灯台島ヘ その10
『まだ終わらぬ。』
巨大な目の形になった霧の核が、
ゆっくりと部屋を見回しました。
ギロリ。
赤黒い瞳。
その視線だけで空気が重くなります。
ショウタは震えながら後ずさり。
「もう物体ですらなくなった!!」
サヨも息をのみます。
「こわい……。」
霧の核は笑っていました。
『人の欲。怒り。悲しみ。』
『それこそが我。』
黒い霧が渦を巻きます。
『消えることなどない。』
その瞬間――
大量の霧が床から噴き出しました。
ゴォォォ!!
ショウタが転びます。
「うわぁぁ!?」
霧の中に、
無数の顔が浮かび上がりました。
泣いている顔。
怒っている顔。
苦しむ顔。
サヨが胸を押さえます。
「これ……。」
少女が小さく言いました。
『灯台に集まった人たちの心……。』
長い年月。
悲しみも怒りも、
全部ここへ積もっていたのです。
灯台守は苦しそうに膝をついていました。
『……やめろ。』
しかし核は止まりません。
『お前も我の一部だ。』
黒霧が灯台守へ絡みつきます。
『孤独を望んだだろう?』
『終わりを望んだだろう?』
灯台守が苦しそうに叫びました。
「違う……!!」
その瞬間――
ピースケが前へ出ます。
巨大な羽を広げ、
黒霧の前へ立ちました。
「終わりたいんじゃない。」
静かな声。
でも、
まっすぐでした。
「苦しかっただけです。」
霧の核の目が細くなります。
『……大キナ鳥。』
ピースケは続けました。
「悲しい気持ちは消えません。」
風が吹きます。
「でも、誰かと分け合うことはできます。」
サヨがうなずきました。
「ひとりじゃないよ!」
ショウタも叫びます。
「勝手に全部抱え込むなって!」
灯台守の目が揺れます。
赤い光が少し弱まりました。
しかし。
核は怒ったように霧を吹き上げます。
『黙レェェェ!!』
ドゴォォォン!!
黒霧の衝撃波。
全員吹き飛ばされました。
ショウタが壁へ激突。
「ぐぇぇ!!」
サヨも転びます。
「きゃっ!」
そして――
核の巨大な目が開ききりました。
ギロォォォ……。
空の霧渦がさらに巨大化。
灯台が崩れ始めます。
魔王が叫びました。
「もう暴走寸前だ!」
クロノワールたちも最上階へ駆け込んできます。
全員ボロボロ。
ベルフェルはまだパン箱を持っていました。
「守り切った。」
「そこだけブレないな!?」
そのとき。
少女が静かに核へ歩き出しました。
サヨが驚きます。
「待って!」
少女は振り返り、
少し笑いました。
『私が核を押さえます。』
ショウタが顔色を変えます。
「それって……。」
少女はうなずきました。
『その間に、核を壊して。』
沈黙。
つまり。
自分ごと封じるつもり。
サヨの目に涙が浮かびます。
「そんなのダメ!」
少女はやさしく笑いました。
『大丈夫。』
『私はずっと、誰かが来てくれるのを待ってたから。』
その言葉に、
灯台守が顔を上げました。
「……待っていた?」
少女は静かにうなずきます。
『あなたも、ずっとひとりだったでしょう?』
灯台守の赤い目が揺れました。
その瞬間――
ピースケが前へ出ます。
「……なら。」
全員が振り向きます。
ピースケは穏やかに笑っていました。
「ひとりも消えない方法を探しましょう。」
ショウタが叫びます。
「そんな都合いい方法あるの!?」
魔王は静かに核を見つめています。
そして――
「……ある。」
全員が止まりました。
魔王の手に、
青い光。
深海の王冠と同じ色です。
「王冠の力を使えば、呪いだけを分離できるかもしれん。」
クロノワールが目を細めます。
「成功率は?」
魔王は真顔。
「かなり低い。」
ショウタ即答。
「いつもの!!」
しかし。
サヨは強くうなずきました。
「やろう!」
ピースケも羽を広げます。
「ええ。」
その瞬間――
霧の核が巨大な口を開きました。
ゴォォォォォ!!
黒い光線が、
全員へ向かって放たれたのでした。




