ピースケの朝食 その4
山の向こうで――
虹色アフロ山神が、
ゆっくりこちらを見ました。
金色の目。
巨大な紅葉の角。
そしてその間に、
もっさもさの虹色アフロ。
風にふわっふわ揺れています。
静寂。
ショウタが震える声で言いました。
「……夢?」
タヌキがぽつり。
「いや、現実。」
その瞬間――
ゴォォォォォ!!
山神が咆哮。
しかしいつもの威厳ある声ではなく、
なぜか少し高い。
しかも陽気。
『ワハハハハハ!!』
全員停止。
サヨが目を丸くします。
「笑ってる……?」
タヌキが青ざめました。
「あれ、七色わらいだけの副作用だ!」
ショウタ絶叫。
「感染したぁぁぁ!!」
山神はアフロを揺らしながら、
ケラケラ笑っています。
『秋が! 赤い! 葉っぱ! 多い!!』
「感想が雑!!」
しかも笑うたび、
虹色の葉っぱが空から降ってきました。
キラキラ。
村人たちはちょっと喜んでいます。
「お祭りみたい!」
「平和だなぁ。」
しかし。
問題はそこじゃありません。
山神が笑いながら、
巨大な足を一歩踏み出しました。
ズゥゥゥン!!
村が揺れます。
ショウタ真っ青。
「笑顔で迫ってくるの怖いぃぃ!!」
サヨがピースケを見上げました。
空ではまだ、
虹色翼ピースケがふらふら飛んでいます。
「ピースケ! なんとかしてー!」
ピースケは必死。
「えぇぇぇ、どうやってですかぁ!?」
そのとき――
ミニピースケ軍団が一斉に整列しました。
『作戦会議ですぅ!』
『本体は方向音痴ですぅ!』
『我らが導きますぅ!』
ショウタがツッコミ。
「分身のほうが有能!?」
ミニピースケたちは、
空に矢印みたいな隊列を作ります。
『こっちですぅ!』
『右ですぅ!』
『もっと左ですぅ!』
ピースケは必死に操縦。
「こうですかぁ!?」
ぐるん。
逆回転。
ショウタが頭を抱えます。
「逆ぅぅ!!」
そのとき――
ベルフェルが前へ出ました。
真顔。
そして、
巨大フライパンを取り出します。
ショウタが二度見。
「なんであるの!?」
ベルフェルは静かに言いました。
「着陸誘導。」
次の瞬間――
『超特大・はちみつパンケーキ』
ジュワァァァ……。
焼ける甘い匂い。
村中に広がります。
サヨが目を輝かせました。
「いい匂い!」
そして。
山神の動きが止まりました。
アフロがぴくり。
『……甘い。』
ショウタが振り向きます。
「効いた!?」
さらに。
空のピースケも止まりました。
「いい匂いですねぇ……。」
ミニピースケたちも合唱。
『おいしそうですぅ。』
『食べたいですぅ。』
『はちみつ最高ですぅ。』
完全に食欲誘導。
ベルフェルは無言でパンケーキを掲げます。
すると――
虹色ピースケとアフロ山神が、
同時に吸い寄せられてきました。
ショウタ絶叫。
「でかいの二匹来るぅぅぅ!!」
ドゴォォォォン!!
村の広場に、
巨大ニワトリと巨大山神が着地。
そして二匹そろって、
パンケーキへ顔を近づけました。
もぐ。
静寂。
数秒後――
虹色の光がふわっと消えます。
ピースケの翼が消失。
山神のアフロもしぼみました。
サヨが叫びます。
「治った!」
タヌキがぴょんぴょん跳ねます。
「やったー!」
山神は元の威厳ある姿に戻り、
少し気まずそうに村を見下ろしました。
『……すまぬ。』
ショウタが即答。
「ほんとだよ!」
でも。
その巨大な口元には、
パンケーキのはちみつがべったりついています。
サヨが吹き出しました。
「ふふっ。」
ピースケも笑います。
「おそろいですねぇ。」
見ると、
ピースケのくちばしにもはちみつ。
ショウタもつられて笑いました。
こうして、
ちょっと騒がしくて、
ちょっと甘い、
ピースケの不思議な朝食事件は、
無事に幕を閉じたのでした。
……たぶん。
その夜、
村の井戸から
『ぴよぴよですぅ』
という声が聞こえたことは、
まだ誰も知らないのでした。




