ドラゴン その4
銀のドラゴンが去ってからというもの、山の空気はどこか張りつめたままでした。
ラグは少しずつ飛べるようになってきましたが、以前のように自由に空を舞うには、まだ時間がかかりそうです。
その日の夕方。
ピースケ、ショウタ、ラグの三人は、岩場に並んで座っていました。
「……なあラグ。」
ショウタがぽつりと口を開きます。
「お前、どうすんの?戻るのか?」
ラグはしばらく黙っていました。
風が吹き、赤い鱗がわずかに揺れます。
「……ワカラナイ。」
低い声。
「モドレバ……タタカウ……カモシレナイ。」
ショウタが顔をしかめます。
「は?なんでだよ。」
ラグはゆっくり言いました。
「オレ……ニンゲン……タスケラレタ……。ソレ……キライナヤツ……イル。」
ピースケは静かにうなずきます。
「なるほど……考え方の違い、ですねぇ。」
ショウタは地面の石を蹴りました。
「めんどくせーな……。」
そのとき――
ドクン。
空気が、わずかに震えました。
ピースケがすぐに顔を上げます。
「……来ましたねぇ。」
次の瞬間。
バサァッ!!
空を裂くような音とともに、あの銀のドラゴンが再び現れました。
しかし――今回はひとりではありません。
その後ろに、さらに二体のドラゴンが続いています。
黒い鱗のものと、青く光るもの。
ショウタが青ざめます。
「……増えてるんだけど!?」
ラグが立ち上がりました。
「……キタ……。」
銀のドラゴンが降り立ち、冷たい目で見下ろします。
「時間をやった。だが、答えは出たようだな。」
その声には、前よりもはっきりとした“決意”がありました。
ピースケは一歩前に出ます。
「これは……穏やかではなさそうですねぇ。」
銀のドラゴンは言います。
「掟に例外はない。ラグを連れ戻す。抵抗するなら――排除する。」
その言葉に、空気が凍りつきました。
ショウタが思わず叫びます。
「待てって!話し合いとかねーのかよ!」
黒いドラゴンが低く笑います。
「ニンゲン、口出しするな。」
青いドラゴンは静かに言いました。
「時間は終わり。」
ラグは翼を広げました。
まだ完全ではない翼。
それでも――前に出ます。
「……オレ……ニゲナイ。」
ショウタが振り返ります。
「おい!無理すんなって!」
ラグは首を振りました。
「……ココ……マモル。」
その言葉に、ショウタは一瞬言葉を失います。
ピースケはゆっくりと前へ出ました。
「……そうですか。」
そして、いつもの穏やかな声で言います。
「では、私もご一緒しましょう。」
ショウタが叫びます。
「ちょっと!?戦うの!?」
ピースケは首をかしげました。
「いいえ、戦うとは言っていませんよ。」
そして、まっすぐ銀のドラゴンを見ます。
「ですが――ここは引けませんねぇ。」
銀のドラゴンの目が細くなります。
「……愚かだ。」
その瞬間――
ゴォォォォ!!
黒いドラゴンが炎を吐きました。
「うおっ!!」
ショウタが飛びのく中、ピースケはとっさに馬車を盾のように引き寄せます。
ドンッ!!
炎がぶつかり、煙が上がりました。
「やれやれ、少々乱暴ですねぇ!」
ラグが飛び出します。
「ウオォォ!!」
不完全な翼で跳び、黒いドラゴンに体当たり。
激しい衝撃。
しかし、すぐに押し返されます。
ショウタが歯を食いしばります。
「くそ……!」
そのとき――
ピースケが叫びました。
「ショウタさん、下がってください!」
「え!?」
ピースケは地面を強く蹴ります。
その大きな体が、信じられない速さで前へ――
「ちょっと、本気で行きますよぉ!」
翼を大きく広げ、砂煙を巻き上げながら――
まっすぐ銀のドラゴンの前へ立ちはだかりました。
その目は、いつもの穏やかさの奥に、はっきりとした強さを宿しています。
「ここから先は――通しません。」
一瞬の静寂。
風が止まり、すべてが止まったような感覚。
銀のドラゴンが、ゆっくりと口を開きました。
「……ならば。」
その目が鋭く光ります。
「力で示せ。」
空が震えました。
――戦いが、始まろうとしていました。




