不正なんてしてない!・完結編
不正なんてしてない!・完結編
「白虎配下じゃなくて――俺本人でもいいぞ」
「えええええっ!?」
白虎陣営から、一斉に不満の声が上がった。
「白虎様ずるい!」
「俺たちだって下界に行きたいんですよ!」
「今まで待ってたのは俺たちの方が長いです!」
「お前ら、主が当たるかもしれないんだぞ! 少しくらい応援しろ!」
「当たったら祝います!」
「でも今は自分を応援します!」
「正直すぎるだろ!」
他の陣営から笑いが起こる。
朱雀も呆れたように白虎を見る。
「さっきまで『次が白虎配下なら一人ずつ』って話してたじゃん」
「それはそれ!」
「公平かどうか気にしてたのに?」
「それと俺が当たるかどうかは別問題だ!」
「全然別じゃない!」
青龍が淡々と言う。
「そもそも、お前が望んだから結果が変わるわけではない」
「分かってるよ!」
「分かっている者の騒ぎ方には見えん」
「うるさい!」
最後のコインを持った玄武が、白虎を見る。
「そろそろ回してよいか?」
「待て」
「まだ何かあるのか」
白虎は玄武のそばへ行くと、真剣な顔で頼み込んだ。
「玄武」
「何じゃ」
「俺を出せ」
「わしに言われても困る」
「そこを何とか!」
「何ともならん」
「念を込めろ!」
「断る」
「冷たいな!」
白虎配下から声が飛ぶ。
「玄武様! 白虎様じゃなくて俺たちをお願いします!」
「お前ら!」
「玄武様、こっちです!」
「俺!」
「私!」
「だから主も候補に入れろ!」
玄武はしばらくその騒ぎを眺めたあと、苦笑した。
「誰が出ても恨みっこなしじゃぞ」
「もちろん!」
「俺が当たったら祝えよ!」
「白虎様も俺たちが当たったら祝ってくださいね!」
「当たり前だ!」
「では、回すぞ」
玄武が最後のコインを入れた。
白虎本人と、その配下たち。
どちらもガチャを食い入るように見つめている。
「俺……俺……俺……!」
「白虎陣営!」
「俺!」
「私!」
朱雀まで面白がって声を上げた。
「白虎本人!」
「そうだ! もっと言え!」
「白虎本人!」
「朱雀様」
執事が呼ぶ。
「何?」
「どちらを応援なさっているのですか」
「面白い方!」
「左様でございますか」
「朱雀様、私も!」
天女も加わる。
「白虎様本人!」
「いいぞ!」
白虎が拳を握る。
白虎配下たちからは、
「天女様までー!」
と悲鳴が上がった。
「では行くぞ」
玄武がガチャを回す。
騒がしかった会場が、一瞬だけ静まり返った。
そして。
結果が示される。
白虎陣営。
「出た!」
「白虎だ!」
「誰!?」
「俺か!?」
「私!?」
白虎配下たちが一斉に結果を確認する。
その中で。
「……俺?」
一人の配下が自分を指さした。
「俺だ!」
次の瞬間。
「やったあああ!」
白虎陣営が大歓声に包まれた。
「おめでとう!」
「やったな!」
「先越された!」
「下界行けるぞ!」
仲間たちに囲まれ、当選した配下も飛び上がって喜ぶ。
「やった! やっと当たった!」
「おお!」
白虎も思わず声を上げた。
「うちが出た!」
「白虎様!」
当選者が白虎を見る。
「やりました!」
「ああ! よかったな!」
「ありがとうございます!」
「待った甲斐があったな!」
「はい!」
白虎も素直に配下の当選を喜んでいた。
朱雀がその様子を見て笑う。
「ちゃんと喜ぶんだ」
「当たり前だろ! 俺の配下だぞ!」
「よかったね!」
「ああ!」
白虎は嬉しそうに当選者を見る。
「…………」
数秒。
「白虎様?」
「…………でも」
「はい?」
「俺じゃない」
「今、喜んでくださったばかりですよね!?」
会場が笑いに包まれた。
「違う! お前が当たったのは嬉しい!」
「ありがとうございます!」
「でも俺も当たりたかった!」
「朱雀様と同じじゃないですか!」
「一緒にするな!」
「同じでしょ!」
朱雀がすぐに突っ込んだ。
◇
これで四枚すべてが終わった。
青龍。
玄武。
朱雀。
白虎。
それぞれの陣営から、配下が一人ずつ。
「本当に一人ずつだ……」
誰かが呟く。
「こんな綺麗に分かれることあるんだな」
「今まであんなに偏ってたのに」
「…………」
朱雀がゆっくり白虎を見る。
「何だよ」
「ねえ」
「何だ」
「これで分かったよね?」
「何が?」
朱雀は大きく息を吸った。
「不正なんてしてなかったでしょ!」
会場中に声が響いた。
「ずーっと言われてたんだから! 朱雀陣営ばっかり出る、おかしい、黄龍様と裏で何かやってるんじゃないかって!」
「それは……」
「言ったよね!」
「……言ったかも」
「言った!」
天女も隣で大きくうなずく。
「言われてました!」
「天女まで覚えてるのかよ!」
「覚えてます!」
青龍も口を開く。
「俺も覚えている」
「お前はもういい!」
「聞かれたから答えただけだ」
「聞いてない!」
「今回の結果を見る限り」
玄武が四人の当選者を見る。
「少なくとも、朱雀陣営だけを優遇するような仕組みではなさそうじゃのう」
青龍もうなずく。
「ランダムならば、偏ることもあれば今回のように均等になることもある。それだけの話だろう」
「そう!」
朱雀が白虎へ詰め寄る。
「くじ運がよかっただけ!」
「近い近い!」
「黄龍様との癒着なんてなかった!」
「分かった!」
「謝って!」
「悪かったよ!」
「聞こえない!」
「悪かった!」
「よし!」
朱雀は満足そうに腕を組んだ。
周囲から拍手と笑いが起こる。
これで、長く朱雀につきまとっていた疑いも、ひとまず決着だった。
◇
「なあ」
白虎が当選した自分の配下へ声をかけた。
「はい、白虎様」
「ちょっと相談がある」
「何でしょう?」
「俺と代わらないか?」
「嫌です」
「早い!」
「今、当たったばかりなんですよ!?」
「ちょっとだけ!」
「何をどうちょっとだけ代わるんですか!」
周囲の白虎配下からも声が飛ぶ。
「白虎様ずるい!」
「俺たちだって当たりたいんですよ!」
「当選者から奪わないでください!」
「奪うって言うな! 相談だ!」
「同じです!」
「違う!」
朱雀が腹を抱えて笑う。
「諦めなよ!」
「お前はいいよな!」
「何で?」
「自分の配下が出たんだから!」
「白虎だって出たじゃん」
「俺本人が出たかったんだよ!」
「…………」
朱雀の笑顔が止まる。
ゆっくり、自分の当選配下を見る。
「ねえ」
「代わりませんよ」
「まだ何も言ってない!」
「白虎様と同じ顔をしていました」
「どんな顔!?」
天女が笑う。
「朱雀様、駄目ですよ!」
「天女まで!?」
「せっかく当たったんですから!」
「分かってるよ! ちょっと言ってみようかなって思っただけ!」
「思ってたんですね」
執事が言う。
「執事まで!」
◇
結局。
今回から四聖獣本人全員が抽選対象になったものの、本人は一人も当たらなかった。
「四人もいるのに、誰も出なかったね……」
朱雀が少し残念そうに言う。
「おかしい!」
白虎が叫ぶ。
「ランダムだ」
青龍が即答した。
「その言葉、今日何回目だ!」
「事実だからな」
朱雀が青龍を見る。
「青龍は悔しくないの?」
「別に」
「本当に?」
「別に」
天女まで顔を覗き込む。
「本当ですか?」
「…………」
「ほら、黙った!」
朱雀が笑う。
「出たくなかった?」
「…………多少は興味があった」
「ほらー!」
白虎がすぐに食いつく。
「お前も出たかったんじゃないか!」
「お前ほどではない」
「そこは素直に認めろよ!」
「十分認めただろう」
玄武は騒ぐ三人を眺めながら笑っていた。
◇
当選した四人の周りには、まだ仲間たちが集まっている。
「下界に行ったら何する?」
「人間に見てもらえるってどんな感じなんだろうな」
「帰ってきたら絶対教えて!」
「もちろん!」
「分からないことがあったら、私に聞いてください!」
天女が胸を張った。
「おお!」
「先輩!」
「お願いします!」
「任せてください!」
「じゃあ私も聞いておこうかな」
朱雀が天女の隣へ並ぶ。
「朱雀様はまだ当たっておりません」
執事が即座に言った。
「分かってるよ!」
「次のためだよ、次の!」
「次回の当選も決まっておりません」
「夢くらい見させて!」
朱雀が天女を見る。
「次こそ私だから!」
「はい!」
「当たったら一緒に下界行こうね!」
「行きましょう!」
その横では。
「なあ、本当に代わらない?」
「代わりません!」
「一回だけ!」
「何の一回ですか!」
白虎がまだ粘っている。
「白虎様、諦めてください!」
「俺たちも次を待つんですから!」
「分かったよ!」
「本当ですか?」
「……たぶん」
「白虎様!」
また笑いが起こった。
玄武は、最後まで騒がしい会場を見渡す。
「……本人まで対象になった分、今まで以上に騒がしくなったのう」
「同感だ」
青龍が答える。
「次こそ私!」
「いや、俺だ!」
「俺たちもいるぞー!」
朱雀。
白虎。
そして大勢の配下たちの声が重なる。
不正疑惑は、ひとまず解決。
けれど。
四聖獣本人まで加わったガチャ会が、これから静かになることだけは――どうやらなさそうだった。




