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ダンジョン その1

数日後――


ピースケは、いつものように馬車で荷物を運んでいました。


荷台には野菜、パン、布袋、それから魔王がなぜか大量に買ったキャベツ。


ショウタがあきれ顔で言います。


「なんでそんなキャベツ買ったんだよ。」


魔王は腕を組みました。


「うまかったからだ。」


サヨは笑っています。


クロノワールは荷物の上で丸くなったまま、小さく言いました。


「平和だな。」


その瞬間――


ゴゴゴゴゴ……。


地面が揺れました。


「うわっ!?」


馬車がガタガタ揺れます。


ピースケが急停止しました。


すると。


道の真ん中が、ゆっくり割れ始めたのです。


ズズズズズ……。


土が左右に開き、黒い穴が姿を現します。


その奥には――


石の階段。


冷たい風。


そして、不気味な暗闇。


ショウタが固まりました。


「……。」


サヨもぽかん。


「……。」


魔王が静かにつぶやきます。


「ダンジョンだな。」


「ダンジョンだーーーっ!?」


ショウタが叫びました。


地面の裂け目の上には、ぼんやりと青い文字が浮かんでいます。


『忘却の地下迷宮』


サヨが不安そうに読み上げます。


「ぼうきゃく……?」


クロノワールの金色の目が細くなりました。


「また“境目”の影響か。」


ピースケは静かにダンジョンを見つめます。


奥から吹いてくる風は、どこか懐かしく、少し寂しい匂いがしました。


ショウタが言います。


「いやいやいや、絶対ヤバいやつだろ!」


魔王は腕を組んでうなずきました。


「うむ。たぶんヤバい。」


「お前は頼もしいのか適当なのかどっちなんだよ!」


そのとき――


ヒュゥゥゥ……。


ダンジョンの奥から、かすかな声が聞こえました。


『……たすけて。』


全員が静まり返ります。


サヨが小さく言いました。


「今、聞こえた……。」


ピースケはゆっくり目を閉じます。


そして静かに言いました。


「……誰かいますねぇ。」


クロノワールが低い声を出しました。


「“忘却の地下迷宮”は危険だ。」


「知ってるのか?」


「ああ。」


黒猫はダンジョンを見つめます。


「入った者の“大事な記憶”を奪う。」


ショウタの顔が青くなりました。


「めちゃくちゃ嫌なダンジョンじゃねーか!」


ピースケは少し考え込みます。


記憶。


忘却。


その言葉は、自分の記憶喪失のことも思い出させました。


サヨが不安そうに聞きます。


「どうするの?」


そのとき、また声が聞こえます。


『……だれか。』


とても弱い声。


まるで、消えかけているみたいな。


ピースケは静かにうなずきました。


「……行きましょう。」


ショウタが叫びます。


「行くの!?」


「困っている人がいるようですからねぇ。」


魔王が立ち上がりました。


黒いマントがばさりと揺れます。


「よかろう。我も行く。」


ショウタがため息をつきます。


「はぁ……結局こうなるんだよな。」


サヨはぎゅっと帽子を押さえました。


「でも、助けたい。」


クロノワールは静かに前へ歩きます。


「なら急げ。」


ダンジョンの奥から、冷たい風が吹きました。


まるで――


誰かの記憶が、少しずつ消えていくみたいに。


ピースケは馬車を道の脇に止め、ゆっくり暗闇を見つめます。


「さて。」


そして、いつもの穏やかな声で言いました。


「久しぶりの地下探検ですねぇ。」


ショウタがつっこみます。


「そんな軽いノリで行く場所じゃないだろ!!」


その声が、暗いダンジョンの入り口へ吸い込まれていきました。


こうして――


ピースケたちは、“忘却の地下迷宮”へ足を踏み入れることになったのでした。

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