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沈没船 その8

青い光が――


嵐の空を突き抜けていました。


ゴォォォォォ……。


潮鳴り岬の祭壇から放たれた光は、


荒れ狂う海を包み込んでいきます。


巨大な波が静まり、


黒雲が少しずつ割れていく。


ショウタは呆然としていました。


「……すげぇ。」


サヨも王冠を見つめています。


青い宝石は、


まるで呼吸するみたいに静かに輝いていました。


そして――


海喰らい。


巨大な怪物の赤い目が、


ゆっくり青へ変わっていきます。


ゴゴゴ……。


触手の動きが止まりました。


怒りも、


暴走も、


少しずつ消えていくようでした。


ピースケは静かに近づきます。


巨大な怪物は、


もう襲ってきません。


ただ、


疲れ果てたみたいに海を見ていました。


ショウタが小声で聞きます。


「……なんで静かになったんだ?」


魔王が答えました。


「王冠の力だ。」


風がやさしく吹きます。


「深海の流れを鎮める力。」


「荒れた海も、生き物の怒りも、本来は落ち着かせるものだった。」


サヨが海喰らいを見上げます。


「じゃあ、この子も苦しかったのかな……。」


クロノワールが低く言いました。


「海が壊れ続ければ、生き物も狂う。」


ベルフェルもうなずきます。


「暴れていたのは怒りだけじゃない。」


そのとき。


海喰らいがゆっくり顔を下げました。


巨大な目が、


ピースケたちを見ています。


そこにはもう敵意はありません。


ただ――


長い間苦しんでいた生き物の、


疲れた目でした。


ピースケは静かに笑います。


「お疲れさまでしたぁ。」


海喰らいは小さく鳴きました。


「……グルル。」


その声は、


最初よりずっと穏やかでした。


そして。


巨大な体はゆっくり海へ沈んでいきます。


ザァァァァ……。


静かな波。


まるで海そのものが眠るみたいでした。


サヨが小さく手を振ります。


「ばいばい。」


その瞬間――


遠くの海で、


ボロボロの幽霊船が光り始めました。


ショウタが振り向きます。


「……あ。」


骸骨船長。


スケルトン船員たち。


彼らの体が青い光へ変わっていきます。


長い間続いた呪いが、


ようやく終わろうとしていました。


幽霊船は静かに岬へ近づきます。


船長はピースケたちを見ました。


赤かった目は、


もう穏やかな白い光でした。


『……届イタ。』


サヨが笑顔でうなずきます。


「うん!」


船長はゆっくり空を見上げました。


雨雲の切れ間から、


月の光が差し込みます。


『……帰レル。』


その声は、


とても安心したようでした。


ショウタは少し鼻をすすります。


「なんか泣きそう……。」


すると。


船長は胸元のペンダントを開きました。


中の小さな女の子の絵。


そして――


船長は、ほんの少し笑います。


『……待タセタナ。』


青い光が強くなりました。


スケルトン船員たちも笑っているように見えます。


次の瞬間。


幽霊船は光の粒になって、


夜空へ消えていきました。


海には静かな波だけが残ります。


誰も、しばらく言葉を話せませんでした。


やがて。


ガンツが帽子を取ります。


「……見送ろうぜ。」


全員が静かに海を見つめました。


風はもう穏やか。


嵐は完全に消えていました。


そのとき――


ぐぅぅぅぅ。


大きなお腹の音。


全員が振り向きます。


ショウタでした。


「……腹減った。」


静寂終了。


サヨが吹き出します。


「もう!!」


ベルフェルは即答。


「船にパンがある。」


「なんで毎回あるんだよ!」


魔王も真顔。


「腹が減っては帰れん。」


クロノワールがため息をつきました。


「急に現実へ戻るな……。」


でも。


みんな笑っていました。


長い航海。


危険な冒険。


怖い思いもした。


だけど――


海風の向こうには、


どこかやさしい静けさが残っていました。


まるで、


何百年も帰れなかった魂たちが、


ようやく眠れたみたいに。

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