猫の亜人 その2
チリン――。
澄んだ鈴の音は、森の奥から静かに響いていました。
木々の間を冷たい風が抜けます。
ミィは地図をぎゅっと握りしめました。
「“月の鈴”にゃ……!」
ショウタが嫌そうな顔をします。
「絶対また危ないやつじゃん。」
サヨは逆にわくわくしています。
「でも気になる!」
クロノワールは森をじっと見つめていました。
「この森は“迷いの森”だ。」
ショウタが即答します。
「名前がもう嫌だ。」
ベルフェルが腕を組みました。
「入った者が迷うと言われている。」
エリシアも真面目な顔です。
「方向感覚を狂わせる霧が出るそうですね。」
ミィの猫耳がぺたんとなりました。
「ちょっと怖いにゃ……。」
すると。
ピースケが静かに言いました。
「では、みんなではぐれないように行きましょう。」
その声に、ミィは少し安心した顔になります。
こうして――
“月の鈴”を探す冒険が始まったのでした。
森の中は薄暗く、ひんやりしていました。
落ち葉を踏む音だけが響きます。
チリン。
また鈴の音。
ミィが耳をぴくっと動かしました。
「こっちにゃ!」
みんなで進みます。
しかし――
数分後。
ショウタが立ち止まりました。
「……あれ?」
「どうしました?」
「さっきから同じ木見てね?」
全員が周囲を見回します。
たしかに。
大きく曲がった木。
赤いキノコ。
倒れた切り株。
全部、見覚えがあります。
サヨが不安そうに言いました。
「迷った……?」
その瞬間。
モワァァァ……。
白い霧が森に広がり始めました。
ミィのしっぽが膨らみます。
「にゃっ!?」
クロノワールが低い声で言いました。
「来たな。」
霧はどんどん濃くなり、
仲間の姿さえぼやけ始めます。
ショウタが叫びました。
「ちょ、みんな離れるなよ!?」
しかし。
そのとき――
チリン。
すぐ後ろで鈴の音。
ミィが反射的に振り返りました。
「そこにゃ!」
ぴゅんっと走り出します。
「あっ、ミィ!?」
サヨが手を伸ばしますが間に合いません。
霧の中へ消えてしまいました。
「まずい!」
ピースケたちは急いで追いかけます。
しかし霧は濃く、
方向感覚がおかしくなっていきます。
ショウタが焦りました。
「どっちだよこれ!?」
ベルフェルが炎を出します。
青い火が霧を少し照らしました。
すると。
木の根元に、小さな足跡。
「猫族の足跡だ。」
ピースケがうなずきます。
「追いましょう。」
一行は足跡をたどって進みました。
やがて――
霧が少し晴れます。
そこには、小さな広場がありました。
月明かりが差し込み、
中央には古い石台。
そしてその上に――
銀色の鈴。
チリン……。
静かに揺れています。
ミィは、その前で固まっていました。
「……見つけたにゃ。」
サヨがほっとします。
「よかったぁ!」
しかし。
クロノワールの目は鋭いままでした。
「……いや。」
空気が変わります。
ザワザワ……。
森が揺れました。
すると石台の後ろから、
巨大な影がゆっくり立ち上がります。
金色の目。
長い牙。
月明かりに光る白い毛。
それは――
巨大な白狐でした。
ショウタが青ざめます。
「でっっっか!!」
白狐は静かに鈴を見つめています。
ミィが震える声で言いました。
「“月守り”にゃ……。」
エリシアが小さくつぶやきます。
「鈴の守護獣。」
白狐は低く唸りました。
グルルル……。
風が強く吹きます。
鈴がチリンと鳴りました。
ミィは地図を握りしめます。
「……どうしても必要なんにゃ。」
ピースケが静かに聞きました。
「理由を聞いても?」
ミィは少し黙ります。
そして。
「……病気のおばあちゃんを助けたいにゃ。」
全員が静かになります。
「月の鈴は、“弱った命を癒やす力”があるって聞いたにゃ。」
白狐の金色の目が細くなりました。
ミィは震えながらも前へ出ます。
「お願いにゃ!」
白狐はじっと見つめ返していました。
森が静まり返ります。
チリン――。
鈴の音だけが、静かに夜へ響いていました。




