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猫の亜人 その3

白狐は、じっとミィを見つめていました。


金色の瞳は静かで、


まるで心の奥まで見透かしているようです。


森には風の音しかありません。


ミィは震えながらも、一歩も下がりませんでした。


「……お願いにゃ。」


その声は小さいけれど、本気でした。


白狐はゆっくり口を開きます。


『月の鈴を求める者は多い。』


低く、不思議に響く声。


サヨが小さく息をのみました。


『力を欲する者。富を望む者。』


白狐の尾がゆらりと揺れます。


『だが、お前は違うのか。』


ミィは強くうなずきました。


「おばあちゃんを助けたいだけにゃ。」


白狐はしばらく黙っていました。


するとショウタが小声で言います。


「……なんか試されてる感じ?」


クロノワールが静かにうなずきました。


「月守りは、心を見る。」


そのとき――


白狐の目が、ふっと細くなります。


『ならば証明してみせよ。』


ゴォッ!!


突然、白い炎が森を駆け抜けました。


「うわっ!?」


サヨが驚きます。


炎はミィの前で円を描き、


やがて三つの光の道になりました。


左。


中央。


右。


全部そっくりです。


ショウタが顔をしかめます。


「どれだよ……。」


白狐の声が響きました。


『ひとつは真実への道。』


『ひとつは欲望への道。』


『ひとつは偽りへの道。』


ベルフェルが腕を組みます。


「試練か。」


エリシアも真剣な顔です。


「間違えれば危険ですね。」


ミィは困った顔で三つの道を見比べました。


「わ、わからないにゃ……。」


サヨも悩みます。


「全部同じに見える……。」


すると。


ピースケが静かにしゃがみ込みました。


「……ん。」


地面に、小さな花が咲いています。


中央の道だけ、


花が踏まれていませんでした。


ピースケは穏やかに言います。


「この道だけ、自然が怯えていませんねぇ。」


クロノワールが感心したように目を細めます。


「なるほど。」


ショウタが驚きます。


「そんなのでわかるの!?」


ピースケは少し笑いました。


「荷物運びをしていると、道を見る癖がつきまして。」


ミィはうなずきました。


「……行くにゃ!」


みんなで中央の道を進みます。


すると。


白い炎が静かに消えていきました。


白狐はその様子を見つめています。


やがて道の先へたどり着くと、


そこには小さな泉がありました。


月の光が水面を照らしています。


そして中央に――


銀色の鈴。


さっきよりも強く輝いていました。


チリン……。


やさしい音。


ミィは目を潤ませます。


「……月の鈴。」


しかし白狐はまだ動きません。


『最後に問おう。』


空気が静まり返りました。


『もし鈴を使えば、お前自身の大切な記憶をひとつ失う。』


ミィが固まります。


サヨも息をのみました。


「記憶を……?」


『それでも望むか。』


森が静かになります。


ショウタは思わず言いました。


「やめとけよ……。」


でも。


ミィは震えながら前へ出ました。


「……それでも。」


金色の目が見開かれます。


「おばあちゃんが笑ってくれるなら、いいにゃ。」


その声は、小さいけれど迷いがありませんでした。


風が吹きます。


白狐は静かに目を閉じました。


そして――


『……合格だ。』


チリン。


月の鈴がふわりと浮かび上がります。


銀色の光が、ミィの手の中へ降りました。


その瞬間。


森の空気が変わります。


白狐の巨大な姿も、少しやわらいだように見えました。


ミィは震える手で鈴を抱きしめます。


「ありがとうにゃ……!」


白狐は静かに答えました。


『優しさを忘れるな。』


『それがお前の“道”だ。』


その体は、月の光の中で少しずつ薄れていきます。


最後に長い尾がふわりと揺れ――


白狐は静かに消えていきました。


森には、やさしい鈴の音だけが残ります。


サヨが笑顔になりました。


「やったね!」


ショウタもほっとします。


「今回はマジでいい話だった……。」


ベルフェルがぼそっと言いました。


「最近ずっといい話だ。」


「お前が言うな。」


ミィは鈴を胸に抱きながら、何度も頭を下げます。


「みんな、本当にありがとうにゃ!」


ピースケは静かに笑いました。


「無事見つかってよかったですねぇ。」


月明かりが森を照らします。


帰り道。


ミィのしっぽは、最初よりずっと元気に揺れていました。


どうやらまたひとつ――


誰かの“帰る理由”を、


ピースケたちは運べたようでした。

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