ドラゴン その1
ある日のこと。
ピースケは大きな体をゆっくり揺らしながら、馬車を引いて山道を進んでいました。荷台には村で採れた野菜や道具がぎっしり積まれています。
「いやぁ、今日はなかなか重いですねぇ。」
そう言いながらも、足取りはしっかりしています。
そのとき――
ゴォォォォ……。
空気が震え、地面が低くうなりました。
「……おや?」
ピースケが顔を上げた瞬間、目の前の岩陰から――
ズシン!
巨大な影が現れました。
赤黒い鱗、鋭い牙、燃えるような目。
ドラゴンです。
「……これはこれは。」
一瞬の沈黙。
そして次の瞬間――
「逃げましょう。」
ピースケは即決しました。
ぐいっ!!
馬車のひもを引き直し、全力で走り出します。
ガラガラガラガラ!!
馬車が激しく揺れ、荷物が跳ねます。
後ろからは――
ドォォン!!
ドラゴンが一歩踏み出すたびに地面が震えます。
「ちょ、ちょっと待てって言われても待ちませんよぉ!」
ピースケは必死です。
曲がりくねった山道を、ありえない速さで駆け抜けていきます。
「こういうときはですねぇ、考えるより動く!これに限ります!」
背後から熱い風が迫りました。
「来ましたねぇ……!」
ピースケはとっさに右へ急カーブ!
その直後――
ボォォォッ!!
炎がさっきまでいた場所を焼き払いました。
「危ない危ない……焼き鳥になるところでした。」
息をつく間もなく、さらにスピードを上げます。
すると前方に、細い崖道が見えてきました。
「うーん、これは賭けですねぇ。」
後ろを振り返ると、ドラゴンは巨体ゆえに道幅がギリギリ。
「……行けます!」
ピースケは迷わず突っ込みました。
ガタン!ガタン!
馬車が揺れ、今にも崖から落ちそうになります。
「落ちないでくださいよぉ……荷物も私も!」
なんとか細道を抜けると、後ろから――
ゴゴゴ……!
ドラゴンが足を止めました。
狭すぎて追ってこられないのです。
「……ふぅ。」
ピースケはようやく足をゆるめました。
「助かりましたねぇ。」
しばらくして、村へ戻ると――
ショウタが目を丸くします。
「なにそのボロボロの馬車!?」
ピースケは汗をぬぐいながら言いました。
「ちょっとドラゴンに会いましてねぇ。」
「ちょっとじゃねーだろ!」
村人たちもざわざわします。
「大丈夫だったのか!?」 「ケガは!?」
ピースケはにこりと笑いました。
「ええ、なんとか無事です。ただ――」
空をちらりと見上げます。
「どうやら、また新しいお客さんが来てしまったようですねぇ。」
その夜。
遠くの山の上で、炎のような光がゆらりと揺れました。
ショウタがつぶやきます。
「……また面倒なことになりそうだな。」
ピースケはゆっくりうなずきました。
「ええ。でも――逃げるだけでは、いずれ追いつかれますからねぇ。」
少しだけ真剣な目。
「次は、ちゃんと向き合う必要がありそうです。」
風が静かに吹き抜けます。
どこかで、ドラゴンの低いうなり声が響いていました。
村に、新たな試練が近づいていたのです。




