迷子のヒヨコ
ある雨上がりの午後――
ピースケは、いつものように馬車で荷物を運んでいました。
荷台にはパン、野菜、布袋。
そしてベルフェル特製の新商品。
『激辛地獄カレーパン』
ショウタが顔をしかめます。
「名前が不穏すぎる。」
ベルフェルは真顔でした。
「インパクトは重要だ。」
サヨは小さく笑います。
「でもちょっとおいしそう!」
そのとき。
「……ぴぃ。」
かすかな声。
ピースケの足が止まりました。
「ん?」
道の脇の草むらが、小さく揺れています。
「ぴぃ……。」
サヨがしゃがみ込みました。
すると――
草の中から、小さなヒヨコが顔を出したのです。
黄色くて、ふわふわ。
でも羽は雨で少しぬれていました。
サヨが目を丸くします。
「ヒヨコちゃん!」
ヒヨコは不安そうに周囲を見回しています。
「ぴぃ……。」
ピースケは静かに近づきました。
大きさの差がすごい。
2mを超える名古屋コーチンと、手のひらサイズのヒヨコです。
ショウタが言いました。
「親とはぐれたのか?」
ヒヨコはうるうるした目で見上げます。
「ぴぃ……まま……。」
サヨが胸を押さえました。
「かわいそう……!」
ベルフェルも少し困った顔です。
「小さいな。」
魔王が腕を組みます。
「踏みそうで怖い。」
「近づくな絶対。」
ヒヨコはふらふら歩き、
ぴとっ。
ピースケの足にくっつきました。
「ぴぃ。」
全員が静かになります。
ショウタが小声で言いました。
「……親だと思われてる?」
ピースケは少し困ったように笑います。
「そうかもしれませんねぇ。」
するとヒヨコはうれしそうに飛び跳ねました。
「ぴぴっ!」
サヨが笑います。
「なついてる!」
こっこが羽をばさっと広げました。
「ヒヨコを見ると保護欲が出るコケ。」
クロノワールは荷台の上から言います。
「迷子だな。」
ピースケはヒヨコをそっと持ち上げました。
小さくて、あたたかい。
ヒヨコは安心したように目を細めます。
「ぴぃ……。」
ピースケは静かに言いました。
「では、お母さんを探しましょうか。」
こうして――
“ヒヨコのお母さん探し”が始まったのでした。
村へ戻り、みんなで聞き込み開始。
「ヒヨコ見ませんでしたかー?」
サヨが声をかけます。
しかし。
「うーん、見てないねぇ。」 「ニワトリならいるけど。」
なかなか見つかりません。
ヒヨコはピースケの頭の上に乗っていました。
「ぴぃ。」
ショウタが笑います。
「完全に親子じゃん。」
ベルフェルは真剣に考えています。
「特徴はないのか。」
ヒヨコは一生懸命説明しようとしました。
「ぴぃ!ぴぴぃ!」
「わからん。」
「通訳ほしいな……。」
そのとき。
こっこが突然ピクリと反応しました。
「……コケ。」
全員が振り向きます。
こっこは空気の匂いをかいでいました。
「近くにニワトリの匂いがするコケ。」
ショウタが驚きます。
「そんな犬みたいなことできるの!?」
「ニワトリを甘く見るなコケ。」
こっこは走り出しました。
みんなも後を追います。
細い道を抜け、
畑を越え、
古い風車小屋の近くへ。
すると――
「コケェェェーーーッ!!」
ものすごい声が響きました。
大きな白いニワトリが、ものすごい勢いで走ってきます。
ショウタが叫びました。
「速っ!?」
ヒヨコが飛び跳ねました。
「ぴぃぃぃ!!」
白いニワトリは、ヒヨコを見るなり抱きしめるように羽を広げます。
「コケェェ……!」
ヒヨコも必死にぴよぴよ鳴きました。
サヨがほっと息を吐きます。
「お母さんだ!」
どうやら嵐のときにはぐれてしまったようです。
母ニワトリは、何度も頭を下げていました。
「コケ……コケ。」
ピースケも静かにうなずきます。
「無事でよかったですねぇ。」
ヒヨコは最後に振り返りました。
「ぴぃ!」
そして――
ぴょん。
ピースケの頭へ飛び乗ります。
「えっ。」
ヒヨコはそのまま、名残惜しそうにほっぺをすりすり。
ショウタが笑いました。
「完全に懐いてるな。」
サヨも笑顔です。
「また遊びにおいで!」
ヒヨコは元気いっぱいに返事しました。
「ぴぃーっ!」
夕焼けの中。
親子のニワトリは並んで帰っていきます。
その小さな背中を見送りながら、
ピースケは静かに思いました。
“帰る場所がある”というのは、
とても幸せなことなのだと。




