沈没船 その2
赤い光は、
霧の奥でゆらゆら揺れていました。
ギィィィ……。
幽霊船がゆっくり近づいてきます。
ボロボロの帆。
海藻だらけの船体。
そして甲板には――
誰もいない。
サヨが小さく震えました。
「こ、こわい……。」
ショウタも顔が引きつっています。
「ホラー始まったって!!」
ガンツは真剣な顔でした。
「目を離すな。」
ピースケは静かに海を見つめています。
霧のせいで波の音も消えていました。
不気味なくらい静か。
すると――
カン……。
どこからか鐘の音。
エリシアが眉をひそめます。
「この音……。」
クロノワールの目が細くなりました。
「歓迎されてるわけじゃなさそうだ。」
その瞬間。
ザバァァン!!
海面から何かが飛び出しました。
ショウタが絶叫。
「うわぁぁ!!」
現れたのは――
骸骨。
ボロボロの船員服を着たスケルトンです。
しかも五体。
「カタカタカタ!!」
サヨが青ざめます。
「ガイコツ!!」
スケルトン船員たちは、船へよじ登ってきました。
剣を持っている。
完全に敵です。
ガンツが叫びました。
「迎撃だ!」
ベルフェルが青い炎を出します。
ゴォッ!!
しかしスケルトンは止まりません。
「燃えても来るぅぅ!!」
ショウタがパニック。
そのとき。
ピースケが前へ出ました。
巨大な羽を広げます。
「危ないですよぉ。」
ドン!!
羽の一撃。
スケルトン三体、まとめて海へ。
ボチャァァン!!
ショウタが叫びます。
「強ぇぇ!!」
しかし。
海へ落ちたスケルトンたちは――
また泳いで戻ってきました。
「復活するの!?」
クロノワールが低く言います。
「核を壊さないと終わらん。」
エリシアが気づきました。
「胸の青い火です!」
たしかに。
スケルトンたちの胸には、
青い炎が燃えています。
魔王は腕を組みました。
「呪術型アンデッドか。」
ショウタが叫びます。
「説明してる場合か!!」
そのとき――
幽霊船の上。
赤い光がまた強く輝きました。
ギロリ。
そこに立っていたのは――
長い黒コート。
ボロボロの帽子。
そして赤く光る片目。
骸骨船長です。
サヨが声を失いました。
「……船長。」
骸骨船長はゆっくり剣を抜きます。
ギィン。
赤い目がこちらを見つめていました。
『……生者。』
低い声。
海がざわめきます。
『財宝ヲ求メルカ。』
ショウタが小声。
「しゃべった……。」
ガンツが顔をしかめました。
「“霧喰らいの船長”だ……。」
骸骨船長は剣を海へ向けます。
その瞬間。
ゴゴゴゴゴ……!!
海面が盛り上がりました。
サヨが悲鳴。
「うわぁ!?」
海から大量のスケルトン船員が出現。
十体。
二十体。
もっと。
ショウタが絶望します。
「増えたぁぁぁ!!」
ベルフェルが真顔。
「数が多い。」
ガンツが舵を握りました。
「囲まれるぞ!」
そのとき――
ピースケは静かに海を見つめていました。
そして。
「……ん?」
ショウタが振り向きます。
「どうした?」
ピースケは少し首をかしげます。
「この船長さん。」
「?」
「どこか悲しそうですねぇ。」
全員が止まりました。
骸骨船長の赤い目。
たしかに怒りだけではない。
どこか苦しそうにも見えます。
クロノワールが低く言いました。
「未練か。」
風が吹きます。
霧の向こう。
幽霊船の船長は、静かにこちらを見つめていました。
その赤い目の奥に、
何百年も消えなかった“何か”を抱えながら――。




