ミニピースケ その4
井戸の闇が――
ほんの一瞬だけ、止まりました。
ゴォォ……という音が途切れ、
村の空気が“静止”します。
サヨが息をのむ。
「今の……なに?」
ピースケの羽から、
ふわりと淡い光の風が広がっていました。
虹色でもない。
派手でもない。
ただ、あたたかい光。
骸骨の赤い炎が、
小さく揺れます。
『……あたたかい』
その声は、さっきよりずっと弱い。
ショウタが小声で言いました。
「効いてる……?」
龍が静かにうなずきます。
『“逆流”は成功しかけています。あとは核の解放です。』
その瞬間――
井戸の底から、
ギギギギ……と重い音。
黒い鎖が一斉に伸びてきました。
骸骨の体に巻きつきます。
ゴリ……ゴリゴリ……!
骸骨が苦しそうに震えます。
『……まだ……』
サヨが叫びます。
「引き戻されてる!」
ショウタが焦ります。
「さっきより強くなってない!?むしろ悪化してる!」
龍が目を細めました。
『侵食側が“抵抗”を学習している……!』
井戸の闇が膨れ上がります。
まるで怒っているみたいに。
ゴォォォォォ!!
黒い水が村の地面まで這い出してきました。
タヌキが悲鳴。
「足元まで来てるぅぅ!!」
そのとき。
ピースケが静かに一歩進みました。
ショウタが叫びます。
「近づくなって!!」
でもピースケは止まりません。
骸骨の前まで行くと、
そっと言いました。
「……あなた、誰かを守ってましたねぇ。」
骸骨の動きが止まります。
カタ……。
赤い炎が揺れました。
『……守る……』
サヨが気づきます。
「記憶……?」
龍が低く言います。
『核の“本来の役割”が再起動しています。』
骸骨の鎖が、わずかに緩みました。
その瞬間――
井戸の闇が激しく暴れます。
ゴオオオオオ!!
まるで拒絶。
ショウタ絶叫。
「今の流れで邪魔すんなぁぁ!!」
黒い腕が一気に伸びてきました。
ピースケへ向かって。
ズドォォン!!
サヨが叫びます。
「ピースケ!!」
しかし――
その瞬間。
骸骨が、動きました。
カタッ!!
自分の体を無理やり引きちぎるように、
黒い鎖を掴みます。
『……やめろ』
龍が目を見開きます。
『核が“自我干渉”を開始した……!?』
骸骨は震えながらも、
井戸の闇を見上げました。
『……もういい』
その声と同時に――
骸骨の赤い炎が、静かに青へ変わり始めます。
ショウタが呆然。
「え、浄化ルート入った?」
ピースケが小さくうなずきます。
「そうですねぇ。」
そして、静かに続けました。
「ずっと頑張ってたんですねぇ。」
その言葉と同時に――
骸骨の中の“核”が、ふっとほどけました。
カラン……。
小さな音。
鎖がすべて崩れ落ちます。
井戸の闇が一瞬、静止しました。
そして――
ゴゴゴゴゴ……。
黒い水がゆっくり引いていきます。
サヨが息を吐きます。
「……終わった?」
ショウタもへたり込みます。
「終わったよね……?もう増えないよね……?」
タヌキが空を見上げます。
「……あ。」
全員が振り向きます。
井戸の中から、
最後に小さな光が一つだけ浮かび上がりました。
ぽわん。
それは、
骸骨の“記憶の欠片”でした。
小さな声。
『ありがとう』
そして――
光は夜空へ消えていきました。
静寂。
龍がゆっくり言います。
『水脈は安定しました。』
ショウタが崩れ落ちます。
「長かったぁぁ……」
サヨも笑います。
「ほんとにね……」
ピースケは少しだけ空を見上げました。
「おはなしできて、よかったですねぇ。」
その言葉に、
夜風がやさしく返事をしたように感じました。
そして村には、
またいつもの静かな夜が戻ったのでした。




