ショウタ登場
サヨが村を去ってから、しばらくのあいだ、村はまた静かな毎日を取り戻していました。風はやさしく吹き、水は豊かに流れ、音もにぎやかに響いています。
そんなある日の昼下がり。
広場の木陰でくつろいでいたピースケの前に、ひとりの男の子が現れました。ショウタという、10才の少年です。日に焼けた顔に、少し生意気そうな目。でもどこか、落ち着かない様子でした。
「なあ、あんたがピースケだろ?」
ピースケはゆっくり目を開けました。
「ええ、そうですが。あなたは?」
「ショウタ。別に用はないけど……ちょっと確かめに来ただけ。」
「確かめる?」
ショウタは腕を組んで、ピースケをじっと見上げました。
「ほんとに何でも解決できるのかって。」
その言い方は少しトゲがありましたが、ピースケは気にした様子もなく、ふわっと笑いました。
「何でも、というわけじゃありませんよ。ただ、話を聞いて、一緒に考えるだけです。」
ショウタはふん、と鼻を鳴らしました。
「じゃあさ、これも解決できるか?」
そのとき――
ゴゴゴ……と低い音が地面の奥から響いてきました。
村のはずれのほうで、地面が少しずつひび割れていきます。
村人たちがざわめき始めました。
「今度は何だ……?」
ピースケは立ち上がり、ゆっくりと翼を広げました。
「これは……大地の様子がおかしいですねぇ。」
ショウタの目がきらりと光ります。
「ほら、行くんだろ?オレも行く。」
ピースケは少しだけ考えてから、うなずきました。
「では、一緒に来ますか。足元には気をつけてくださいねぇ。」
ふたりはひび割れの中心へ向かいました。そこには、ぽっかりと開いた穴があり、地下へと続いています。
中に降りると、土のにおいが濃くなり、空気がどっしりと重く感じられました。
やがて広い空間に出ると、そこには大きな“岩の精”がいました。しかし、その体はところどころ崩れ、苦しそうにうずくまっています。
「……重い……つらい……。」
岩の精は低い声でうめきました。
ピースケはそっと近づきます。
「どうしました?何があったんですかねぇ。」
岩の精はゆっくりと目を開けました。
「“ささえの石”が……なくなった……。それがないと、体を保てない……。」
ショウタが眉をひそめます。
「ささえの石?」
その言葉を聞いた瞬間、ショウタの表情が一瞬だけ揺れました。
ピースケはそれを見逃しません。
「……ショウタさん、何か知っていそうですねぇ?」
ショウタはしばらく黙っていましたが、やがて小さく舌打ちをしました。
「……オレ、見つけたんだよ。きれいな石。ポケットに入れたまま……。」
そう言って、ポケットから丸くてずっしりした石を取り出しました。それはほんのり光を帯びています。
「これかも。」
岩の精が顔を上げました。
「それだ……!」
ショウタは一瞬ためらいました。
「……でも、これ、オレが先に見つけたんだ。」
その声には、少しだけ意地が混じっていました。
ピースケは静かに言います。
「たしかに、見つけたのはショウタさんですねぇ。でも、その石はここに必要なもののようです。」
ショウタはぐっと石を握りました。しばらく葛藤したあと――
「……ちぇっ。」
とつぶやいて、石を差し出しました。
岩の精がそれを受け取ると、体がゆっくりと元に戻っていきます。崩れていた部分が固まり、大地のひび割れも次第に閉じていきました。
ドン、と安定した音が響きます。
「助かった……。」
岩の精は深くうなずきました。
地上に戻ると、村人たちはほっとした様子でした。
ショウタは少しむくれた顔で立っています。
「……なんか損した気分。」
ピースケはくすっと笑いました。
「そうですかねぇ。でも、村は助かりましたよ。」
ショウタはしばらく黙っていましたが、やがてぽつりと言いました。
「……まあ、悪くはないか。」
その日の夕方、ショウタは広場で子どもたちと遊んでいました。さっきよりも、少しだけ表情がやわらいでいます。
ピースケはそれを見ながら、いつものようにつぶやきました。
「手放すことで、得るものもあるものですねぇ。」
夕焼けが村を赤く染め、大地はしっかりと静かにそこにありました。
そしてまた、新しい出来事が、どこかで静かに芽を出しているのでした。




