前世の記憶 その3
鐘の音が、静かに塔の中へ響いていました。
ゴォォォン……。
金色の光の中に立つ人影。
その姿はぼんやりしているのに、不思議とはっきり“懐かしい”と感じます。
ピースケは思わず一歩前へ出ました。
「……あなたは、誰なんですか。」
人影は静かに微笑みます。
『君は、まだ全部を思い出していないんだね。』
ショウタが小声で言いました。
「なんか重要そうな雰囲気だな……。」
サヨは少し緊張しながらピースケを見ています。
人影はゆっくり話し始めました。
『昔――とても昔。』
『君は、“運び手”だった。』
その瞬間。
ピースケの頭の奥に、映像が流れ込みました。
広い草原。
大きな荷車。
風に揺れる長い草。
そして――
若い旅人たちと笑いながら歩く、一羽の大きな鳥。
「……!」
ピースケがふらりとよろけます。
「おい、大丈夫か!?」
ショウタが支えました。
ピースケは額を押さえながら、息を整えます。
「……見えました。」
サヨが聞きます。
「前世?」
「ええ……おそらく。」
ピースケはゆっくり顔を上げました。
「私は、いろんな場所へ“想い”を運んでいたようです。」
「想い?」
人影がうなずきます。
『物だけじゃない。』
『手紙、歌、記憶、約束――』
『人と人をつなぐものを、君は運んでいた。』
塔の中に静かな風が吹きました。
ピースケの目が少し揺れます。
「……だから今も、“つながり”を大事にしているのでしょうか。」
『きっとね。』
その声は、どこか嬉しそうでした。
ショウタが腕を組みます。
「でもさ、それと今どう関係あるんだ?」
人影は、少しだけ真剣な声になりました。
『……君は、約束を残した。』
「約束……?」
その瞬間。
鐘が強く鳴ります。
ゴォン!!
塔全体が光に包まれました。
そしてピースケの中に、さらに強い記憶が流れ込みます。
――嵐の夜。
――崩れそうな橋。
――誰かを逃がすために、荷車を押す自分。
そして。
泣きそうな顔で、自分を見ている“誰か”。
『また、いつか会おう。』
そこで記憶は途切れました。
ピースケはしばらく動きませんでした。
やがて、小さくつぶやきます。
「……私は。」
声が少し震えています。
「誰かとの約束を、忘れていたんですねぇ。」
サヨが心配そうに近づきます。
「ピースケ……。」
人影は静かに言いました。
『忘れていたわけじゃない。』
『長い時間の中で、眠っていただけ。』
ピースケはゆっくり目を閉じます。
そして――
ふっと笑いました。
「……なるほど。」
ショウタが聞きます。
「何かわかったのか?」
「ええ。」
ピースケは静かにうなずきました。
「私は昔から、“誰かを運ぶ役目”だったようです。」
荷物だけじゃない。
気持ちも、記憶も、つながりも。
ずっと運び続けていた。
だから今も、自然と人や不思議な存在たちの間に立っているのかもしれません。
そのとき――
人影の光が、少しずつ薄れていきました。
サヨがあわてます。
「消えちゃうの!?」
人影はやさしく笑います。
『もう、君は歩けるから。』
ピースケはまっすぐ人影を見ました。
「……あなたは、昔の仲間ですか?」
少しの沈黙。
そして。
『それは、またいつか思い出すよ。』
最後に、人影は静かに言いました。
『おかえり、運び手。』
ふわり、と光がほどけ――
人影は消えました。
塔の中には静けさだけが残ります。
ショウタがぽつり。
「……なんか、すげー話だったな。」
サヨもうなずきます。
「ピースケ、昔からピースケだったんだね。」
ピースケは少し笑いました。
「ええ、どうやら“運ぶのが好き”なのは昔からのようです。」
そして、塔の外へ出ます。
夕日が草原を赤く染めていました。
風が吹き、遠くで鐘が小さく鳴ります。
ゴォォン……。
ピースケは空を見上げ、静かにつぶやきました。
「……まだ、思い出していないことがありそうですねぇ。」
ショウタが笑います。
「また冒険増えるやつじゃん。」
「ええ、たぶん。」
サヨも元気よく言いました。
「でも、みんなで行けばだいじょうぶ!」
ピースケはやさしくうなずきます。
「そうですねぇ。」
長い時間を越えて続いてきた“つながり”。
その先に、まだ知らない物語が待っています。
そして――
運び手ピースケの旅は、これからも続いていくのでした。




