表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/163

サヨ登場

それから数日後のことです。


村に、新しい顔がやってきました。サヨという10才の女の子です。大きな目がきらきらしていて、少しだけ人見知りだけど、芯の強そうな子でした。


サヨは広場のすみで、じっとピースケを見上げていました。


「……ほんとに、しゃべるんだ。」


ピースケは気づいて、ゆっくり近づきました。


「ええ、まあ。おどろきましたか?」


サヨは一歩だけ後ずさりしましたが、すぐに首をふります。


「ううん。ちょっとだけ。でも……なんか安心する。」


「それはよかった。」ピースケはやわらかく笑いました。「あなた、名前は?」


「サヨ。昨日この村に来たの。」


話を聞くと、サヨは遠くの町からひとりでやってきたとのことでした。大事なものを探しているらしいのですが、それが何かはうまく言えないようでした。


「“大事なもの”ですか。形のあるものですかねぇ?」


サヨは少し考えてから、首をかしげました。


「……わからない。でも、なくしたらダメな気がするの。」


その言葉を聞いて、ピースケは少し真剣な顔になります。


「なるほど。それは放っておけませんねぇ。」


ちょうどそのとき、村の井戸のほうからざわめきが起こりました。


「水が……出なくなったぞ!」


村人たちが集まって、不安そうにのぞきこんでいます。いつもは澄んだ水が湧き出ているはずの井戸が、からっぽになっていたのです。


「また何か起きてますねぇ……。」


ピースケはサヨを見ました。


「サヨさん、よかったら一緒に来ますか?もしかしたら、あなたの探しているものにも関係があるかもしれません。」


サヨは少し迷いましたが、ぎゅっと手を握ってうなずきました。


「うん、行く。」


ふたりは井戸の底へと続く古い通路を進んでいきました。ひんやりした空気の中、だんだんと光が弱くなっていきます。


やがて、地下の広い空間に出ました。そこには、小さな水の精が座りこんでいました。けれど、その周りの水はほとんど干上がっています。


「これはこれは……また困っているようですねぇ。」


ピースケが声をかけると、水の精は顔を上げました。


「水の流れをつなぐ“心のしずく”が、なくなっちゃったんだ……。」


「心のしずく?」


サヨが思わず聞き返します。


水の精はうなずきました。


「誰かの“本当に大事に思ってる気持ち”から生まれるもの。それがないと、水は流れ続けられないんだ。」


その言葉を聞いたとき、サヨの表情がはっと変わりました。


「……それ、わたしの探してるものかも。」


ピースケは静かにサヨを見守ります。


「心当たりがあるんですねぇ?」


サヨは胸に手を当てて、小さな声で言いました。


「わたし、お母さんとケンカして飛び出してきたの。でも……本当は、ずっと謝りたかった。」


その瞬間、サヨの胸のあたりがふわっと光り、小さな水のしずくのような光が現れました。


「これ……?」


水の精が目を輝かせます。


「それが“心のしずく”だよ!」


サヨは少し戸惑いながらも、その光をそっと差し出しました。しずくは水の精の手の中でやさしく広がり、地下に乾いていた水路へと流れ込んでいきます。


すると――


ゴポッ、と音を立てて水が戻り始めました。


井戸へ、川へ、そして村中へと、水が勢いよく流れ出します。


「やりましたねぇ。」ピースケがうれしそうに言いました。


サヨは少し涙ぐみながら笑いました。


「うん……なんか、見つかった気がする。」


地上に戻ると、村人たちは大喜びでした。井戸からは再び澄んだ水があふれています。


その夜、サヨはピースケに言いました。


「わたし、帰るね。ちゃんと謝りたい。」


ピースケはゆっくりうなずきました。


「それが一番ですねぇ。きっと伝わりますよ。」


サヨは元気よく手をふって、村をあとにしました。


その背中を見送りながら、ピースケはいつものようにつぶやきます。


「大事なものって、意外と近くにあるものですねぇ。」


月がやさしく村を照らし、水の音が静かに響いていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ