閑話一 三十枚になるまで
閑話一 三十枚になるまで
上界。
「来たぞ」
白虎の声に朱雀が振り返ると、下界からセミスピーカーの着ぐるみ因子が上がってきていた。
「無事に終わったようじゃな」
「そうだな」
青龍が答える。
因子がここまで上がってきたということは、セミスピーカーは解除され、事件が解決したということだ。
「では、今回も採点じゃな! さて、則人は今回はどれくらい――」
「待て」
嬉しそうに身を乗り出した朱雀を、青龍が遮った。
「なんじゃ?」
青龍は下界の記録を確認したまま、わずかに表情を変える。
「……おかしい」
「何がだ?」
白虎が尋ねる。
「記録がない」
「記録?」
「着ぐるみモンスターへの対応記録だ。事件が起きる前までは残っている。だが、その先がない」
玄武が静かに尋ねた。
「モニタリングされていないということか?」
「ああ」
「なぜじゃ?」
朱雀の問いに、青龍は少し間を置いて答えた。
「則人が変身していない」
一同が黙った。
◇
「変身しておらぬ? 一度もか?」
「ああ。一度もだ」
白虎も記録を確かめる。
「本当だな」
「じゃが、これがあるではないか!」
朱雀は上がってきた因子を指差した。
「これがあるということは、セミスピーカーは解除されたのじゃろう?」
「それは間違いない」
「ならば、則人が解決したのではないのか?」
青龍は首を横に振る。
「そこが分からない。結果は分かるが、過程が分からない」
玄武が腕を組む。
「……なるほど」
「則人が変身していない以上、こちらでは事件中の行動をモニタリングできていない」
「では、何をしたのじゃ?」
「分からない」
「さとると話したのか?」
「分からない」
「何か別のことをしたのか?」
「分からない」
「どうやってピコピコハンマーを使うところまで行ったのじゃ?」
「それも分からない」
朱雀が目を丸くした。
「何も分からぬではないか!」
「だから、そう言っている」
分かっているのは一つだけ。
事件は解決した。
だが、そこへ至るまで何があったのか、上界の誰にも分からなかった。
◇
黄龍は黙ったまま記録を見ている。
「では、きっと則人が何とかしたのじゃ!」
朱雀が言うと、青龍が即座に返した。
「きっと、で採点するつもりか?」
「じゃが、事件は解決しておる!」
「それは結果だ」
「結果も大事じゃろう!」
「大事だ。だが、我々は則人が何をしたのか見ていない」
朱雀がむっとする。
「おぬしは固すぎる!」
「お前が甘すぎる」
「なんじゃと!」
そこへ白虎が口を挟む。
「俺は青龍に近いな」
「白虎まで!」
「そもそも今回は、戦ったかどうかすら分からん」
「戦えばよいというものではなかろう!」
「誰が戦えと言った!」
白虎も声を上げる。
「俺が言っているのは、何をしたのか分からんということだ!」
「ならば、うまく話して解決したかもしれぬではないか!」
「だから、それも分からんだろう!」
「きっとそうじゃ!」
「きっとで点を付けるな!」
青龍が小さく息を吐く。
「話が戻っているぞ」
◇
黄龍が玄武を見る。
「玄武はどう思う?」
玄武は腕を組んだまま、しばらく記録を見つめていた。
「事件が解決したことは間違いない」
「うむ!」
朱雀がすぐ反応する。
「だが、過程は確認できない」
「そうだ」
青龍が頷く。
「しかし、結果として因子はここへ来ている。ならば事件解決そのものについては……いや、しかし……」
玄武が再び考え込む。
白虎が尋ねた。
「で、何点だ?」
「まだ待て」
「まだ決まっていないのか?」
「慎重に考えている」
朱雀が胸を張る。
「わらわはもう決めたぞ」
「私もだ」
青龍も答え、白虎も続く。
「俺もとっくに決めた」
玄武は三人を見る。
「……もう少し待て」
「お前、考えているうちに採点が終わるぞ」
「だから考えているのだ」
「意味が分からん」
黄龍は急かすことなく、玄武が考え続けるのを見守っていた。
◇
しばらくして、黄龍が口を開いた。
「分かっていることを整理しよう。事件は解決した。セミスピーカーが解除されたことも確認できる。だが、則人が変身していなかったため、事件中の行動はモニタリングされていない」
「そうだ」
青龍が頷く。
「ならば、そこは採点できない」
朱雀が身を乗り出した。
「じゃが――」
「朱雀」
黄龍が静かに呼ぶと、朱雀は口を閉じる。
「則人が何かをした可能性は高い。よくやったのかもしれない。しかし、我々は見ていない。見ていないものを想像で採点することはできない」
「私も同意見だ」
青龍が言い、白虎も腕を組む。
「仕方ないな」
玄武だけは、まだ考えている。
「……しかし」
「まだ考えているのか?」
白虎が呆れる。
「もう少しだけ――」
「今回は、確認できる部分だけを採点する」
黄龍がそう告げると、玄武が顔を上げた。
「……決めたのか?」
「ああ」
「そうか……」
少し残念そうだった。
◇
事件が始まるまでの日常生活については、通常どおり確認できている。
五人は、その部分だけを採点した。
そして結果が出る。
「三十枚」
黄龍が告げた。
「少なすぎぬか!?」
真っ先に声を上げたのは朱雀だった。
青龍が冷静に返す。
「事件中が丸ごと採点できないのだから、こうなる」
「じゃが三十枚じゃぞ!」
白虎は結果を見る。
「日常生活だけなら、こんなものだろう」
「おぬしは辛すぎる!」
「お前が甘すぎるんだ!」
朱雀は黄龍を見る。
「もう少し何とかならぬか?」
「ならない」
「少しくらい!」
「ならない」
「五枚!」
「朱雀」
「……分かった」
朱雀は渋々引き下がる。
その横では、玄武がまだ考えていた。
「やはり、事件が解決したという事実に少し――」
「もう決めた」
黄龍が答える。
「……そうか」
青龍が玄武を見る。
「本当に採点が終わったな」
「まだ考えていたのだ」
「知っている」
◇
少しして、朱雀がぽつりと言った。
「しかし、この三十枚を則人に伝えるのじゃろう?」
「そうなるな」
青龍が答える。
白虎が言った。
「文句を言うだろうな」
「言うだろう」
玄武も頷く。
朱雀が黄龍を見ると、黄龍も少し考えてから答えた。
「……言うだろうな」
そこだけは、全員の意見が完全に一致した。
◇
「お呼びですかー!」
しばらくして、タライ小僧がやってきた。
黄龍から結果を受け取る。
「今回の採点結果だ」
「はい! 今回は何枚ですか?」
「三十枚」
「……え?」
タライ小僧が聞き返す。
「三十枚だ」
「少なくないですか?」
朱雀が勢いよく頷いた。
「そうじゃろう!」
「朱雀」
黄龍に呼ばれ、朱雀は黙る。
青龍が事情を説明した。
「今回は則人が変身していない。そのため事件中の行動がモニタリングされていなかった。事件が解決したことは分かっているが、どう解決したのかは分からない」
「そんなことあるんですか?」
「今回あった」
「それで三十枚……」
「日常生活部分だけの採点だ」
タライ小僧は手元の結果を見てから、五人を見回した。
「……これ、僕がノリちゃんに言うんですか?」
「そうだ」
「絶対怒られますよ!」
朱雀が頷く。
「わらわもそう思う」
「じゃあ朱雀様が言ってくださいよ!」
「それは嫌じゃ」
「ずるい!」
白虎が言う。
「頑張れ」
「他人事ですね!」
青龍は淡々と告げた。
「事実を説明すればいい」
「それで納得してくれますか?」
少しの沈黙。
誰も答えなかった。
「ほら!」
◇
仕方なく、タライ小僧は三十枚の結果を持って下界へ向かおうとした。
ところが、下界の様子を確認して足を止める。
「あれ? ノリちゃん、学校に行ってます」
採点について話し合っている間に、思った以上に時間が過ぎていた。
白虎が言う。
「なら、学校へ行けばいいだろう」
「授業中ですよ!」
「それはまずいな」
青龍が答える。
「ですよね!」
朱雀が言った。
「では、終わるまで待つしかあるまい」
「そうします……」
タライ小僧は三十枚を見つめた。
「絶対、言うだろうなあ……」
玄武が尋ねる。
「何をだ?」
タライ小僧は、則人の顔を思い浮かべた。
「『少なすぎない!?』って」
また少しの沈黙。
朱雀が頷く。
「言うな」
青龍も。
「言うだろう」
白虎も。
「言う」
玄武は少し考えてから答える。
「……言うだろうな」
最後に黄龍も頷いた。
タライ小僧は大きくため息をつく。
「やっぱり行きたくないなあ……」
それでも、仕事は仕事だった。
放課後。
三十枚の結果を抱えたタライ小僧は、則人を探して下界へ向かうのだった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




