ネアンデルタール人
それから数日後のことです。
村のはずれの森で、「見たことのない人影が歩いていた」といううわさが広まりました。大きくて、がっしりしていて、毛皮のようなものをまとっていた――そんな話です。
広場でその話を聞いたピースケは、首をかしげました。
「見たことのない人、ですか。ちょっと気になりますねぇ。」
そこへ、ショウタが駆けてきました。
「オレ見に行く!絶対おもしろいやつだろ!」
ピースケは苦笑しながらもうなずきます。
「では、一緒に行きましょうか。くれぐれも無茶はしないように。」
ふたりは森の奥へと向かいました。木々の間を進んでいくと、やがて低くうなるような声が聞こえてきます。
「……グルル……。」
音のするほうへ近づくと、そこにはひとりの男がいました。
がっしりした体つきに、深い目。粗い毛皮をまとい、大きな石の斧のようなものを手にしています。明らかに、この村の人間とは違う姿でした。
ショウタが小声で言います。
「なんだよ、あれ……。」
ピースケは静かに観察してから、ゆっくり前に出ました。
「こんにちは。」
男はびくっとして、身構えます。
「……!」
言葉は通じないようでした。しかし、その目には警戒と、少しの不安が見えます。
ピースケは落ち着いた声で続けました。
「大丈夫ですよ。敵ではありません。」
すると――
「……トモダチ?」
たどたどしい発音で、男が言いました。
ショウタが目を丸くします。
「しゃべった!」
ピースケはやさしくうなずきました。
「ええ、トモダチですよ。」
話を聞くと、その男は遠い昔から来た“ネアンデルタール人”でした。どういうわけか、この時代に迷い込んでしまったようです。
しかし、彼はとても困っていました。
「ヒ……カエル……バショ……ナイ。」
「帰る場所がない、ですか。」
ピースケは考え込みます。
そのとき、地面がふわりと光り始めました。森の奥に、不思議な円形の模様が浮かび上がっています。
「これは……時のゆらぎですねぇ。」
ショウタが首をかしげます。
「なんだそれ?」
「時間と時間が、少しだけつながっている場所ですよ。きっと、彼が来た道でもあります。」
ネアンデルタール人の男は、その光を見て、何かを思い出したようにうなずきました。
「アレ……モト……カエル。」
しかし、光は弱々しく、今にも消えそうです。
「このままでは、通れませんねぇ。」
ピースケはあたりを見回しました。
「こういうときは、“つながり”が必要です。」
「つながり?」ショウタが聞き返します。
ピースケはゆっくり言いました。
「違う時代、違う存在でも、心が通じれば道は開けるものです。」
ショウタは少し考えてから、ネアンデルタール人の男に近づきました。
「なあ……オレ、ショウタ。お前は?」
男は少し驚いてから、胸を叩きました。
「……ガル。」
ショウタはにやっと笑います。
「ガルか。いい名前じゃん。」
そして、ポケットから小さな石を取り出しました。前に拾って、でも手放した“ささえの石”とは違う、ただの丸い石です。
「これ、やるよ。記念。」
ガルはその石をじっと見つめ、ゆっくり受け取りました。
「……トモダチ。」
その瞬間、円形の光が強く輝き始めました。
ピースケは満足そうにうなずきます。
「やっぱりですねぇ。」
光の中に道のようなものが現れます。ガルは一歩踏み出し、振り返りました。
「ショウタ……ピースケ……アリガト。」
ショウタは手を振りました。
「元気でな!」
ガルはうなずき、光の中へと消えていきました。
やがて光は静かに消え、森にはいつもの静けさが戻ります。
帰り道、ショウタがぽつりと言いました。
「なんかさ……時代とか関係なく、友だちってできるんだな。」
ピースケはゆっくりうなずきます。
「ええ、不思議なものですねぇ。でも、とても大事なことです。」
夕暮れの中、ふたりは村へと戻っていきました。
遠い昔と今が、ほんの少しだけつながった一日でした。
そしてまた、この村には新しい物語が生まれていくのでした。




