サヨ登場
それから数日後のことです。
村に、新しい顔がやってきました。サヨという10才の女の子です。大きな目がきらきらしていて、少しだけ人見知りだけど、芯の強そうな子でした。
サヨは広場のすみで、じっとピースケを見上げていました。
「……ほんとに、しゃべるんだ。」
ピースケは気づいて、ゆっくり近づきました。
「ええ、まあ。おどろきましたか?」
サヨは一歩だけ後ずさりしましたが、すぐに首をふります。
「ううん。ちょっとだけ。でも……なんか安心する。」
「それはよかった。」ピースケはやわらかく笑いました。「あなた、名前は?」
「サヨ。昨日この村に来たの。」
話を聞くと、サヨは遠くの町からひとりでやってきたとのことでした。大事なものを探しているらしいのですが、それが何かはうまく言えないようでした。
「“大事なもの”ですか。形のあるものですかねぇ?」
サヨは少し考えてから、首をかしげました。
「……わからない。でも、なくしたらダメな気がするの。」
その言葉を聞いて、ピースケは少し真剣な顔になります。
「なるほど。それは放っておけませんねぇ。」
ちょうどそのとき、村の井戸のほうからざわめきが起こりました。
「水が……出なくなったぞ!」
村人たちが集まって、不安そうにのぞきこんでいます。いつもは澄んだ水が湧き出ているはずの井戸が、からっぽになっていたのです。
「また何か起きてますねぇ……。」
ピースケはサヨを見ました。
「サヨさん、よかったら一緒に来ますか?もしかしたら、あなたの探しているものにも関係があるかもしれません。」
サヨは少し迷いましたが、ぎゅっと手を握ってうなずきました。
「うん、行く。」
ふたりは井戸の底へと続く古い通路を進んでいきました。ひんやりした空気の中、だんだんと光が弱くなっていきます。
やがて、地下の広い空間に出ました。そこには、小さな水の精が座りこんでいました。けれど、その周りの水はほとんど干上がっています。
「これはこれは……また困っているようですねぇ。」
ピースケが声をかけると、水の精は顔を上げました。
「水の流れをつなぐ“心のしずく”が、なくなっちゃったんだ……。」
「心のしずく?」
サヨが思わず聞き返します。
水の精はうなずきました。
「誰かの“本当に大事に思ってる気持ち”から生まれるもの。それがないと、水は流れ続けられないんだ。」
その言葉を聞いたとき、サヨの表情がはっと変わりました。
「……それ、わたしの探してるものかも。」
ピースケは静かにサヨを見守ります。
「心当たりがあるんですねぇ?」
サヨは胸に手を当てて、小さな声で言いました。
「わたし、お母さんとケンカして飛び出してきたの。でも……本当は、ずっと謝りたかった。」
その瞬間、サヨの胸のあたりがふわっと光り、小さな水のしずくのような光が現れました。
「これ……?」
水の精が目を輝かせます。
「それが“心のしずく”だよ!」
サヨは少し戸惑いながらも、その光をそっと差し出しました。しずくは水の精の手の中でやさしく広がり、地下に乾いていた水路へと流れ込んでいきます。
すると――
ゴポッ、と音を立てて水が戻り始めました。
井戸へ、川へ、そして村中へと、水が勢いよく流れ出します。
「やりましたねぇ。」ピースケがうれしそうに言いました。
サヨは少し涙ぐみながら笑いました。
「うん……なんか、見つかった気がする。」
地上に戻ると、村人たちは大喜びでした。井戸からは再び澄んだ水があふれています。
その夜、サヨはピースケに言いました。
「わたし、帰るね。ちゃんと謝りたい。」
ピースケはゆっくりうなずきました。
「それが一番ですねぇ。きっと伝わりますよ。」
サヨは元気よく手をふって、村をあとにしました。
その背中を見送りながら、ピースケはいつものようにつぶやきます。
「大事なものって、意外と近くにあるものですねぇ。」
月がやさしく村を照らし、水の音が静かに響いていました。




