当主候補
俺は目を覚ますと知らない天井が目に映った。
「ここは…」
俺はそう言って起き上がる。
そうして、周りを見るが誰もおらず首をかしげる。
とりあえず、ここに来る前の記憶を俺は探る。
確か、麗が来て案内をしたんだよな。
その後は確か…訓練場に行ったんだったな。
そして、吸血鬼セニアと戦って…戦って?
その後の記憶がないな。
確か無我夢中に戦っていたのは覚えている。
その後が思い出せないんだ。
負けたくないと感じて、それから…それから…俺は。
負けたんだ。
「あ、あれ?」
俺の手の辺りに水がぽとりと落ちる。
一瞬だけ雨漏りを疑ったがすぐに水の正体がわかった。
「くそっ!
なんだよ…なんなんだよ…なんでなんだよ!
おかしいだろ?
負けると分かってたはずだ!
それなのに…それなのに…何でこんなに悔しんだよ!」
そう、俺は泣いていた。
どんなに自分が弱いと割り切ってもどうしても悔しいという感情だけは拭えなかった。
知りたくない感情だった。
腸が煮え繰り返るとはこのことを言うのかと思う。
しかし、それすらも足りないような焦燥感と悔しさが身を襲う。
「ふざけんなよ…あんなのにどうやって勝てと?」
勝てる瞬間が思い浮かばない…。
「あんな理不尽な存在が何で生まれたんだよ!
何で俺は人間なんだよ…」
気が付いてしまった。
知ってしまった。
種族の差とは能力の差だけでは無く、肉体としての差でもあることを…。
あれより弱いと言われても基本的な力ですら違いすぎる。
生まれして持った違いが直接叩きつけられる。
「なのに…何でだろうな…。
こんなに負けたのに…こんなに勝てないと分かるのに…何でまだ勝ちたいんだろうな…」
苛立つ…どうしようもなく勝ちたがっている自分に…勝ちたいのにどうすればいいかわからない自分に…。
「なぁ…教えてくれよ…どうすれば勝てる?」
そう呟いた時だった。
「勝ちたいのですか?」
声が聞こえる。
俺は声の主を見るとそこには麗が笑ってこちらを見ていた。
「あぁ…勝ちたい。
その為なら何だってできる気がするほどに…」
「そうですか。
それなら…よかったです」
麗はニッコリと笑ってそう言うと近づいてきて俺に指を指す。
「伊坂井 神刀お兄様。
あなたには次期当主候補になってもらいます」
そう堂々と言い切ったのだ。
麗はそう言って笑うと真剣な目で俺を見て来る。
「ど、どういうことだ?」
いまいち理解できずに俺は問いかける。
しかし、麗は『その話は後ででお願いします』と言ってどこか行ってしまう。
「えっと…俺はどうすれば?」
一人状況も飲み込めずに取り残された俺はそう呟くしかなかった。
とりあえずと思って改めて周りを見る。
ドアは一つで先程、麗出たドアと家具が最低限の揃っていた。
ただ、タンスが一つとその上に灯りが一つ乗ってるだけの本当に最低限であるが。
あとあるのは今現在、俺が眠っているベッドくらいであろう。
部屋の大きさも六畳より少し小さいくらいでそこまで大きくはない。
「とりあえず、ここはどこだろうな…窓も見当たらないし、確認のしようもないな」
ため息を一つ吐くと同時に振動を感じる。
地震かと思ったがそれにしては短すぎた。
そして、少しすると再びドアが開き麗が俺の前に立っていた。
「付いてきて下さい、神刀お兄様。
そのあとに説明はしますので」
「わかった」
俺は状況も掴めずに麗の後ろについて行く。
そして、外に出た時俺は予想外のものが目に映り一瞬だけ自分の目を疑った。
目の前にあるのは大きな山…そこはいい。
そして、その山の前にあるのはまだいい。
しかし、その山は酷く見覚えがあった。
それはニュースなどでは見ない…いや、正確にはもう見せれるような場所ではないのだ。
500年前までならとても有名で色んな漫画などで見たことがある。
富士山
別名、不死山という名の今となっては呪いの山としては見られている。
そして、それを意味することとは…俺は僅かに視線を逸らすと先程まで自分がいた場所が目に映る。
それはかなりフォルムが違うが見た感じでは飛行機に近い何かであった。
「気がつきました?
とある事情があって神刀お兄様にはここに運ばせていただきました」
「その事情って言うのは?」
「それに関してはもう少し落ち着ける場所にしましょう。
とりあえず、今は目的地に向かいながら目の前の富士山について説明させていただきます」
そう言って麗は歩き出す。
それに続いて俺も追う。
「まぁ、連れて来た事情は後々話すとして…。
まずはこの山の歴史について話しますか」
「いや、それについては大丈夫だ」
俺はそう言って麗の言葉を遮る。
そして、確認の意味も込めて富士山について…いや、不死山について語る。
元々はいくつかの曰くはあったが綺麗で世界遺産にもなる富士山だったが、それは状況としては今では一転していた。
超能力による影響である。
俺の持つミスリルなどのファンタジーな金属のように生態系に変化を与えていた。
それが顕著に出たのが富士山を筆頭とした不気味な逸話や神聖視、注目が多い世界遺産などが多かった。
日本でなら富士山の他にも古墳などと言った巨大な墓…他にはちょっとした例外として神社などにも大きく影響を及ぼしている。
まぁ、多かれ少なかれどこでもそんな影響が出ている。
しかし、今語った場所は違う。
言うならエネルギーが集まりすぎたのだ。
それはその環境の生物に大きく影響を与えそして、その場所そのものにも影響を与えてしまった。
故に強力かつ危険な化け物と呼べるような生物が生まれたのだ。
その皮肉を込めてか、かぐや姫の逸話に沿ってか気が付けば『富士山』では無く『不死山』と呼ばれていた。
「まぁ、概ねその通りです。
付け加えるのならあれはもう山とは呼べません…魔境です」
その言葉に俺は息を飲む。
それは実感の篭もった一言だった。
ただ一つの恐怖からくる声色に俺は思わず足を止める。
すぐに足を止めていたことに気が付き再び歩き出す。
「あとは今の『富士山』の状況ですね。
簡単に言えばこの十二分の一の区画は私達、伊坂井家の管轄ですね」
「えっと…要するに管理をしているのか?」
「そうですね要約すれば管理です。
まぁ、十二画の名家…要するにそれぞれ十二支と見立てた名家がそれぞれ管轄しています。
北から子、そして東を卯、南を午、西を酉となっていますね。
そして、私達伊坂井家は丑の北北東の部分が管轄ですね」
麗はそう言って軽く説明をしてくれる。
そのついでに俺の知っている関係者を聞かせてくれた。
そこに意外な人物もいたがそもそもが基本的には富士山の詳しい管轄は当主くらいしか知らないらしい。
伊坂井家の方は必要事項として教わるので麗は知っているらしい。
まず、グラフト先生のイラード家が子の管轄らしい。
元々、あの家は活性系の能力が多く先生は例外中の例外らしい。
それでも、先生が伊坂井家を知らないのと教師をできるのは未だ当主になっていないことが起因しているだろう。
そして、寅の羽地崎家である。
あの日、テロの時にいた男の家である。
まぁ、そんな犯罪者を一人出した所為で今現在発言力などが落ちているそうだ。
そして、俺が知っている十二画の名家の最後の家は戌の管轄の貝沢家だった。
あの直哉の家である。
他の十一の家と比べると富士山の化け物の間引きをかなり行なっているそうで、現当主は下手をすれば十二画の名家の中でも最強だそうだ。
そこで俺はふとした疑問が浮かんだ。
「なぁ、なんで人種の名家がこんな所を管轄できたんだ?」
その疑問に対して麗はにっこりと笑うと少し足を止めた。
「簡単な話です。
それを認めさせるほどの実力をそれぞれの名家が見せたからです。
例えば融合使用などを代表にして…」
そう言うと意味有りげに俺を見つめてくる。
恐らく、俺が使った力のことだろう。
たしかにあの力ならかなりの実力を示せるだろう。
「なるほどな、要するにあの規格外の能力を使用してうちは周りの家を黙らせた訳か…」
俺がそう言うと満足したのか麗は再び歩き出して話し始める。
「はい、それがうちが名家になれた理由です。
そして、後は普通に亜人の管轄ですよ。
人種だったから私も覚えていたのですけど他はあまり知りませんね」
麗はそう言うとため息をついて足を止める。
「さて、後の話は中でしましょう」
「お、おぅ。
わかってはいたけど…」
そこには大きなお屋敷が建っていた。
森の中に建っているためかこれだけ近づかないと分からなかったが、知っていたとは言え本当に名家だと確認ができた。
そうこうしているうちに迎えの方が来たようで執事服のようなものを着た人が門の前に立っていた。
「お話は伺っております。
ささ、こちらへ」
そう言われて俺は敷地内に足を踏み入れる。
「あなたが神刀様ですね?」
歩きながら俺を一瞥して執事の男はそう言う。
そこに興味などは無く、ただの確認を行っているようだ。
それに対して俺は頷くと「そうですか」と言って屋敷の裏側に案内される。
麗も後ろからちゃんと付いてきており危険は無さそうだ。
「では、こちらの扉にお入りください」
「え、はい」
執事の方がそう言って開けた扉は巨大な壁の門だった。
約50メートルはありそうな壁とそれに不釣り合いな3メートル程度の扉…。
「あ、神刀お兄様、中に入る前にこの手紙を持って行ってください。
端末に今から送る地図の通りの場所に来たら見てください」
「お、おう。
お前は行かないのか?」
それを聞いた瞬間、麗は僅かに目を逸らす。
そして、再び笑顔になりこう言った。
「神刀お兄様、私は行けません。
家のしきたりですので…」
その瞬間、俺は理解した。
今までの会話の流れから僅かな可能性を示唆していた。
「わかった。
なら、行ってくる」
俺はそう言うと執事の男は意外そうな顔をした。
「いいのですかな?
何も聞かなくても…」
「いいよ、答えられないんだろ?
手紙だけ渡されたとというこのは」
「その通りでございます」
「なら、駄々こねられないな。
大丈夫、軽い気持ちで居られるようなことではないと思ってるから」
それを聞いて麗は唇を噛んで居た。
何も言えない辛さというものがあるのだろうか?
執事の男は依然として変わらなかった。
「んじゃ、行ってくるよ」
そうして、俺は門を潜っていく。
そう、不死山の魔境の中に入っていく。
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あれから、何時間たったのだろう…。
やっとの思いで着いた目的地で俺は休んで居た。
「あぁは言ったものの…手紙には何が書いてあるんだ?」
先程からずっと気になっており手紙を開いた。
そして、そこには予想通りのことが書かれていた。
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神刀お兄様へ
今現在お兄様がいる場所は富士山の中腹よりちょっと下の準危険区と呼ばれるポイントです。
基本的な魔獣などの強さはそこまでではありませんが危険であることはたしかです。
そして、これはお兄様が当主候補になる為の試練の一つです。
基本的にこれより下にいればお兄様の端末の何処かにあるはずのカウンターがストップします。
そして、上にいてもカウンターそのものは正常に動きます。
そのカウンターがゼロ要するに168時間の間その場で生き残り帰ってくればお兄様は晴れて当主候補となります。
くれぐれも気をつけて油断しないようにした下さい。
この場所は今のお兄様より何倍も強いので…。
麗より〜
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「七日間…」
俺は考えていた。
逃げ回れば生きることは簡単かもしれない。
しかし、俺は今食料を持っていない。
そして、食べていない。
要するに168時間も生きるにはどうにかして食料を確保する必要がある。
しかし、先程までとは違い地図は使えない。
なぜならここに来るまでのポイントしか無く、地図が使い物にならないのだ。
ここに長くも大変な七日間の生存競争が始まったのだ。




