第9話「ぬらりひょん、名乗れない!?」
第9話「ぬらりひょん、名乗れない!?」
内田紀人 作
「ええええええっ!?」
則人は、目の前に現れた姿を見て、大声を上げた。
さっきまで。
そこに何かいるような。
いないような。
ぼんやりとしか分からなかったもの。
それが今は。
はっきりと見える。
「妖怪だ……!」
則人の目が、一気に輝いた。
そこにいたのは。
狐に似た妖怪だった。
「すっげえ……!」
則人は右へ動く。
狐を見る。
「…………」
見える。
今度は左へ動く。
「…………」
やっぱり見える。
しゃがんでみる。
「…………」
まだ見える。
少し立ち上がる。
もう一度しゃがむ。
「…………」
狐は。
そんな則人を、じっと見ていた。
「ほんとにいる……!」
則人は、さらに顔を近づけようとする。
狐が首を傾けた。
「…………?」
則人も首を傾ける。
「…………?」
狐が反対側へ傾ける。
則人も。
反対へ傾けた。
「…………」
「…………」
また狐が傾ける。
則人も傾ける。
「…………」
「…………」
「お前、誰?」
狐は答えない。
「しゃべらないの?」
「…………」
「おーい」
「…………」
また。
狐が首を傾けた。
則人も。
つられて首を傾ける。
「…………?」
「…………?」
「いつまでやっとるんじゃ」
後ろから。
呆れたような声が飛んできた。
「あ」
則人が振り返る。
そこには。
さっきから一緒にいた、もう一人の妖怪がいる。
「そうだ! あんた!」
「今度はなんじゃ」
「ぼく、あんたの名前知らない!」
「…………」
妖怪は。
しばらく黙った。
「……本当に今さらじゃな」
「だって、さとる君のことでいっぱいいっぱいだったんだもん!」
「まあ……それはそうじゃが」
妖怪は咳払いをした。
「では」
すっ。
背筋を伸ばす。
どこか偉そうに胸を張った。
「改めて名乗っておこう」
「うん!」
則人も。
ちょっとだけ姿勢を正す。
「わしは――」
「…………」
則人が、その顔をじーっと見る。
「わしは――」
「ちょっと待って!」
「なんじゃ!?」
妖怪の声が裏返った。
「なんか知ってる気がする!」
「だから、わしが今から教えるところじゃ!」
「ダメ! 言わないで!」
「なぜじゃ!」
「自分で思い出したい!」
「わしの名前なのに!?」
「待って!」
則人は腕を組んだ。
「うーん……」
「…………」
妖怪は。
名乗ろうと胸を張ったまま。
待っている。
「うーん……」
「…………」
「なんだっけ……」
「…………」
「ここまで出てるんだけどなあ」
則人は自分の喉を指さした。
「なら早く出せ!」
「待ってよ!」
「もう十分待ったぞ!」
「もうちょっと!」
「わしが言えば一秒じゃ!」
「それじゃ意味ないじゃん!」
「何の意味じゃ!」
妖怪はとうとう腰に手を当てた。
それでも則人は、じーっと顔を見る。
「…………」
「…………」
「うーん……」
「まだか」
「待って!」
「いつまで待たせるつもりじゃ!」
「分かりそうなの!」
「だから、わしが――」
「あっ!」
「お?」
則人の顔が。
ぱっと明るくなった。
「ぬらりひょん!」
「…………」
妖怪の口が。
ぴたりと止まった。
「ぬらりひょんでしょ!」
「…………」
「当たり?」
「…………」
「ねえ!」
「……なぜ分かった」
「やったあ!」
則人は両手を上げた。
「当たった!」
「喜ぶ前に質問に答えんか!」
「ボランティアのお爺さん!」
ぬらりひょんが、わずかに目を細める。
「……なんじゃ?」
「ボランティアのお爺さんが、昔話で教えてくれたんだよ!」
「ほう」
「妖怪の話、いっぱい知ってるんだ!」
「……ずいぶん詳しく教わったようじゃな」
「うん!」
則人は得意そうに胸を張った。
「ぬらりひょんはね!」
「うむ」
「妖怪の親分みたいな妖怪なんだよね!」
ぬらりひょんの顔が。
少しだけ得意そうになる。
「まあ、そういう言われ方も――」
「あと、勝手に人の家に入る!」
「…………」
ぬらりひょんの顔が止まった。
「家の人みたいな顔して座ってる!」
「待て」
「それで、お茶も飲む!」
「待て待て」
「みんなも、なんとなく『この人、家の人かな?』って思っちゃうんだって!」
「もうよい!」
ぬらりひょんの声が響いた。
則人は、きょとんとする。
「なんで?」
「なぜ、よりによってそこをそんなに詳しく覚えておる!」
「面白かったから!」
「他にもあるじゃろう!」
「妖怪の親分?」
「そうじゃ!」
「でも、お茶飲む」
「戻るな!」
「勝手に入って」
「もうよいと言っとるじゃろ!」
「お茶飲んで」
「お茶から離れろ!」
則人は。
とうとう吹き出した。
「あはははは!」
「何がおかしい!」
「ぬらりひょん、面白い!」
「わしは笑わせるために名乗ったのではない!」
「でも」
則人が笑いながら言う。
「自分で名乗ってないよ」
「…………」
ぬらりひょんが固まった。
「ぼくが当てた」
「…………」
「名乗れてないよ?」
「分かっとるわ!」
則人は、また声を上げて笑った。
ぬらりひょんは額を押さえる。
「まったく……」
せっかく。
威厳たっぷりに名乗るつもりだったのに。
九歳の子供に。
先に名前を当てられてしまった。
しかも。
覚えられていたのは。
妖怪の親分らしいところより。
勝手に人の家へ入って。
お茶を飲む話の方だった。
「ぬらりひょん!」
「なんじゃ」
「ぬらりひょん!」
「だから、なんじゃ!」
「呼んでみただけ!」
「用もないのに呼ぶでない!」
「ぬらりひょーん!」
「聞こえとるわ!」
「あははは!」
「そんなに面白いか!?」
「うん!」
「即答するな!」
則人は。
ますます楽しそうに笑った。
「…………」
そんな二人を。
少し離れたところから。
狐が静かに見ていた。
「あ」
則人が気づく。
狐を見る。
それから。
ぬらりひょんを見る。
「ねえ」
「今度はなんじゃ」
「あの狐、知ってる?」
ぬらりひょんも狐を見る。
「さてな」
「知ってるでしょ」
「なぜそう思う」
「今、知ってるっぽい顔した」
「どんな顔じゃ」
「こんな顔」
則人は。
目を細め。
口をきゅっと結ぶ。
妙に偉そうな顔を作った。
「…………」
「似ておらん!」
「似てるよ!」
「全然似ておらん!」
「じゃあ鏡見てみれば?」
「なぜわしが九歳の子供と、こんな言い争いをせねばならんのじゃ……」
ぬらりひょんは。
大きなため息をついた。
「ねえ、狐」
則人は、もう一度狐を見る。
「お前、名前なんていうの?」
「…………」
狐は答えない。
「やっぱりしゃべらないの?」
「…………」
「ぬらりひょん」
「なんじゃ」
「狐ってしゃべらないの?」
「狐による」
「じゃあ、この狐は?」
「さてな」
「知ってる顔した!」
「しておらん!」
「したよ!」
「しておらん!」
「した!」
「しておらん!」
「じゃあ、こんな顔して!」
「なぜじゃ!」
結局。
狐が何者なのかは。
まだ分からない。
どうして急に。
則人にはっきり見えるようになったのかも。
分からない。
でも。
今日。
分かったこともある。
「…………」
則人は。
にやっと笑った。
「ぬらりひょん!」
「……なんじゃ」
「お茶飲む?」
「飲まんわ!」
「えー!」
「なぜ残念そうなんじゃ!」
則人の笑い声が響く。
ぬらりひょんは。
また。
深いため息をついた。
その横で。
狐だけが。
静かに二人を見ていた。
――つづく
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




