賢者の埋蔵金 その8
時計塔の空気が、
しん……と静まり返ります。
リバースの逆回転するモノクルだけが、
カチ……カチ……と鳴っていました。
『……楽しかった時間?』
ピースケはうなずきます。
「はいですぅ。」
「戻したくなるくらい、大事だったんですよねぇ。」
静寂。
ショウタが小声。
「核心いった……?」
サヨもリバースを見つめています。
リバースはしばらく無表情でした。
でも。
その指先が、
ほんの少し震えていました。
『……ありました』
時計塔の壁に、
突然映像が浮かびます。
まだ幼いクロックとリバース。
二人で笑っている。
時計妖精たちと走り回り、
賢者エルドランに怒られ、
同じ食卓を囲んでいる。
白もふがぽつり。
『たのしそう』
リバースの声が、
少しだけ揺れました。
『でも、終わった』
映像が変わります。
壊れた時計塔。
止まらない時間災害。
暴走した時流。
クロックが管理者として残り、
リバースだけが“巻き戻し”を選んだ未来。
『失うくらいなら』
『最初から進まなければいい』
その瞬間――
時計塔中の針が逆回転を始めました。
ギギギギギ!!
ショウタが叫びます。
「うわぁぁ!?」
床が、
過去へ戻り始める。
壁が新しくなったり古くなったり、
景色がめちゃくちゃです。
クロックが叫びました。
『リバース、やめて!』
しかしリバースは悲しそうに笑います。
『だってお姉ちゃん』
『進んだら、また別れる』
静寂。
その言葉に、
クロックが固まりました。
サヨが小さくつぶやきます。
「怖かったんだ……」
夜の龍も静かに目を閉じます。
『終ワリヲ恐レテイル』
巨大猫はぼそっと。
『……眠り損ねるタイプ』
ショウタがツッコミ。
「猫基準なんだな!?」
そのとき。
ピースケが、
食卓の椅子を引きました。
ギギッ。
全員が振り向きます。
ピースケは普通に座りました。
「じゃあ、とりあえずお茶にしましょうかぁ。」
ショウタ絶叫。
「この状況でぇ!?」
でも。
ピースケはのんびり湯のみを置きます。
湯気がふわっと立ちました。
「終わるの怖いですよねぇ。」
リバースの逆回転が、
ほんの少し弱まります。
「でもぉ。」
ピースケは笑いました。
「終わるから、また会えるの嬉しいんですよぉ。」
静寂。
時計の音だけが響きます。
カチ。
カチ。
リバースの目が揺れました。
『……また会える?』
クロックが一歩前へ出ます。
『うん。』
『私は消えてない』
『ずっと探してた』
リバースが息をのみます。
『……え?』
クロックは少し照れくさそうに、
でも真っ直ぐ言いました。
『また一緒に時計を直したかった』
その瞬間――
リバースのモノクルに、
ピシッとヒビが入りました。
逆回転していた針が、
ゆっくり止まります。
ショウタが目を見開きました。
「止まった……!」
リバースは、
今にも泣きそうな顔でつぶやきます。
『……進んでも、いいの?』
ピースケは当然みたいにうなずきました。
「はいですぅ。」
「朝になったら、また次の日がありますからねぇ。」
風が吹きます。
やさしい、
前へ進む風。
その瞬間――
時計塔のすべての時計が、
同じ方向へ動き始めました。
カチ。
カチ。
カチ。
“未来へ”。




