小人(こびと)
それから数日後の朝。
村はいつもどおり――のはずでしたが、なぜかあちこちで小さな騒ぎが起きていました。
「おかしいな……鍬が軽くなってるぞ?」 「パンがひと口ぶんだけ減ってる……?」 「ボタンが……なくなってる!」
広場に集まった村人たちは、首をかしげるばかりです。
ショウタは腕を組んで言いました。
「なんかさ、“ちょっとだけ”なくなるの多くね?」
ピースケはゆっくりうなずきます。
「ええ、大きく奪うのではなく、ほんの少しずつ……気になりますねぇ。」
そのとき、ピースケの足元で――
カサッ。
何かが動きました。
「ん?」
ショウタがしゃがみこむと、小さな影がぴょんと飛び出しました。
「うわっ!」
そこにいたのは――手のひらに乗るくらいの、小さな人影。
とんがり帽子に、つぎはぎの服。ちょこちょこと素早く動くその姿は、まるで絵本から飛び出してきたようでした。
「……小人、ですかねぇ。」
ピースケが目を細めます。
小人はびくっとして、身構えました。
「み、みつかった!」
すると、草むらのあちこちから、同じような小人たちがわらわらと現れます。
「にげろー!」 「大きいのに見つかったー!」
あっという間に逃げようとする小人たち。
ショウタが慌てて言います。
「待て待て!別に取って食ったりしねーって!」
ピースケも落ち着いた声で続けました。
「ええ、お話をしたいだけですよ。」
その言葉に、ひとりの小人がぴたりと止まりました。
他の小人より少しだけ背が高く、しっかりした顔つきです。
「……ほんと?」
「ええ、本当ですよ。」
小人は少し考えてから、仲間たちに合図しました。
「……ちょっとだけ、話きこう。」
やがて、小人たちはピースケたちの前に集まりました。
ショウタがじっと見ます。
「お前らさ、もしかして……物、ちょっとずつ取ってる?」
小人たちは顔を見合わせ、こそこそ話します。
そして、さっきの少し大きい小人が前に出ました。
「……とってる。でも、ちょっとだけ。」
ピースケはやさしくたずねます。
「どうしてですかねぇ?」
小人は少しうつむきました。
「オレたちの村……こわれた。道具も、食べ物も……たりない。」
ショウタの表情が変わります。
「……そうだったのか。」
ピースケは静かにうなずきます。
「それで、この村から少しずつ分けてもらっていたんですねぇ。」
「うん……でも、いっぱい取るとダメだから……ちょっとだけ。」
その言い方が、どこか必死で――
ショウタはため息をつきました。
「ちゃんと言えばいいのに。」
小人たちはびくっとします。
「い、言ったら……おこるでしょ?」
ピースケはゆっくり首を振りました。
「この村の人たちは、理由がわかれば協力してくれると思いますよ。」
ショウタも頷きます。
「うん。勝手に取られるより、ちゃんと頼まれたほうがいい。」
小人たちはまたざわざわします。
「ほんとに……?」 「おいだされない……?」
ピースケはにこりとしました。
「ええ、その代わり――あなたたちもできることを手伝ってみてはどうでしょう。」
「てつだう?」
「ええ。小さいからこそできることもありますよねぇ。」
小人たちは顔を見合わせて――
やがて、小さくうなずきました。
その日の午後。
村ではちょっとした“作戦”が始まりました。
小人たちは、細いすきまに入りこんで道具を直したり、畑の細かい手入れをしたり、家の中のちょっとした修理を手伝いました。
「あれ?ここ、いつのまに直ってる!」 「細かいとこ、すごくきれいになってる!」
村人たちは驚き、そして笑顔になります。
ショウタは腕を組んでニヤッとしました。
「な?悪くないだろ。」
小人たちも、どこか誇らしげです。
その夜。
小人たちは広場に集まり、ぺこりと頭を下げました。
「……ありがとう。これからは、ちゃんと頼む。」
ピースケは満足そうにうなずきます。
「ええ、それがいいですねぇ。」
ショウタはしゃがんで言いました。
「またなんか困ったら言えよ。」
小人のリーダーはにやっと笑いました。
「そのときは、お前も手伝えよ!」
「おう、いいぜ。」
こうして、小人たちは村の“見えない助っ人”になりました。
気づかないところで、でも確かに役に立っている存在。
ピースケは静かにつぶやきます。
「大きさは関係ありませんねぇ。大事なのは、どう関わるか、です。」
夜風がやさしく吹き、小さな笑い声が草むらの中で響いていました。
そしてまた――
この村には、少しずつ新しいつながりが増えていくのでした。




