灯台島へ その1
沈没船の冒険から数日後――
村には、いつもの穏やかな朝が戻っていました。
鳥の声。
焼きたてパンの香り。
そして。
「腰いてぇぇぇ……。」
ショウタが広場で伸びています。
サヨが笑いました。
「船で転がってたもんね。」
ベルフェルは新作パンを並べていました。
『海風しおバターパン』
エリシアがじっと見ます。
「今回は普通に美味しそうですね。」
「今回はとは。」
そのとき。
ピースケは馬小屋の掃除をしていました。
巨大なホウキを器用に使っています。
ザッザッ。
いつもの日常。
平和です。
しかし――
カラン。
何かが床へ落ちました。
ピースケが首をかしげます。
「ん?」
落ちていたのは、
小さな青い貝殻。
ショウタが拾い上げました。
「こんなのあったっけ?」
その瞬間。
貝殻が淡く光ります。
ポゥ……。
サヨが目を丸くしました。
「光った!」
クロノワールの耳がぴくり。
「……海の気配がする。」
すると。
貝殻から、
小さな声が聞こえてきました。
『……聞コエマスカ。』
全員。
「!?」
ショウタが飛び上がります。
「しゃべったぁぁ!!」
貝殻は静かに光っています。
『……助ケテ……。』
サヨが不安そうに聞きます。
「だ、誰?」
しばらくノイズが入り――
『……灯台島……。』
魔王が反応しました。
「灯台島?」
ガンツが顔をしかめます。
「この辺じゃ“霧の孤島”って呼ばれてる場所だ。」
ショウタが嫌な顔。
「その呼び方、絶対ヤバい。」
貝殻の声は弱々しい。
『……霧ガ……増エテ……。』
『……島ガ……消エル……。』
ブツッ。
光が消えました。
静寂。
ショウタがゆっくり振り向きます。
「……今のなに。」
クロノワールが低く言いました。
「ただの貝じゃない。」
エリシアもうなずきます。
「海の通信魔術に近いですね。」
サヨは少し不安そうです。
「助けを求めてた……。」
そのとき。
ピースケは静かに貝殻を見つめていました。
青い光。
どこか、
深海の王冠と似ています。
魔王が腕を組みました。
「……海の異変は完全には終わっていないのかもしれんな。」
ショウタが頭を抱えます。
「また海!?」
ベルフェルは真顔。
「船酔い対策パンを作るか。」
「パンで全部解決しようとするな!!」
すると。
外から声。
「おーい!!」
ガンツでした。
全力で走ってきています。
珍しく焦った顔。
「大変だ!」
ショウタが振り向きます。
「どうした!?」
ガンツは息を切らしながら言いました。
「沖の海が……おかしい!」
全員が止まります。
ガンツは海の方角を指差しました。
「昼なのに、真っ黒な霧が出てる!」
風が吹きました。
遠くの空。
たしかに――
黒い霧がゆっくり広がっているのが見えます。
サヨが小さくつぶやきました。
「灯台島……。」
ピースケは静かに帽子をかぶります。
「行きましょうか。」
ショウタが叫びました。
「休み期間みじかっ!!」
しかし。
その目はもう、
少しワクワクしていました。
新しい海の謎。
霧の孤島。
そして、
助けを求める声。
どうやらピースケたちの冒険は、
まだ終わりそうになかったのでした。




