嵐 その1
次の日の朝。
空はどんよりと暗く、厚い雲が村の上をおおっていました。
ゴロゴロ……。
遠くで雷の音も聞こえます。
ピースケは馬小屋の前で空を見上げました。
「……これは、なかなかの嵐になりそうですねぇ。」
その瞬間――
ビュオオオォォ!!
強い風が吹き抜け、干してあった布がばたばたと暴れます。
ショウタが走ってきました。
「うわっ、風やばっ!」
サヨも帽子を押さえながらやってきます。
「飛ばされそう~!」
ピースケは静かにうなずきました。
「ええ、今日の荷物運びはお休みですねぇ。」
ショウタが驚きます。
「お、珍しくちゃんと休むんだ。」
「馬車ごと飛ばされたくありませんからねぇ。」
その言葉の直後――
バリバリッ!!
空が光り、大きな雷が落ちました。
サヨがびくっとします。
「きゃっ!」
ピースケはやさしく言いました。
「大丈夫ですよ。」
そして三人は、馬小屋の中へ避難することにしました。
外では嵐が荒れ狂っています。
雨が屋根を激しく叩き、風がうなり声のように吹き抜けます。
けれど馬小屋の中は、ほんのりあたたかく、干し草のにおいがしていました。
ショウタは木箱に座って言います。
「なんか、こういうの久しぶりだな。」
サヨもうなずきます。
「外はすごいのに、中は安心する。」
ピースケは干し草の上に座りながら、静かに笑いました。
「嵐の日は、“止まる日”なのかもしれませんねぇ。」
ゴロゴロ……。
雷がまた響きます。
しばらく三人は、雨音を聞きながらぼんやりしていました。
すると――
コンコン。
馬小屋の扉が鳴りました。
「ん?」
ショウタが開けると――
そこには、びしょぬれのこっこがいました。
「た、大変コケ~!!」
「うわっ!?ずぶぬれじゃん!」
こっこは羽をぶるぶる震わせます。
「風強すぎコケ!飛ばされるかと思ったコケ!」
ピースケは少し笑います。
「それは災難でしたねぇ。どうぞ中へ。」
「助かるコケぇ……。」
こっこは干し草の上に倒れ込みました。
そのとき――
ヒュゥゥゥ……。
風の音に混じって、どこか変な音が聞こえました。
ショウタが顔を上げます。
「……なんか聞こえね?」
サヨも耳をすませました。
「うん……。」
まるで誰かが、遠くで歌っているような声。
風に乗って、かすかに聞こえてきます。
こっこが小さく震えました。
「……“嵐のうた”コケ。」
ピースケの目が細くなります。
「知っているんですか?」
こっこはうなずきました。
「昔から、嵐の夜にだけ聞こえるコケ……。」
外では雨がさらに強くなります。
ゴォォォォ……。
風が村を包み込み、空が青白く光りました。
その歌声は、少しずつ近づいてきます。
サヨが不安そうにピースケを見ました。
「……また何か起きるの?」
ピースケは静かに耳をすませます。
そして――
小さくつぶやきました。
「……悲しそうな歌ですねぇ。」
嵐の音の向こう。
見えない誰かが歌う、不思議な“嵐のうた”。
その正体はまだ分かりません。
けれど――
この嵐の夜が、新しい物語の始まりになることだけは、確かでした。




