更に上げる。
〈サーチ〉
木箱を隈なく凝視していると…また微弱な発光が見えた。
「あ…!これ、箱の中の酒瓶から…発光している感じがします!…これ、マムシ酒?って言うんですかね?」
『マムシ酒??』
『ああ、酒にマムシを漬けたやつか!』
『うえぇ!…で?そのマムシが物の怪なの?』
「はい…そんな感じがします…ちょっと勇気いりますが…瓶からマムシを取ってみますね?」
【真眼】による反応は、やはりこのマムシから出ている気がして、
意を決して瓶から取り出してみる。
「…うぅ、えぇい!」
瓶を開けると、強い酒精が鼻を突く。
琥珀色にとろみかかった酒の中から、少しグロテスクなマムシを取り出す。
『おおおー!き、キモい!もろ蛇だよな?!』
『ぎゃあああ、無理無理無理』
華乃もコメント欄の反応と同じ気持ちだったが…
我慢して摘み上げ、【真眼】のサーチで見てみるが…
「…ええ??」
華乃は目を瞠り、眉を下げる。
「蛇さんからでは…無いかもです…ただの酒漬けになったマムシ…のようです」
マムシへサーチで見てみるが、反応は無さそうだ。
『えー?蛇が物の怪じゃないのか』
『だとしたら、蛇以外って何があんだよ?』
チャットのコメントに、華乃も頷く。
確かに、このマムシに反応があったのに…“コレ”に物の怪が憑いてないとは、どういう事だろうか?
しかし、その時…僅かにマムシの口元から発光が見られた。
「…口元…??」
華乃は、躊躇した後…何とも言えない苦い顔をしながら、マムシの口を指で広げてみる。
…すると、口の中から紙のような物が見えた。
「こ…これ、かもです!蛇さんが口に含んでた紙!」
恐る恐る指先でマムシの口から紙を取り出してみる。
広げると、それは物の怪入りの符のようだった。
「これ…“お符”…ですね!
酒漬けの中の蛇さんが口に入れてたんですね!」
随分と訳の分からない所からの、
【真眼】の僅かな発光を頼りに見つけた符に、華乃は苦笑いする。
『マジかぁぁ!今日も見つけちまったぁ!』
『華乃ちゃん本物だな!』
『スゲええええー!』
『ちょっとキモいけど、よく見つけたなぁ』
チャット欄は賑わうが、華乃はすぐにシュンと意気消沈した。
「いえ…ですが、札に傷が付いてて…どうやら、
機能はしてないみたいです」
華乃は引き続き【真眼】で符の鑑定をしてみる。
〈名称〉河童
〈危険度〉低
〈希少度〉ノーマル
〈能力〉引き込み、水鉄砲
〈弱点〉乾燥
〈備考〉札の破損で機能しない
『ええええ…札、壊れてるのかぁ』
『残念ー!』
『いや、でも符屋で修理はできるぞ』
がっかりしていた華乃は、視聴者からの指摘に顔を上げる。
「え?!修理…できるのですか?」
『うん、七割現存してれば修理可能だ』
『けどなぁ…ノーマル修理しても、損なだけでは?』
視聴者の意見に、華乃は改めて符を見る。
確かに希少度ノーマルだ。
『ノーマルじゃ換金しても千円くらいだな』
『しかも修理費は二千〜五千円はかかるぞ』
「ええええ…」
そんな指摘に、華乃はがっくりと肩を落とす。
『ま、そんな事もあるさ!』
『ドンマイー!』
ハズレだったとチャット欄の盛り上がりは沈静したが…華乃は破れたこの符を捨て置く気になれなかった。
(悲しそうな声でしたし…放っておけませんよね)
その後、軽く廊下を見て回り配信は早めに終了する。
「一応ですが…お符屋さんへ行って、見て貰いましょうか」
酒臭く少しくたびれ、破れかけた符を大事そうに持ち
華乃はダンジョンを後にする。
◇◇◇◇◇
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