特訓 その1
朝の山。
まだ霧が残る静かな斜面に、
ピースケだけが立っていました。
ショウタが遠くからそれを見て、目をこすります。
「……あいつ、何してんの?」
サヨも首をかしげました。
「珍しいね、ピースケが一人で」
ピースケは翼を広げ、
ゆっくりと地面を踏みしめています。
ドン。
ドン。
まるで呼吸を合わせるように。
その周囲には――
小さなミニピースケ軍団が整列していました。
『特訓ですぅ!』
『特訓ですぅ!』
ショウタがツッコミ。
「分身まで軍隊化してるのやめろ!!」
ピースケは真剣な顔です。
「最近、飛ぶときにちょっとふらつくのでぇ……」
サヨが驚きます。
「えっ、あの虹ビーム出してたのに?」
ピースケはちょっと恥ずかしそうに羽をさわりました。
「たぶん、安定性が足りないですねぇ」
そのとき――
山の奥から低い声。
『ほう』
みんな振り向きます。
そこにいたのは山神。
今日は珍しくアフロでも呪いでもなく、
普通に威厳ある姿です。
ショウタが小声。
「なんかまともだと逆に怖いな」
山神はピースケを見下ろしました。
『鍛えるか』
ピースケはうなずきます。
「はいですぅ」
サヨが慌てます。
「えっ、山神さまがコーチ!?」
山神は巨大な角を空へ向けました。
『山は揺れる。風は乱れる。そこで飛べ』
ショウタが即ツッコミ。
「トレーニング環境が自然すぎる!!」
そして――
特訓開始。
まずは“風の坂道”。
山神が角を振ると、
山全体に上昇気流と下降気流が入り混じります。
ゴォォォ!!
ピースケは必死に羽ばたきます。
「うわぁぁぁバランスがぁぁ」
ズドン。
着地失敗。
ショウタ笑います。
「即落下!!」
サヨは心配そう。
「大丈夫かな……」
ミニピースケ軍団が応援します。
『がんばれ本体ですぅ!』
『右ですぅ!左ですぅ!全部ですぅ!』
「アドバイスが雑!!」
次は“重力訓練”。
山神が片足を踏み込むと、
地面の重さが変わります。
ピースケの体が急に重くなったり軽くなったり。
ショウタ叫び。
「難易度が急に理不尽!!」
ピースケは汗をかきながら飛びます。
「……これ、筋トレですねぇ……」
サヨが感心します。
「すごい、ちゃんと成長してる」
しかし――
事件はその時起きました。
ドンッ!!
ピースケが空へ跳び上がった瞬間、
制御が一瞬だけ安定しました。
静寂。
山神が目を細めます。
『……いい』
ショウタも驚きます。
「お、成功?」
その瞬間――
ピースケの羽が、
ほんの少しだけ光りました。
ふわっ。
空気が変わります。
ミニピースケたちがざわつきます。
『あっ』
『なんか違うですぅ』
ピースケが小さくつぶやきます。
「……あ、分かりましたぁ」
山神が聞き返します。
『何がだ』
ピースケは空中で止まりながら言いました。
「飛ぶのって、力じゃなくて……」
「空気と、仲良くなることですねぇ」
その瞬間――
風が止まりました。
そして次の瞬間、
山全体の風がピースケの周りに集まります。
ゴォォォ……。
ショウタが目を見開きます。
「え、なにこれ」
サヨが息をのむ。
「風が……従ってる?」
ピースケは静かに羽ばたきました。
今度はブレない。
ふらつかない。
まるで山そのものと一体になったみたいに。
山神が低く言います。
『……合格だ』
ショウタが叫びます。
「急に最終試験終わった!!」
ピースケはゆっくり地面に降り立ちました。
「ありがとうございますぅ」
ミニピースケたちは拍手。
『本体進化ですぅ!』
『空の主ですぅ!』
「勝手に称号つけるな!!」
そのとき――
遠くの空に、
雲の流れが不自然にねじれました。
サヨがそれを見てつぶやきます。
「……今度は何?」
ショウタは嫌な予感。
「特訓終わった直後に事件やめて……」
ピースケは空を見上げます。
そして静かに言いました。
「……呼ばれてますねぇ」
山神も目を細めました。
『来るか』
風がざわめきます。
空の向こうから、
“何か巨大な影”がゆっくりと近づいていました。




