ドラゴン その2
翌朝。
村はいつもどおりに見えましたが、どこか空気が張りつめていました。遠くの山の上――あのドラゴンが現れたあたりに、うっすらと煙が立ちのぼっているのです。
ショウタが腕を組みます。
「なあピースケ、あれ絶対まだいるよな。」
ピースケは静かにうなずきました。
「ええ、このままではいずれこちらに来るでしょうねぇ。」
「じゃあどうすんだよ。」
少しの間、考えたあと――
ピースケは言いました。
「会いに行きましょう。」
「は!?」
ショウタが思いきり声を上げます。
「昨日あんだけ逃げたのに!?」
ピースケは落ち着いた顔です。
「ええ。でも、理由もわからずに恐れ続けるより、話せるなら話したほうがいいですからねぇ。」
ショウタはしばらく悩みましたが、やがてため息をつきました。
「……わかったよ。どうせ止めても行くんだろ。」
「ええ。」
「じゃあオレも行く。」
ピースケは少しだけうれしそうに目を細めました。
「頼もしいですねぇ。」
――こうしてふたりは、山へ向かいました。
道を進むにつれて、焦げたにおいが強くなっていきます。木々はところどころ黒く焼け、地面には大きな足跡。
やがて、開けた岩場に出ました。
そこに――いました。
ドラゴンが、静かにうずくまっています。
昨日のような威圧感はありますが、どこか様子が違いました。
「……あれ?」
ショウタが目を細めます。
「動いてなくね?」
ピースケはゆっくり近づきました。
「失礼しますよ。」
ドラゴンは目を開け、低くうなります。
「……グルル……。」
しかし、よく見ると――片方の翼に、大きな傷がありました。鱗が割れ、血がにじんでいます。
「……これは。」
ピースケは少し驚いたように言いました。
「ケガ、してますねぇ。」
ショウタが思わず言います。
「マジかよ……。」
ドラゴンは警戒しながらも、その場から動けないようでした。
「ニンゲン……チカヅクナ……。」
低く、かすれた声。
ピースケは落ち着いて答えます。
「攻撃するつもりはありませんよ。ただ、少しお話を。」
ドラゴンはしばらく黙っていましたが、やがて苦しそうに息を吐きました。
「……オレハ……トベナイ……。」
「翼のケガで、ですか。」
ドラゴンはうなずきます。
「スミカ……モドレナイ……。」
ショウタが小さくつぶやきます。
「だから、あんなとこでうろうろしてたのか……。」
ピースケは静かに考え、そして言いました。
「もしよろしければ、手当てをしてみませんかねぇ。」
「は!?」ショウタがまた驚きます。
「助けんの!?」
ピースケはうなずきました。
「ええ。このままでは、お互いに困りますからねぇ。」
ドラゴンは目を細めます。
「……ナゼ……タスケル……。」
ピースケはいつもの調子で答えました。
「困っているようでしたので。」
ショウタは少しあきれた顔で笑います。
「シンプルすぎだろ……。」
しばらくの沈黙のあと――
ドラゴンはゆっくりと翼を地面に広げました。
「……ヤッテミロ……。」
ピースケはうなずきます。
「では、失礼しますよ。」
ショウタと一緒に、傷の手当てを始めました。布で血をぬぐい、村から持ってきた薬草を巻きます。
ドラゴンは最初こそ緊張していましたが、やがて少しずつ力を抜いていきました。
「……イタイガ……マシダ……。」
「よかったですねぇ。」
日が傾くころ、手当てはひとまず終わりました。
ドラゴンはゆっくりと体を起こします。
「……ナマエ……ナニ。」
ショウタが言います。
「オレはショウタ。」
ピースケも続けます。
「私はピースケです。」
ドラゴンは小さくうなずきました。
「……オレハ……ラグ。」
ショウタがにやっと笑います。
「ラグか。昨日はビビらせやがって。」
ラグは少しだけ目を細めました。
「……オマエラモ……ニゲタ。」
「そりゃ逃げるだろ!」
思わず笑いがこぼれます。
その夕暮れ。
山の上で、ニワトリと少年とドラゴンが並んで座っていました。
ピースケは静かにつぶやきます。
「どうやら、“敵”ではなかったようですねぇ。」
ショウタは空を見上げます。
「だな。……でもさ。」
「はい?」
「次、また急に出てきたら、やっぱ逃げるわ。」
ピースケはくすっと笑いました。
「ええ、それも大事な判断ですよ。」
風がやさしく吹きます。
ドラゴン・ラグは静かに目を閉じていました。
――けれど。
その少し遠く、さらに高い空で――
別の影が、ゆっくりと動いていたことに、まだ誰も気づいていませんでした。




