前世の記憶 その2
次の日の朝。
雨はすっかり上がり、村にはやわらかな朝日が差し込んでいました。
しかし――
ピースケは少し寝不足でした。
「……いやぁ、妙な夢を見ましてねぇ。」
馬車の横で伸びをしながら、ぼんやりしています。
ショウタがパンをかじりながら言いました。
「また前世のやつ?」
「ええ、おそらく。」
サヨも興味津々です。
「どんな夢だったの?」
ピースケは少し考え込みます。
「……“鐘の音”が聞こえました。」
「鐘?」
「ええ。とても大きな鐘です。」
そして。
「私は、その音を聞きながら、誰かを待っていました。」
ショウタが首をかしげます。
「誰を?」
ピースケは静かに首を振ります。
「そこまでは思い出せませんでした。」
そのとき――
ゴォォォン……。
遠くから、低い音が響きました。
三人が同時に顔を上げます。
「……え?」
村の外れの山のほうからです。
もう一度。
ゴォォォン……。
サヨが目を丸くします。
「今の……鐘?」
ピースケの表情が変わりました。
いつもの穏やかな顔ではありません。
驚きと、懐かしさが混ざったような目。
「……まさか。」
ショウタが立ち上がります。
「知ってるのか?」
ピースケはゆっくりうなずきました。
「夢で聞いた音と、同じです。」
風が静かに吹き抜けます。
その音は、どこか胸の奥に響くようでした。
サヨが不安そうに言います。
「行くの……?」
ピースケは少しだけ空を見上げ、それから笑いました。
「ええ、気になりますからねぇ。」
ショウタがため息をつきます。
「結局行くんだよなぁ。」
「いつものことですねぇ。」
こうして三人は、鐘の音がした山へ向かうことになりました。
道は細く、森の奥へ続いています。
鳥の声も少なく、どこか静かな場所。
やがて――
木々の向こうに、古い建物が見えてきました。
石でできた、小さな塔。
その上に、大きな鐘があります。
サヨが小声で言いました。
「こんなの、村の近くにあったんだ……。」
ショウタも驚きます。
「誰も知らなかったのか?」
ピースケは塔を見上げたまま、静かに言いました。
「……知っています。」
「え?」
「……いや、“知っている気がする”ですねぇ。」
そのとき。
ゴォォォン……。
鐘が、ひとりでに鳴りました。
風もないのに。
サヨがピースケの後ろに隠れます。
「うぅ……なんか怖い……。」
しかしピースケは、ゆっくり前へ進みました。
まるで、その場所に呼ばれているように。
塔の入り口には、古びた扉。
ピースケがそっと触れた瞬間――
ギィィ……。
扉が自然に開きました。
「うわっ!?」
ショウタが飛びのきます。
中は薄暗く、ひんやりしています。
そして壁には、古い絵が描かれていました。
そこにいたのは――
大きな鳥。
荷車。
広い草原。
そして、大きな木。
ピースケが息をのみます。
「……これは。」
サヨが絵を指さしました。
「これ……ピースケに似てる。」
たしかに、その鳥は今のピースケによく似ています。
ただ、少し細く、羽の色も違いました。
絵の下には、古い文字。
しかし、不思議なことに――
ピースケだけは読めました。
「“運ぶ者は、再び鐘のもとへ帰る”……。」
ショウタが驚きます。
「読めるのか!?」
ピースケ自身も驚いた顔です。
「……自然に意味が入ってきました。」
その瞬間――
塔の奥で、ふわりと光が灯りました。
淡い金色の光。
そして、その中に――
ぼんやりと、人影が浮かび上がります。
サヨが息をのみました。
「だ、だれ……?」
その人影は、やさしく微笑んでいました。
そして、静かな声で言います。
『……やっと来たね。』
ピースケの目が大きく開かれます。
聞き覚えのある声。
雨の日に、一瞬だけ聞こえた声。
ピースケは小さくつぶやきました。
「……あなたは。」
人影は、静かにうなずきます。
『長い時間だった。』
鐘の音が、また響きました。
ゴォォォン……。
その音とともに――
ピースケの“前世の記憶”が、さらに動き始めようとしていたのでした。




