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罪を歩く旅を知らぬ者  作者: 小夜 新成
ファストボーン編
5/15

第4話 Dランク依頼



(ノイル……ノイル……)


 夢の中で、俺の名前を呼ぶ儚げな女性の声が響いた。

 この声は、あの時の……。


「ノイル、早く起きて」

 重たい瞼を持ち上げると、黒髪の美少女が覗き込んでいた。

「んっ……!? なんだ、ルフィアか……」

 一年前の意識を失う直前に聞いた女性の声と思った俺は、思わず言葉を漏らす。その直後、舌を打ち鳴らす怒りの音が響き、布団が宙に舞った。


「悪かったわね、私で」

「いや、違う!すまん、寝ぼけてた」

 瞬時に布団を引き寄せて下半身を覆った俺は、即座に謝罪。その途端に、激しい頭痛に襲われた。

「痛てぇ……これが二日酔いってやつか」

 体は鉛のように重たく、胃がむかむかと吐き気が残る。だが、かろうじて記憶は失っていない。


「そうか、今日は俺の装備素材を取りに行くんだったな……」

 まだ意識が朦朧としている俺とは違い、既に全身黒ずくめの防具を纏うルフィア。腰に二本の短剣を差しており、準備は万端のようだ。

 その防具は、所々が黒い毛皮のような物で作られている。おそらくは能獣素材なのだろう。


「そういや、ここどこだ?」

 俺は見覚えのない室内と、酒場で途切れた記憶に戸惑う。

「酒場の近くにある宿。ノイル、お店で寝ちゃったから運んできた」

「そう、だったのか……助かった」


 初対面の女の子の前で調子に乗って慣れない酒を飲み、いつのまにか意識を失う。考えるだけで羞恥心が湧き上がったが、平然を装った俺は部屋をゆっくりと見渡した。

 室内はさほど広くはなく、テーブルが一つ。椅子が二つ。そして、少し大きめのベッドが一つしかない。


(ベッドが一つ……⁉︎)

 疑問と期待を持った俺は、ルフィアに視線を飛ばす。

「ルフィアは別の部屋を取ったのか?」

「この部屋で寝たよ?お金、もったいないし」

「え、どこで寝たんだ?」

 ルフィアは黙って、俺が座るベッドを指差した。

「ふ、ふーん……。そうか、そうだよな」

「なに?」

「いや、何も」


 何もなく眠っただけ。なのに、俺の心臓は暴れ出す。同時に、昨夜の俺に途轍もない怒りを覚えた。

「そんなのなんでもいいから、早く出よ?二日酔いだからとか言ってサボるのはなしね」

 それからは特に会話がなく、黙々と支度を済ませて宿を後にした。




——




 太陽が中天に差し掛かった頃にギルドに到着した俺達。

 ルフィアは掲示板に無造作に貼り付けられた依頼を探しに向かい、俺は椅子に腰かけて待機中だ。すると、アルナちゃんがわざわざ窓口カウンターから抜け出して、俺の元へとやってきた。


「ノイルさん、まだあの方といるんですか?」

「あ、あぁ……実は、パーティを組むことになったんだ」

 その途端に、アルナちゃんの表情がどんよりと濁り、光の消えた薄水色の瞳で突き刺すように俺を睨みつけた。


「やっぱり……」

 小さく囁いた直後、奥歯が軋む音がギリギリと響いた。

(アルナちゃん……?)

 正直なところ、包帯も相まって少し不気味に感じてしまう。


「あっ……今、私に怖がりました?」

 心を見透かしたような的確なタイミングで、アルナちゃんが暗い声を落とした。

「いやいや、そんなわけないだろ!」

 俺は咄嗟に笑顔で誤魔化す。


「嘘ですね。私、分かるんですよ。気味悪そうに私を見る人の目が。誤魔化さなくても大丈夫ですよ?慣れっこなので!」

 最後に笑顔を取り戻したアルナちゃんの言葉で、俺は正直に認めることにした。

「ごめん、ちょっとビックリしちまって……。それより、慣れてるって?」


「見ての通り、この包帯のせいで私のところに人が寄り付かないんですよ!ほとんどの冒険者は気味悪がるか、いやらしい目で胸を見るかのどちらかです。でも、ノイルさんだけはいつも私のところに来てくれて、実は内心かなり喜んでるんですよ?」

 身振り手振りで明るくふるまう彼女だが、この瞬間から俺の目に映るアルナちゃんは、どこか無理をしているように見えた。


「聞いていいか?その包帯のこと」

「んん……まだ駄目です!でも、また今度、二人きりの時間があったら教えますね!」

 そうこう話しているうちに、ルフィアが依頼用紙を持って帰ってきた。その姿をちらり、と横目に映したアルナちゃん。舌を打ち鳴らす微かな音が俺の耳を掠めた。


「そろそろ戻りますね!ノイルさん、能獣討伐頑張ってくださいね!」

 そう言い残し、アルナちゃんは受付窓口へと小走りで向かった。


「ノイル、何を話してたの?」

「いや、ちょっとした世間話だ」

 アルナちゃんの視線を感じ、これ以上の重苦しい空気を避けるために話を濁した。


「ならいいんだけど。あの子、ちょっと危ない目をしてるから気をつけてね」

 ルフィアも視線を感じ取ったのか、俺に軽い助言をしてから依頼用紙を手渡した。



 ヘッドゴート

 ランク水準:D 難易度:レベル2 達成条件:一体の討伐 報酬:一二○○フィルト



「って、おい!Dランク依頼持ってきてどうすんだよ!」

 依頼用紙を見た最初の感想はこれだ。

「大丈夫。私、Dランクだから受けられる」

「そう言う問題じゃねえよ!」

 静かに首を傾げるルフィア。

 問題なのは、初心者の俺が勝てる相手ではない、という点だ。


「昨日、レベル2に殺されかけたんだぞ?普通に考えて、まずはレベル1からだろ?」

「レベル1の素材だとあまりいい能力がないの。どうせ作成費を払うなら使える能力の方がいい」

 ルフィアの発言に、俺は勢いよく立ち上がった。

「それはそうだけど、死んだら元も子もないだろ?そんなのは後から——」

「私がいる」


 言葉を遮ったルフィアは、無機質な表情で俺を真っ直ぐに見つめた。

 ルフィアの紅い瞳には、確かな自信が宿っている。そこに、実際に見た戦闘技術が上乗せされて、俺に強い安心感を与えた。

「そう、だったな」

 静かに頷いたルフィアは、アルナちゃんを避けるように別の受付嬢の元へと足を運んだ。









 討伐目標である『ヘッドゴート』の目撃情報は、南西にしばらく直進した辺りとのこと。

 壁に囲われた街の門を潜り抜けた二人は、情報通りに南西へと向かって草原を踏み進めていた。


「聞いてなかったけど、ヘッドゴート?は、どんな能力なんだ?」

「簡単にいえば、攻撃力を溜めて放つ能力。私の能力と違って常に発動している能力じゃないけど、一撃の攻撃力は凄まじい。威力はオドの貯蔵量によって明確な差が出ると思うけど」


 ルフィアの強脚は、常時発動できる身体強化の能力。だが、今回の能力は、蓄えたオドを溜め込み、一気に放出する能力。貯蔵量が多ければ多いほど、一撃の攻撃力が上がり、オドが尽きない限りは上限が無い、一撃必殺の能力だ。


「正気か?まだ俺の貯蔵量は分からないんだぞ?凡人以下の可能性だってあるんだ」

「ノイルは大丈夫。桁違いの貯蔵量を持ってるから」

 確信しているような口ぶりのルフィアに、疑問が浮かんだノイルは即座に問い詰める。


「なんで分かるんだよ?まだ試してないだろ?」

「昨日、ご飯食べてる時に、オドが体に吸い込まれる時の話をしたの覚えてる?」

 ノイルは顎に手を添えて、しばらく記憶を辿った。

「お、覚えてないです……」

 しっかり記憶が抜け落ちていた。


「レベル1って言っても、二体の能獣が蓄えてるオドの総量は、初めてオドを吸収する凡人の人だと溢れちゃう量なの。でも、ノイルは一瞬で体に吸い込まれたって言ってた。それに、能石持ちのレッサーキックスを討伐した時も、少しだけノイルにオドが持っていかれたの。つまり、ノイルの貯蔵量と吸収能力が異常ってこと」

「え、ほんとかよ⁈もしかして、選ばれし者、的な力か!」

 子供のように気持ちが昂るノイルに、やれやれ、とあしらうように溜息を落とすルフィア。


「凄い才能だけど、オドを横取りされたら、同じパーティからすると害悪ね」

「えっ……」

 ルフィアがからかうように鋭い言葉を吐くと、耐性の無いノイルの心に音を立てて突き刺さった。


「なんか、すまん……」

 分かりやすく背骨を丸めて落ち込むノイル。少し前を歩くルフィアは振り返り、無表情の上に僅かな微笑みを添えた。

「大丈夫。メリットの方が大きいから」

 機嫌を取り戻したノイルはつられて笑みを浮かべ、背筋を伸ばして歩き進めた。

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