揺らぎ
ガルが光の中へ消えてからというもの、森はしばらくのあいだ、どこか静けさの質が変わったようでした。風の音も、木々のざわめきも、少しだけ深くなった気がします。
そんなある夜のこと。
ピースケが広場で月を見上げていると、ふいに――空がゆらり、と揺れました。
「……これはまた、ただごとじゃありませんねぇ。」
次の瞬間、空の一部が水面のように波打ち、そこから“何か”が落ちてきました。
ドサッ。
広場の真ん中に落ちたのは――石でできた道具や、見たことのない形の器、そして、古びた火打ち石のようなもの。
ショウタが家から飛び出してきます。
「今の音なに!?」
「空から、何か来ましたねぇ。」
ふたりが近づくと、道具のひとつがぼんやり光り始めました。
すると――
「……ショウタ……。」
かすかな声が響きました。
ショウタが息をのみます。
「この声……ガル?」
ピースケは静かに耳をすませました。
「どうやら、あちらから届いているようですねぇ。」
光る道具の中に、小さな像のようなものが浮かび上がります。それはガルの姿にそっくりでした。
「……トキ……ユレル……キケン……。」
途切れ途切れの声。
ピースケの表情が少し引き締まります。
「時間のゆらぎが、まだ安定していないようですねぇ。」
ショウタが不安そうに言います。
「どうなるんだよ?」
そのとき――
村のあちこちで、奇妙なことが起こり始めました。
井戸の水が一瞬だけ止まったり、風が逆向きに吹いたり、昼なのに一瞬だけ夜のように暗くなったり。
「これは……いろんな時間が、混ざり始めていますねぇ。」
ピースケはゆっくり翼を広げました。
「このままだと、この村が“どの時代にも属さない場所”になってしまいます。」
ショウタはごくりとつばを飲みます。
「そんなの……めちゃくちゃじゃん。」
ピースケはうなずきました。
「ええ。ですから、整えに行きましょう。」
「どこへ?」
ピースケは空を見上げます。
「ゆらぎの中心へ。」
その言葉と同時に、広場の上空にまたあの光の円が現れました。今度は前よりも大きく、不安定に揺れています。
ショウタは一瞬ためらいましたが、ぐっと拳を握りました。
「……行く。ガルが助け求めてるんだろ。」
ピースケは少しうれしそうに目を細めます。
「いいですねぇ。その気持ち。」
ふたりはタイミングを合わせて、光の中へ飛び込みました。
――次の瞬間。
足元の感触が消え、景色がぐにゃりと歪みます。
森でも、村でもない場所。
そこには、いくつもの時代の風景が重なっていました。石器時代の焚き火、見たことのない古い集落、そして見慣れた村の一部が、ばらばらに浮かんでいます。
「なんだよここ……!」
ショウタが声をあげます。
そのとき、奥のほうからガルが走ってきました。
「ショウタ!ピースケ!」
今度ははっきりとした言葉です。
「無事でしたか。」ピースケが言います。
ガルはうなずきましたが、すぐに険しい顔になります。
「トキ……コワレル。モト……モドレナイ。」
ピースケは周囲を見回し、静かに言いました。
「原因はひとつでしょうねぇ。“つながりすぎ”です。」
ショウタが首をかしげます。
「え?」
「本来つながるべきでない時間同士が、無理に結びついている。どこかに“結び目”があるはずです。」
そのとき、遠くで強い光が脈打ちました。
まるで心臓のように、ドクン、ドクンと。
「……あれか。」
ショウタが指さします。
ピースケはうなずきました。
「ええ、行ってみましょう。」
三人は光の中心へ向かって走り出しました。
その先に待っているものが、村の未来を大きく左右するとも知らずに――。




