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魔王 その2

魔王が世界征服をやめると言い出してから、数日後――


村では妙な光景が見られるようになっていました。


「……で、これをこう積めばいいのか?」


黒いマント姿の魔王が、真剣な顔で荷物を運んでいたのです。


ショウタが腕を組みます。


「なんで普通に働いてんだよ。」


魔王は木箱を抱えながら答えました。


「世話になったからな。」


サヨはにこにこです。


「魔王さん、力持ち!」


「フハハハ!当然だ!」


ドスン!!


巨大な木箱を軽々と積み上げます。


村人たちは最初こそ怯えていましたが――


「……あれ?意外とちゃんとしてる?」 「野菜運ぶのめちゃくちゃ早いぞ。」


だんだん慣れてきました。


ピースケはその様子を見ながら、穏やかに言います。


「案外、向いているかもしれませんねぇ。」


魔王は少し誇らしげです。


「うむ。」


そのとき――


ヒュゥゥゥ……。


急に冷たい風が吹きました。


空が、ほんの少し暗くなります。


ピースケの目が細まりました。


「……。」


クロノワールが、いつの間にか荷台の上に座っています。


「来るぞ。」


ショウタが振り返りました。


「うわっ!?いたのか!」


クロノワールは空を見上げています。


その金色の目が、少し鋭い。


「“忘れられた夜”の余波だ。」


サヨが不安そうに聞きます。


「また何か来るの?」


クロノワールは静かにうなずきました。


「境目がまだ不安定だ。」


すると――


村の広場の中央に、黒いもやが現れました。


ゆらゆら揺れながら、少しずつ形を作っていきます。


村人たちがざわつきました。


「な、なんだ!?」 「魔物か!?」


魔王が前へ出ます。


「下がっていろ。」


黒い翼を広げる姿は、やはり迫力があります。


しかし。


もやの中から現れたのは――


ボロボロのぬいぐるみでした。


「……え?」


ショウタが間抜けな声を出します。


小さなくまのぬいぐるみ。


片目が取れかけ、ずいぶん古びています。


でも――


そのぬいぐるみ、歩いていました。


てちてち、と小さく。


サヨが目を丸くします。


「くまさん……?」


ぬいぐるみは不安そうに周囲を見回し、小さな声で言いました。


『……ここ、どこ。』


ショウタが頭を抱えます。


「最近こういうの多すぎだろ……。」


クロノワールが低くつぶやきました。


「忘れられた物だ。」


ピースケはゆっくり近づきます。


「……長い間、誰にも思い出されなかったのでしょうねぇ。」


ぬいぐるみはうつむきました。


『……ぼく、捨てられたの?』


その声は、とても小さくて寂しそうでした。


サヨがすぐにしゃがみ込みます。


「そんなことないよ!」


ぬいぐるみは顔を上げました。


「……ほんと?」


サヨはやさしく抱き上げます。


「だって、こんなに大事に使われてるもん。」


たしかに。


ボロボロだけど、何度も縫い直された跡があります。


大切にされていた証拠です。


ピースケは静かに言いました。


「“忘れられた”のではなく、“会えなくなった”のかもしれませんねぇ。」


風がやさしく吹きます。


その瞬間――


ぬいぐるみの胸元が、ほんのり光りました。


そして。


『……ミナ。』


「え?」


『ミナって子が、いつも一緒だった。』


サヨがうれしそうに言います。


「名前思い出した!」


クロノワールは静かに目を閉じました。


「つながりが残っている。」


魔王が腕を組みます。


「ならば、その“ミナ”を探せばよいのだな。」


ショウタが笑いました。


「なんか普通に仲間になってるな魔王。」


「うるさい。」


でも、少し照れくさそうです。


ピースケはぬいぐるみを見つめながら、静かに言いました。


「では――今度は、“持ち主”を探す旅ですねぇ。」


ぬいぐるみは小さくうなずきます。


『……会いたい。』


夕方の風が、村をやさしく吹き抜けました。


忘れられたもの。


帰りたいもの。


そして、それをつなぎ直す者たち。


ピースケたちの物語は、まだまだ続いていくのでした。

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