↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/1950

嵐 その2

嵐はますます激しくなっていきました。


バンッ!バンッ!


風が馬小屋の壁を叩き、窓がガタガタと揺れます。


けれど、その音の奥から――


♪ ラァァ……ラァァ……


不思議な歌声は、途切れずに聞こえていました。


サヨがピースケのそばに寄ります。


「……なんか、さみしい歌。」


こっこも羽を小さく震わせました。


「昔、おばあちゃんから聞いたコケ……。」


ショウタが振り向きます。


「なんて?」


「“嵐のうた”が近づくと、空で迷ったものが帰ってくるコケ。」


「空で迷ったもの?」


ピースケは静かに考え込みます。


「……風に残った記憶、かもしれませんねぇ。」


そのとき――


ゴォォォォ!!


突然、馬小屋の扉が勢いよく開きました。


「うわっ!?」


強風と雨が吹き込み、干し草が舞い上がります。


そして。


扉の向こうに――


“誰か”が立っていました。


長いマントのように雨をまとい、輪郭が風に揺れています。


顔ははっきり見えません。


ただ、その周囲だけ空気が渦を巻いていました。


サヨが息をのみます。


「……だれ?」


その存在は、静かに歌っていました。


♪ ラァァ……ラァ……


ピースケはゆっくり立ち上がります。


右足の痛みも忘れて、一歩前へ。


「あなたが、“嵐のうた”を歌っているのですか。」


歌が止まりました。


風だけが吹き荒れます。


やがて、その存在は小さな声で言いました。


『……見つからない。』


ショウタが顔をしかめます。


「なにが?」


『……帰る場所。』


その声は、風の中に消えそうなくらい弱く、寂しそうでした。


ピースケの目がやさしく細まります。


「……迷っているのですねぇ。」


存在は静かにうなずきます。


『ずっと……空をさまよっている。』


その瞬間。


ピースケの頭に、前世の記憶がよぎりました。


――嵐の夜。


――誰かを探して、風の中を歩いた自分。


「……。」


ピースケは静かに息を吐きます。


ショウタが小声で聞きました。


「なんかわかったのか?」


「ええ。」


ピースケは、その存在に向かってやさしく言いました。


「あなたは、“帰れなかった風”なんですねぇ。」


風が、一瞬だけ静かになります。


存在は小さく震えました。


『……帰りたい。』


サヨが胸の前で手をぎゅっと握ります。


「かわいそう……。」


こっこも言いました。


「ずっとひとりだったコケ……。」


ピースケは少し考えてから、ゆっくりうなずきます。


「では――帰り道を探しましょう。」


ショウタが目を丸くします。


「探せるのか!?」


「たぶん、“歌”に手がかりがあります。」


ピースケは耳をすませました。


嵐の音。


雨音。


そして、その奥にある、かすかな旋律。


「……この歌、どこかへ向かっています。」


存在が顔を上げます。


『……わかるの?』


「ええ。」


ピースケは静かに笑いました。


「私は、“運び手”ですからねぇ。」


その言葉に、風がふわりと揺れました。


まるで――少し安心したように。


外では嵐が続いています。


けれど馬小屋の中には、不思議とあたたかな空気がありました。


ショウタが立ち上がります。


「よし。じゃあ、嵐が弱くなったら探しに行くか。」


サヨも元気よくうなずきました。


「うん!」


こっこも羽をばさっと広げます。


「まかせるコケ!」


風の存在は、静かに三人と一羽を見つめていました。


その目には――


ほんの少しだけ、希望の光が宿り始めていたのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。