不正なんてしてない!・中編
不正なんてしてない!・中編
「次、私!」
朱雀が二枚目のコインを手に取った。
「朱雀様、今度こそ!」
天女がすぐに声を上げる。
「任せて!」
朱雀が胸を張ると、横から執事の冷静な声が飛んできた。
「何を任せるのでしょう」
「応援に応えるの!」
「抽選は朱雀様の意思では決まりません」
「分かってるって!」
「本当に分かっておられますか?」
「分かってる!」
「でしたらよろしいのですが」
天女が朱雀の隣からガチャを覗き込む。
「朱雀様が当たったら、さっきの続きですね!」
「そうそう! まず食べ歩きして、そのあと――」
「まだ回してもおりません」
「執事、細かい!」
「順序の問題でございます」
「じゃあ回せばいいんでしょ!」
「最初からそのために集まっております」
「もう!」
朱雀がガチャの前へ立つ。
すると。
「ここだな」
白虎が腕を組んだ。
「何が?」
「また朱雀陣営が出るところだ」
「まだ言うの!?」
「ここで出たら、さすがに怪しいぞ」
「じゃあ違うところが出たら謝ってよ!」
「一回だけじゃ分からない」
「先に逃げ道作らないで!」
「慎重なだけだ!」
「都合がいいだけでしょ!」
周囲の配下たちから笑い声が上がった。
「朱雀様、頑張って!」
「白虎様を黙らせてください!」
「私が決めるわけじゃないって言ってるでしょ!」
「でも朱雀様なら!」
「何、その謎の信頼!」
白虎が鼻で笑う。
「ほら、配下まで怪しいこと言ってるぞ」
「白虎は黙ってて!」
朱雀はコインを入れた。
「いい? ちゃんと見てなさいよ!」
「見てるよ!」
「絶対だからね!」
「早く回せ!」
「白虎が急かさないで!」
そう言いながらも、朱雀は勢いよくガチャを回した。
騒がしかった会場が、一瞬だけ静かになる。
全員の視線が結果へ集まった。
示されたのは――。
「……玄武!」
朱雀が声を上げる。
ほぼ同時に、玄武配下たちがざわめいた。
「誰だ?」
「俺じゃない!」
「私……?」
一人の配下が自分を指さす。
そして、結果をもう一度確認してから目を見開いた。
「私です!」
次の瞬間。
「おお!」
「当たった!」
「おめでとう!」
「やったな!」
玄武陣営が一気に沸いた。
仲間たちが当選者の周りへ集まり、次々に肩を叩く。
「本当に私が……!」
当選した玄武配下は、まだ少し信じられないように結果を見ていた。
玄武が穏やかに笑う。
「よかったのう」
「玄武様!」
「ずいぶん待っておったからな」
「はい!」
ようやく実感が湧いてきたのか、当選者の顔に大きな笑みが広がった。
「ありがとうございます!」
「下界へ行く機会、大切にするのじゃぞ」
「もちろんです!」
周囲の仲間たちも黙ってはいない。
「帰ってきたら話聞かせろよ!」
「人間に見てもらえるって、どんな感じか教えて!」
「下界の食べ物も!」
「それ必要?」
「必要だろ!」
「一番大事かもしれない!」
「何でだよ!」
当選者も笑う。
「全部話しますよ!」
「約束だからな!」
「いいなあ。次は俺も!」
「いや、私!」
自分たちの陣営から当選者が出た喜びと、次こそは自分がという羨ましさが入り混じり、玄武陣営はしばらく大騒ぎだった。
「下界の食べ物なら!」
その声を聞きつけて、天女がすぐに振り返る。
「私、いろいろ知ってますよ!」
「本当ですか?」
「はい!」
「おすすめあります?」
「いっぱいあります!」
当選した玄武配下の目が輝く。
「ぜひ教えてください!」
「もちろん!」
「天女」
執事が静かに呼んだ。
「何ですか?」
「今は玄武様の配下の当選を祝っているところです」
「あ」
天女は改めて当選者へ向き直った。
「おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
「あとで下界のこと、いっぱいお話ししますね!」
「お願いします!」
「天女、すっかり先輩だね」
朱雀が笑う。
「はい!」
「私が当たったときもよろしくね!」
「もちろんです!」
「朱雀様」
「何?」
「まだ当選しておりません」
「分かってるってば!」
執事の言葉に、周囲からまた笑いが起きた。
◇
そんな中。
「…………」
朱雀は、ゆっくり白虎へ顔を向けた。
「何だよ」
「玄武だよ?」
「見れば分かる」
「私が回したのに玄武だよ?」
「分かってる!」
「朱雀陣営じゃないよ?」
「何回言うんだ!」
「ほら!」
朱雀が胸を張った。
「操作してない!」
「一回だけだろ!」
「一回でも証拠!」
「だから一回じゃ証拠にならないだろ!」
「なってる!」
「なってない!」
「なってる!」
「なってない!」
当選した玄武配下が、二人を見比べながらおそるおそる手を上げた。
「あの……」
「何?」
朱雀が振り返る。
「私、何かの証拠になっているのでしょうか」
「なってる!」
「そうなのですか!?」
「朱雀」
玄武が苦笑する。
「せっかく当選したのじゃ。証拠扱いする前に、まず祝ってやらんか」
「あ!」
朱雀はすぐに玄武配下へ向き直った。
「ごめん! おめでとう!」
「あ、ありがとうございます!」
「下界、楽しんできてね!」
「はい!」
「あなたが当たったの、私も嬉しいよ!」
「ありがとうございます!」
「それに私の潔白にも一歩近づいた!」
「やっぱり証拠なんですね!?」
白虎が吹き出した。
「結局利用してるじゃないか」
「うるさい!」
玄武配下が困ったように玄武を見る。
「玄武様……」
「気にせんでよい」
玄武は笑う。
「朱雀は今、自分の潔白を証明することで頭がいっぱいなのじゃ」
「なるほど」
「納得しないで!」
会場に笑いが広がった。
◇
これで二枚目も終了した。
一枚目は青龍陣営。
二枚目は玄武陣営。
今のところ、同じ陣営から続けて当選者は出ていない。
「ほら」
朱雀がまた白虎を見る。
「何だよ」
「今のところ一人ずつ」
「二枚しか引いてないだろ」
「それでも一人ずつ!」
「分かったから!」
白虎は面倒そうに答えたものの、先ほどまでより少しだけ勢いがない。
朱雀はそれを見て満足そうに笑った。
「朱雀様」
「何?」
天女が嬉しそうに朱雀へ近づく。
「まだ二枚あります!」
「そうだよね!」
朱雀の意識はあっという間に次の抽選へ移った。
「次こそ私かも!」
「朱雀様が当たったら、さっきの続きですね!」
「そうそう! 食べ歩きして、お店見て、それから――」
「朱雀様」
執事が呼ぶ。
「何?」
「次に回されるのは青龍様です」
「分かってるよ!」
「では、なぜすでに朱雀様が当選した後の話を」
「青龍が私を当てるかもしれないでしょ!」
天女も大きくうなずく。
「そうですよ!」
「…………」
執事が一瞬だけ黙った。
「可能性としては、ございます」
「ほら!」
「ですが、当選してからお考えになっても遅くはございません」
「今考えるのが楽しいんじゃん!」
「そうです!」
「……左様でございますか」
朱雀と天女が顔を見合わせて笑う。
執事はそれ以上言うのを諦めたようだった。
その横では、当選した玄武配下が仲間たちからまだ祝福されている。
一枚目は青龍。
二枚目は玄武。
そして残るコインは、あと二枚。
「次は俺か」
青龍が三枚目のコインへ手を伸ばした。
その瞬間。
「青龍様ー!」
「次は俺を!」
「もう一人お願いします!」
今度は青龍陣営から一斉に声が上がる。
白虎がすぐにそちらを振り向いた。
「お前ら一人出ただろ! 欲張るな!」
「白虎様には言われたくありません!」
「何でだ!」
また会場に笑いが起きた。
三枚目。
まだまだ、静かに終わりそうにはなかった。




