温泉 その1
ある日のこと。
ピースケ、サヨ、ショウタの三人は、村から少し離れた山のふもとにやってきていました。
もくもくと白い湯気が立ちのぼるその場所――
温泉です。
「うわー!!ほんとにあったんだ!」
サヨが目を輝かせます。
ショウタも周りを見回して言いました。
「こんなとこにあったのかよ。知らなかったわ。」
ピースケはのんびりと湯気を眺めながら、
「ええ、どうやら地震のあとに湧き出したようですねぇ。」
「地震で温泉って出るもんなのか……?」
「たまにありますねぇ。」
そんな話をしながら、三人はさっそく温泉へ。
――しばらくして。
「はぁぁぁぁぁ……。」
ショウタが思いっきり声をもらしました。
「なんだこれ……めっちゃ気持ちいい……。」
サヨも肩までお湯につかって、にこにこしています。
「あったかい~……。」
そして、ひときわ大きな影が、湯気の向こうでゆったりとくつろいでいました。
ピースケです。
「いやぁ……これはいいですねぇ……。」
翼を広げて、のびのびと温泉に浸かっています。
「足の具合も、だいぶ楽になりますねぇ。」
ショウタがちらっと見ます。
「でけーから風呂も狭く見えるな……。」
「失礼ですねぇ。」
そのとき――
コポコポ……。
温泉の中央あたりから、小さな泡が出てきました。
サヨが首をかしげます。
「ん?」
ポコッ。
何かが顔を出しました。
「ぷはっ!」
「えっ!?」
現れたのは――
丸くて、つるんとした、小さな“お湯のかたまり”みたいな存在。
ショウタが目を丸くします。
「……また出たな、不思議なやつ。」
ピースケは穏やかに言いました。
「温泉の精、といったところでしょうかねぇ。」
その小さな存在は、ぷかぷか浮かびながら言いました。
「やっと来た~!お客さん~!」
サヨがうれしそうに近づきます。
「あなた、だれ?」
「ぼく?ここ守ってるやつ!」
ショウタが笑います。
「守ってるって……何から?」
温泉の精は少し考えてから、
「さびしいのから!」
と、元気よく言いました。
三人は一瞬きょとんとして――
思わず笑いました。
ピースケがやさしく言います。
「なるほど、それは大事なお仕事ですねぇ。」
温泉の精はぷかぷかと回ります。
「うん!だから、にぎやかになるといいお湯になる!」
その瞬間――
じわっ、とお湯がさらにあたたかくなりました。
ショウタが驚きます。
「うお、なんかちょっと温度変わったぞ!?」
サヨも笑います。
「ほんとだ!気持ちいい!」
ピースケは満足そうにうなずきました。
「ええ、いい“つながり”ができていますねぇ。」
しばらくして――
三人と一匹(?)は、すっかりくつろいでいました。
ショウタは岩に寄りかかりながら言います。
「なんかさ、こういう平和なの、久しぶりな気がする。」
サヨもうなずきます。
「うん、なんにも起きないのもいいね。」
ピースケは目を細めて言いました。
「ええ、何も起きない時間も、大切ですからねぇ。」
そのとき――
温泉の精がぽつりとつぶやきました。
「……でもね。」
「ん?」
「たまに、上のほう……ちょっとだけ冷たくなるんだ。」
ショウタが眉をひそめます。
「冷たく?」
ピースケは静かに空を見上げました。
湯気の向こうに、少しだけ曇った空。
「……それは少々、気になりますねぇ。」
サヨが不安そうに言います。
「また何かあるの……?」
ピースケは、ふっと笑いました。
「さて、どうでしょうねぇ。」
でもその目は、ほんの少しだけ真剣でした。
あたたかい温泉。
やさしい時間。
けれどその向こうで、また新しい何かが、静かに動き始めているようでした。
――それでも今は。
三人はゆっくりと、お湯に身をゆだねます。
ぽかぽかとしたぬくもりの中で、笑い声が静かに広がっていきました。




