温泉 その2
温泉でのんびりしたあと――
三人は岩に座って、湯気の向こうの山をぼんやり眺めていました。
「ふぅ……生き返った……。」
ショウタがぐったりしながら言います。
サヨもにこにこです。
「また来たいね!」
ピースケは体を軽くゆすりながら、
「ええ、定期的に来たいところですねぇ。」
そのとき――
ひやり。
さっきまでのあたたかさの中に、ほんの一瞬、冷たい空気が混じりました。
「……あれ?」
サヨが肩をすくめます。
温泉の精も、ぴたりと動きを止めました。
「……きた。」
ショウタが眉をひそめます。
「なにが?」
温泉の精は小さな声で言いました。
「“ぬくもり、持ってくやつ”。」
ピースケの目が細くなります。
「……なるほど、それが“冷たくなる原因”ですか。」
次の瞬間――
スゥゥゥ……。
湯気の一部が、まるで吸い込まれるように消えていきました。
そして、その場所に――
細く、白く、ゆらめく影。
まるで氷の息のような存在が現れました。
ショウタが立ち上がります。
「うわ、なんだこれ……!」
サヨは少し後ずさり。
「つめたい……。」
その存在は、静かに漂いながら、温泉の湯気や熱を吸い取っていきます。
じわじわと、お湯の温度が下がっていくのが分かりました。
ピースケは落ち着いた声で言います。
「……“冷え”そのもの、あるいはそれに近い存在ですねぇ。」
ショウタが言います。
「いやそれ普通に迷惑なやつじゃん!」
温泉の精がぷるぷる震えます。
「いつも、ちょっとだけ取ってくの……。」
ピースケは一歩前へ。
「失礼ですが、少しよろしいですか。」
白い影はふわりと揺れ、止まりました。
声はありません。
けれど――“聞いている”気配があります。
ピースケはやさしく続けました。
「あなたも、この場所に関わる存在なのでしょう?」
しばらくの静けさ。
そして――
スゥ……。
白い影が、ほんの少し近づきます。
ショウタが小声で言います。
「通じてる……?」
ピースケはうなずきました。
「ええ、どうやら。」
そして、少し考えてから言います。
「あなたは、“冷やす”役目があるのではありませんか?」
影がゆらりと揺れました。
温泉の精が言います。
「……あ。」
「どうしました?」
「たまに……熱くなりすぎるときある。」
ショウタが言います。
「あー、さっき急に熱くなったな。」
ピースケは納得したようにうなずきました。
「なるほど……バランスを取っているのですねぇ。」
サヨが小さく言います。
「でも……取りすぎちゃうの?」
白い影は、少しだけ弱く揺れました。
まるで――うまくできていない、と言っているようです。
ピースケはやさしく言いました。
「少しだけ、調整してみませんか。」
ショウタが首をかしげます。
「調整?」
「ええ、“ちょうどいい”ところを探すのです。」
ピースケは温泉の精に言いました。
「あなたは、あたためすぎないように。」
「う、うん!」
そして白い影に。
「あなたは、冷やしすぎないように。」
影は静かに揺れます。
ピースケは続けました。
「お互いに、少しずつ気をつければ――ちょうどよくなりますよ。」
ショウタが腕を組みます。
「そんなうまくいくか?」
そのとき――
温泉の精が、そっとお湯をあたためました。
ぽわん、とやさしい熱。
すると白い影が、ほんの少しだけ冷やします。
ひやり、とほどよい温度。
「……あれ?」
サヨが目を丸くします。
「ちょうどいい……!」
ショウタも驚きます。
「マジでいい感じなんだけど。」
ピースケは満足そうにうなずきました。
「ええ、バランスが取れましたねぇ。」
白い影は、ゆらりとやわらかく揺れました。
さっきまでの冷たさだけの存在ではなく、どこか落ち着いた雰囲気です。
温泉の精も元気に跳ねます。
「いいお湯になったー!」
三人はもう一度、ゆっくりと温泉に浸かりました。
ぽかぽかで、でものぼせない、ちょうどいい温度。
ショウタが言います。
「なんかさ、毎回こうやって解決してるよな。」
ピースケはくすっと笑いました。
「ええ、だいたいは“ちょうどいい”を見つけることですねぇ。」
サヨもにこっとします。
「みんなでやると、できるんだね。」
湯気がやさしく立ちのぼり、空へと消えていきます。
あたたかさと冷たさが、うまく混ざり合った場所。
そこには、心地よい静けさが広がっていました。
そして――
この村のまわりには、まだまだいろんな“ちょうどいい”が、隠れているのでした。




