結び目
三人は、脈打つ光の中心へと走り続けました。
近づくにつれて、空気が重くなり、足元の景色が次々と入れ替わります。草原だった場所が一瞬で岩場に変わり、焚き火の煙が現れたかと思えば、消えてしまう――まるで世界そのものが迷っているようでした。
やがて、ついに“それ”の前にたどり着きます。
そこには、大きな光のかたまりがありました。絡み合う糸のように、いくつもの時間が結びついています。
ドクン……ドクン……。
「これが、“結び目”ですねぇ。」
ピースケが静かに言いました。
ショウタは顔をしかめます。
「なんか……見てるだけで気持ち悪いな。」
ガルも低くうなります。
「……トキ、イタム。」
そのとき、光の中から声が響きました。
「……ほどけない……。」
三人は顔を見合わせます。
光の奥に、ぼんやりと人の形が浮かび上がりました。小さな影――それは、サヨに似ています。
「え……サヨ!?」
ショウタが叫びます。
影はゆっくりと首を振りました。
「ちがう……でも、ちょっとだけ、サヨ……。」
ピースケは目を細めます。
「なるほど……“記憶のかけら”ですねぇ。」
「記憶?」ショウタが聞き返します。
「ええ。ここには、いろんな時間の“想い”や“記憶”も混ざっているようです。その中に、サヨさんの気持ちも残っていたのでしょう。」
光の中の影は、苦しそうに言いました。
「つなぎすぎたの……さびしくて……バラバラが、いやで……。」
ピースケはゆっくりとうなずきました。
「だから全部、つないでしまったんですねぇ。」
ショウタは少し戸惑いながらも言います。
「でも、それじゃダメなんだろ?」
影はうつむきます。
「……ほどきかた、わからない……。」
しばらく沈黙が流れました。
やがて、ピースケが口を開きます。
「“つながり”は大事ですが、“離れること”も同じくらい大事なんですよ。」
ショウタが腕を組みます。
「離れるって……なんか、さみしくね?」
ピースケはやさしく笑いました。
「ええ、さみしいものです。でも、離れていても、つながっていることはできます。」
そう言って、ショウタとガルのほうを見ます。
「さっき、ふたりは別々の時代でも友だちでいられましたよねぇ。」
ショウタははっとした顔になります。
「……あ。」
ガルも静かにうなずきました。
「トモダチ……ハナレテモ……ダイジョウブ。」
光の中の影が、ゆっくり顔を上げます。
「……ほんと?」
ショウタは一歩前に出ました。
「ほんとだよ。サヨもさ、帰ったけど……ちゃんとつながってる気がするし。」
ピースケも続けます。
「ですから、無理につなぎとめなくてもいいんですよ。それぞれの場所に戻してあげましょう。」
影は少し考え、そして小さくうなずきました。
「……やってみる。」
その瞬間、光のかたまりがゆっくりほどけ始めました。
絡み合っていた“時間の糸”が、一本ずつ離れていきます。
ドクン……ドクン……という音も、だんだん静かになっていきました。
やがて、強い光が一度だけ広がり――
すべてが白く包まれました。
――気がつくと。
三人は、村の広場に立っていました。
空は穏やかで、風も、水も、音も、すべてが自然に戻っています。
「……終わった、のか?」
ショウタがつぶやきます。
ピースケは空を見上げ、ゆっくりとうなずきました。
「ええ、うまくいったようですねぇ。」
ガルの体が、ほんのり光り始めます。
「……カエル、トキ。」
ショウタは少しさびしそうに笑いました。
「またかよ。でも……まあいいや。」
ガルはうなずき、拳を軽くショウタの肩に当てました。
「トモダチ。」
「おう。」
光が強くなり、ガルの姿はゆっくり消えていきます。
「ピースケ……ショウタ……アリガト。」
そして、静かにいなくなりました。
しばらくのあいだ、ふたりは黙って空を見ていました。
やがてショウタが言います。
「……でもさ、なんか前よりさみしくないかも。」
ピースケはやさしく笑います。
「それが“つながっている”ということですよ。」
夕日が村をオレンジ色に染めていきます。
遠く離れた時代にも、同じ空が広がっているような気がしました。
そしてピースケは、いつものように小さくつぶやきます。
「さて、次はどんな不思議が来ますかねぇ。」
村の物語は、まだまだ続いていくのでした。




