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嵐 その3

夜が深まるころ――


嵐は少しだけ弱まっていました。


雨はまだ降っていますが、さっきまでの激しい風はおさまっています。


馬小屋の中では、みんなが準備をしていました。


ショウタはランタンを確認します。


「よし、火ついた。」


サヨは毛布をたたみながら言いました。


「ほんとに外行くの?」


ピースケは静かにうなずきます。


「ええ。“帰る場所”を探すには、歌をたどるしかなさそうですからねぇ。」


風の存在は、扉の近くで静かに揺れていました。


以前より少しだけ輪郭がはっきりしています。


『……ごめんなさい。』


突然、その存在が言いました。


ショウタが首をかしげます。


「なにが?」


『……ぼくのせいで、嵐になる。』


サヨが驚きます。


「えっ!?」


風の存在は小さく縮こまりました。


『……さびしくなると、風が荒れる。』


ピースケはやさしく答えます。


「あなたが悪いわけではありませんよ。」


『……でも。』


「長い間、帰れなかったのでしょう?」


風は静かにうなずきました。


ピースケはゆっくり言います。


「寂しさは、時々まわりを揺らしてしまうものです。」


ショウタがぽつり。


「……なんか、わかる気する。」


サヨも小さくうなずきました。


しばらく静かな時間が流れます。


そして――


ピースケが立ち上がりました。


「では、行きましょうか。」


外へ出ると、夜の世界は雨に濡れて光っていました。


雲の切れ間から、少しだけ月明かりが見えます。


風の存在が、ゆっくり前へ進みました。


♪ ラァァ……ラァ……


歌声が、山のほうへ流れていきます。


「こっちコケ!」


こっこが先頭を飛び跳ねながら進みます。


ぬかるんだ道を越え、森を抜け、丘を登っていく三人と一羽。


やがて――


古い風車小屋が見えてきました。


ボロボロですが、まだ形は残っています。


ショウタが息をのみます。


「……なんだここ。」


風の存在が、ふらりと前へ出ました。


『……ここ。』


ピースケはゆっくり周囲を見渡します。


風車は止まったまま。


けれど、どこか懐かしい空気が漂っていました。


サヨが小さく言います。


「ここが……帰る場所?」


その瞬間――


カタン。


風車が、ほんの少しだけ動きました。


風は吹いていません。


なのに。


ギ……ギギ……。


ゆっくり、ゆっくり羽が回ります。


風の存在が震える声で言いました。


『……思い出した。』


その体から、淡い光がこぼれ始めます。


ショウタが驚きます。


「うおっ!?」


風の存在は、風車を見上げながら言いました。


『ぼくは……ここで、風を回してた。』


『みんなが困らないように。』


ピースケは静かにうなずきます。


「風車守り、だったのですねぇ。」


『……でも、嵐の日に……。』


言葉が途切れます。


そのとき。


ピースケの中に、また記憶が流れ込みました。


――昔。


――嵐の夜。


――倒れそうな風車。


――誰かを助けようとしていた、小さな風の存在。


ピースケは目を見開きます。


「……あなたも、“運んでいた”んですねぇ。」


風の存在が振り返りました。


『……え?』


「風を。」


ピースケはやさしく笑います。


「人の暮らしを支える、大事な風を運んでいたのでしょう。」


風の存在の光が、少しずつあたたかくなっていきます。


サヨがうれしそうに言いました。


「帰ってこれたんだね!」


『……うん。』


ショウタも笑います。


「よかったじゃん。」


その瞬間――


ふわぁっ。


風車が勢いよく回り始めました。


強い風ではありません。


やさしく、あたたかい風。


雨雲が少しずつ流れ、月明かりが広がっていきます。


風の存在は、静かに空へ浮かび上がりました。


『……ありがとう。』


その声は、もう寂しそうではありませんでした。


『やっと……帰れた。』


光はゆっくり空へ溶けていきます。


そして最後に――


やさしい風だけが残りました。


サヨが空を見上げます。


「……いっちゃった。」


ピースケは静かにうなずきました。


「ええ。でも、もう迷ってはいませんよ。」


ショウタが深呼吸します。


「なんか……今回は静かな話だったな。」


こっこも羽をたたみながら言いました。


「いい風コケ。」


回り続ける風車。


やさしく吹き抜ける夜風。


ピースケは空を見上げ、静かにつぶやきました。


「帰る場所があるというのは、いいことですねぇ。」


月が雲の向こうから顔を出します。


嵐は去り、世界は静かな夜へ戻っていました。


そして――


またひとつ、“迷っていたもの”が、ちゃんと帰ることができたのでした。

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