賢者の埋蔵金 その15
静寂。
迷宮の空気が、
少しだけ変わりました。
巨大亀は、
じっとピースケを見ています。
『……匂いが分かるか』
ピースケはこくり。
「はいですぅ。」
「焼きたてのパンと、スープと……」
風がふわっと流れます。
「あと、誰かが待ってる匂いですねぇ。」
ショウタ、ぽかん。
「待ってる匂いって何!?」
トンネル博士は感動しています。
「感覚系探索能力……!」
クロックは小声。
『また理屈が負けてる』
巨大亀は、
低く笑いました。
ゴゴゴ……。
『面白い鳥だ』
そして、
ゆっくり道を見渡します。
無数の道。
でも、
よく見ると違いがありました。
金ぴかで豪華な道。
宝石だらけの道。
楽そうな近道。
逆に、
細くて地味な石道。
サヨが気づきます。
「これ……」
エルドランがうなずきました。
『道そのものが誘惑なんじゃ』
ショウタが青ざめます。
「うわ、性格悪いダンジョン!」
すると。
金ぴかの道から声がしました。
『こちらへどうぞ』
『疲れたでしょう?』
『宝まで最短です』
ショウタがふらっとします。
「ちょっと気になる……」
巨大猫がしっぽで止めました。
『罠』
「即バレ!」
宝石の道も光り始めます。
『好きなものを全部あげます』
白もふが揺れます。
『おやつ……』
しかし。
黒いヒヨコが白もふを止めました。
『ひとりで食べてもさみしいですぅ』
白もふ、はっとします。
『……ほんとだ』
サヨは地味な石道を見つめました。
そこだけ、
静かでした。
派手な光もない。
でも。
かすかに温かい風が流れている。
ピースケが笑います。
「こっちですねぇ。」
ショウタが聞き返します。
「なんで分かるんだ?」
ピースケは不思議そう。
「だって、“帰ってこれる匂い”がしますからぁ。」
静寂。
巨大亀が、
ゆっくり目を閉じました。
『……正解だ』
その瞬間――
他の道が全部崩れ落ちます。
ドドドドド!!
ショウタ絶叫。
「やっぱ罠だったぁぁ!!」
残ったのは、
細い石道だけ。
巨大亀は静かに言いました。
『近道とは、“大事なものを置いていく道”だ』
『だから戻れぬ』
サヨが小さくつぶやきます。
「急ぎすぎると、誰かを失うんだ……」
夜の龍も静かにうなずきました。
『深イ』
白もふはちょっと泣いています。
『おやつ置いてくところだった』
ショウタがツッコミ。
「そこ!?」
そして一行は、
石道を進み始めました。
道は長い。
でも不思議と歩きやすい。
途中、
壁に古代の絵が描かれていました。
賢者エルドラン。
仲間たち。
巨大亀。
ダイチモグラ。
そして――
昔の“食卓”。
ショウタが目を丸くします。
「賢者もここで飯食ってたの!?」
エルドラン、ちょっと照れます。
『冒険の後は腹が減るからの』
「ブレないなぁ!!」
やがて。
石道の先に、
小さな部屋が現れました。
そこには――
本当に“小さな箱”しかありません。
金銀財宝なし。
巨大な武器もなし。
ショウタ、停止。
「……え、これだけ?」
巨大亀は静かにうなずきました。
『世界をひっくり返す宝だ』
ピースケがそっと箱を開けます。
中に入っていたのは――
“ひっくり返ったティーカップ”。
静寂。
ショウタ。
「は?」




