猫の亜人 その1
秋の風が吹く午後――
ピースケは、いつものように馬車で荷物を運んでいました。
荷台にはリンゴ、かぼちゃ、布袋。
そしてベルフェルの新商品。
『ふわもち悪魔クリームパン』
ショウタが腕を組みます。
「最近ちょっと名前まともになってきたな。」
ベルフェルは真顔でした。
「成長した。」
サヨは笑っています。
「おいしかったよ!」
そのとき――
ガサガサッ!!
道わきの茂みが激しく揺れました。
ショウタがびくっとします。
「な、なんだ!?」
すると。
ぴょんっ!
茂みから飛び出してきたのは――
猫耳。
しっぽ。
フード付きマント。
そして金色の目をした、小柄な女の子。
「にゃっ!?」
サヨが目を丸くしました。
「猫耳!?」
ショウタも叫びます。
「猫の亜人だ!!」
少女は着地した瞬間、ピースケたちを見て固まりました。
「……。」
全員も見つめ返します。
沈黙。
風だけが吹きました。
すると猫の亜人は突然、ぴしっと指を差します。
「そ、そのパンをよこすにゃ!!」
「パン目的かよ!!」
ショウタがツッコミ。
少女はお腹を押さえています。
ぐぅぅぅぅ。
ものすごく鳴りました。
サヨが苦笑します。
「おなかすいてるんだ……。」
猫の亜人は顔を赤くしました。
「う、うるさいにゃ!」
しかし次の瞬間――
ふらっ。
「おっと。」
倒れそうになったところを、ピースケが羽で支えました。
猫の亜人はびっくりして見上げます。
2m超えの巨大ニワトリが、ものすごく優しく支えている。
なかなか不思議な光景です。
ピースケは静かに言いました。
「座りますか?」
数分後。
結局みんなで道端休憩になっていました。
猫の亜人は夢中でクリームパンを食べています。
「おいしいにゃ……。」
ベルフェルが少し得意げです。
「当然だ。」
ショウタが聞きました。
「で、お前誰?」
少女はパンをもぐもぐしながら答えます。
「ミィ。」
「ミィ?」
「旅の猫族にゃ。」
サヨが目を輝かせます。
「旅してるの!?」
ミィはうなずきました。
「宝探ししてるにゃ。」
魔王が腕を組みます。
「宝?」
ミィは小さな地図を取り出しました。
かなりボロボロです。
「“月の鈴”っていう宝物にゃ。」
クロノワールの耳がぴくりと動きます。
「……月の鈴?」
ピースケが気づきます。
「知っているのですか?」
黒猫は静かにうなずきました。
「古い森にあると言われている。」
ミィの目がキラッと光ります。
「ほんとにゃ!?」
ショウタが嫌な予感を覚えました。
「……なんかまた冒険始まりそう。」
そのとき。
ミィのしっぽが突然ぶわっと膨らみました。
「にゃっ!?」
草むらから――
シュルシュル……。
長い影。
大きなヘビが現れたのです。
サヨが悲鳴を上げました。
「へ、ヘビ!!」
ミィはぴょんっとピースケの後ろへ隠れます。
「にゃーーー!!」
ショウタが驚きます。
「猫なのにヘビ苦手なの!?」
「当たり前にゃ!!」
ヘビはじりじり近づいてきます。
しかし。
魔王が前へ出ました。
「フン。」
ギロッ。
魔王がにらんだ瞬間――
ヘビはぴたりと止まりました。
「……。」
そして。
ものすごい勢いで逃走。
サヨが目をぱちぱち。
「帰った。」
ベルフェルがうなずきます。
「魔王顔が怖いからな。」
「なんだと。」
ミィはほっと息を吐きました。
「た、助かったにゃ……。」
そして改めてピースケたちを見回します。
巨大ニワトリ。
元魔王。
悪魔パン屋。
監査天使。
黒猫。
ニワトリ。
どう考えても変な集団です。
ミィは小さく言いました。
「……なんかすごいメンバーにゃ。」
ショウタが笑います。
「オレもずっとそう思ってる。」
そのとき――
チリン。
どこからか、小さな鈴の音が聞こえました。
全員が静かになります。
クロノワールが森の奥を見つめました。
「……。」
ミィが息をのみます。
「今の音……。」
風が木々を揺らしました。
チリン。
もう一度。
月みたいに澄んだ音。
ピースケは静かに馬車を止めます。
「……どうやら。」
穏やかな目が森を見つめました。
「宝探しが始まりそうですねぇ。」




