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魔王 その1

ある晴れた日の午後。


ピースケは、いつものように馬車で荷物を運んでいました。


荷台には野菜、布、木箱、それからサヨが作ったキャベツのお菓子も積まれています。


ショウタは荷物の上で寝転びながら言いました。


「最近ちょっと平和じゃね?」


サヨも笑います。


「うん、今日は何も起きな――」


ドゴォォォン!!


突然、空が真っ黒になりました。


「うわぁっ!?」


地面が揺れ、風が渦を巻きます。


馬車の前の道に、巨大な黒い魔法陣が現れました。


そこから――


ズゥゥン……。


大きな影が姿を現します。


黒いマント。


赤く光る目。


頭には二本の角。


背中には巨大な黒い翼。


ショウタが固まりました。


「……。」


サヨも口をぱくぱくさせます。


「……。」


そして二人同時に叫びました。


「魔王ーーーっ!!?」


その存在は、低い声で笑います。


「フハハハハ!!」


空気が震えました。


近くの木の葉がばさばさ揺れます。


「我こそは、闇の支配者!世界を恐怖に包む者!」


ピースケは静かに見上げました。


「これはまた、大物ですねぇ。」


魔王はゆっくり腕を広げます。


「人々よ、震え――」


グゥゥゥゥ……。


突然、お腹の音がしました。


沈黙。


ショウタが瞬きします。


「……え?」


魔王も固まりました。


「……。」


サヨが小さく言います。


「おなか鳴った……?」


魔王は咳払いしました。


「ごほん。今のは気にするな。」


しかし。


グゥゥゥゥ……。


また鳴りました。


しかも今度はかなり大きい。


ショウタが吹き出します。


「ダメだ、めっちゃ腹減ってるじゃん!!」


「笑うなぁ!!」


魔王が顔を赤くします。


ピースケは少し困ったように笑いました。


「……お昼はまだですか?」


魔王は目をそらしました。


「三日ほど食べておらん。」


サヨがびっくりします。


「三日!?」


ショウタがあきれ顔です。


「世界征服する前に飯食えよ……。」


魔王は悔しそうに言いました。


「城が崩れてな……。」


「えっ。」


「部下も逃げた。」


「えっ。」


「食料庫も空だ。」


「魔王なのに!?」


ピースケは静かに馬車を止めました。


そして荷台から、大きな包みを取り出します。


「どうぞ。」


魔王が目を丸くしました。


「……なんだこれは。」


「キャベツパンです。」


サヨが誇らしげに言います。


「わたし作ったの!」


魔王は警戒しながら受け取ります。


「……毒は入っておらぬだろうな。」


ショウタが言います。


「そんな回りくどいことしねーよ。」


魔王は恐る恐る一口かじりました。


もぐ。


その瞬間――


「……!!」


目を見開きます。


「うまい。」


サヨがぱっと笑顔になりました。


「ほんと!?」


魔王は夢中で食べ始めます。


「うまい!なんだこれは!ふわふわしておる!」


ショウタが笑います。


「完全に食レポだな。」


しばらくして。


魔王は全部食べ終わると、満足そうに大きく息を吐きました。


「……生き返った。」


ピースケは穏やかに言います。


「それはよかったです。」


魔王はしばらく黙っていましたが、やがてぽつりと言いました。


「……人間は、もっと冷たいものだと思っていた。」


風が静かに吹きます。


ピースケは荷台に寄りかかりながら答えました。


「まあ、いろいろいますからねぇ。」


サヨが笑います。


「おなかすいてる人は助けるよ!」


ショウタも肩をすくめました。


「世界征服とかされるのは困るけど。」


魔王は少し考え込みます。


そして、小さく言いました。


「……世界征服、やめるか。」


「軽いな!?」


ショウタがつっこみます。


魔王は真面目な顔で言いました。


「腹が減ると、よくない考えになる。」


ピースケは静かにうなずきました。


「それは案外、本質かもしれませんねぇ。」


魔王は空を見上げます。


黒雲は、いつの間にか消え始めていました。


「……お前たち、変わっているな。」


ピースケはくすっと笑います。


「よく言われます。」


そのとき――


ぐぅ。


今度はショウタのお腹が鳴りました。


サヨが笑います。


「あ、ショウタも!」


「うるせー!」


魔王まで吹き出しました。


さっきまで世界を恐怖に包みそうだった存在が、今は普通に笑っています。


ピースケは空を見上げました。


青空が広がっています。


どうやら今日は、“戦いの日”ではなく――


“お昼ごはんの日”だったようでした。

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