音の精
それからしばらくして、村には穏やかな日々が戻りました。畑には青々とした野菜が実り、子どもたちの笑い声があちこちに響いていました。
ある朝、いつものように広場に立ったピースケは、少し首をかしげました。
「……あれ?今日はずいぶん静かですねぇ。」
いつもなら元気に走り回っている子どもたちの姿が見えません。村人たちも、どこかそわそわしています。
「どうしたんですか?」とピースケがたずねると、村長が困った顔で言いました。
「実はな、昨夜から村の“音”が消えていくんじゃ。子どもたちの声も、小川のせせらぎも、だんだん小さくなっておる…。」
耳をすませば、たしかに風の音もどこか弱々しいのです。
「なるほど……これはまた、ただごとじゃありませんねぇ。」
ピースケはゆっくり目を閉じ、考えました。そして、はっとしたように顔を上げます。
「音をつかさどる何かが、どこかで困っているのかもしれません。」
「音をつかさどる…?」村人たちは顔を見合わせました。
ピースケは力強く言いました。
「ちょっと行ってきますよ。今度は“音”の様子を見にね。」
ピースケは村のはずれにある深い森へ向かいました。その森は、昔から不思議なことが起こる場所として知られていました。木々の間を進むと、次第に世界がしん…と静まり返っていきます。自分の足音さえ、ほとんど聞こえません。
やがて、森の奥で小さな光を見つけました。
そこにいたのは、透き通るような体をした“音の精”でした。しかし、その姿はどこか弱々しく、今にも消えてしまいそうです。
「これはこれは、大変そうですねぇ。」
ピースケがやさしく声をかけると、音の精はかすれた声で答えました。
「……ぼくの“音の種”が、どこかに散ってしまったんだ…。それがないと、音を生み出せない…。」
「音の種、ですか。」
ピースケはあたりを見回しました。森の中には、小さな光の粒があちこちに落ちています。
「なるほど、これですねぇ。」
ピースケは大きなくちばしと翼を使って、丁寧に光の粒を集め始めました。高い枝の上にあるものはジャンプして取り、草むらに隠れたものはそっとかき分けて見つけます。
やがて、すべての光の粒を集め終えました。
「さあ、これでどうでしょう。」
音の精に手渡すと、光はひとつにまとまり、やわらかな輝きを放ちました。
すると――
チリン。
どこからか、小さな鈴の音が聞こえました。
さらさらと小川の音が戻り、木々がざわめき、遠くから子どもたちの笑い声が聞こえてきます。
音の精は元気を取り戻し、にっこり笑いました。
「ありがとう、ピースケ。君のおかげで、世界に音が戻ったよ。」
ピースケは満足そうにうなずきました。
「いやいや、たいしたことじゃありませんよ。みんなの声がないと、さびしいですからねぇ。」
村に戻ると、再びにぎやかな日常が広がっていました。子どもたちはピースケに飛びつき、大人たちも何度も頭を下げました。
その夜、満天の星の下でピースケはひとりつぶやきました。
「風も音も、大事なものばかりですねぇ。さて、次は何が起こりますかね。」
どこか遠くで、まだ見ぬ不思議が静かに動き出しているとも知らずに――。




