第7話 ぼくが言うよ
第7話 ぼくが言うよ
土曜日の放課後。
「やっと終わったー!」
朝から大騒ぎだった二人も、どうにかその日の授業を終えていた。
校門を出ると、則人は大きく伸びをする。
「ノリちゃん、今日どうする?」
「公園行こうよ!」
「朝あんなことあったのに、元気だなあ」
「だって遊びたいもん!」
「ほんと元気だな」
さとるくんが笑う。
朝にはセミスピーカーになっていたさとるくんも、今はすっかりいつもの姿だ。
二人はランドセルを背負ったまま、いつもの公園へ向かった。
◇
公園に着くと、則人はランドセルを下ろした。
その横には、いつもの着替え袋がついている。けれど、周りにいる人たちは誰もその存在を気に留めない。
「じゃあ、ぼく着替えるね」
「やっぱり着るんだ」
「うん! ちょっと待ってね」
則人は着替え袋に手を伸ばし、いつものように着替えを済ませると、着ぐるみキット姿で両手を腰に当てた。
「よーし! キッド、参上!」
「結局それやるんじゃん」
「やるよ!」
「毎回?」
「毎回!」
さとるくんが呆れたように笑う。
二人はそのまま、走ったり、ヒーローごっこをしたりして遊び始めた。時々、則人は本物のキッドになりきってポーズを決める。
朝の騒ぎが嘘だったかのような、いつもの放課後だった。
◇
しばらくして。
「……あ」
さとるくんの声が止まった。
「どうしたの?」
則人が振り返る。
公園の入り口に、見覚えのある男の子たちが立っていた。
昨日、則人の着ぐるみキットを見て笑った、少し年上の男の子たちだった。
向こうも二人に気づく。
一瞬、空気が止まった。
「あ……」
男の子の一人が、則人の姿を見る。
「……また着てんの?」
さとるくんの眉が動いた。
「お前ら――」
言いかけて、止まる。
朝、則人と話したことを思い出した。
『ぼくが自分で言えそうだったら、ちょっと待ってて』
さとるくんは則人を見る。
則人も、さとるくんを見た。
少し緊張した顔をしながらも、自分から一歩前へ出る。
「ぼく、これ好きなんだ」
「え?」
「キッドが好きだから、着たいんだよ」
少し照れながらも、則人は続けた。
「公園でなら着てもいいって、お母さんとも約束してるし。だから、ぼくは着るよ」
言えた。
今度は、自分の言葉で。
隣にいるさとるくんは何も言わず、ただ則人のそばに立っていた。
◇
年上の男の子が、少し困ったような顔をする。
「いや、俺は別に……」
さとるくんの口が開きかける。
けれど、すぐに閉じた。
則人も黙って待つ。
「俺は、自分じゃ着たくないって言っただけなんだよ」
「うん」
則人は頷いた。
昨日は、そこまでちゃんと聞いていなかった。
別の男の子が頭を掻く。
「まあ……笑ったのは悪かったけど」
「なんで笑ったの?」
「だって……ちょっと面白かったし」
「面白い?」
「本物のキッドじゃなくて、着ぐるみなんだもん。俺だったら着ないよ。恥ずかしいし」
則人の頬が少し膨らむ。
言い返したくなった。
それでも、最後まで聞く。
そして、相手が話し終えてから口を開いた。
「ぼくは恥ずかしくないよ」
「……そう」
「うん」
少しの沈黙。
男の子が肩をすくめる。
「じゃあ、それでいいじゃん」
則人が目を瞬いた。
「いいの?」
「だって、お前が着たいんだろ?」
「うん!」
「俺は着たくない」
「うん!」
「……それだけじゃん」
則人は少し考えてから笑った。
「そっか」
「うん」
男の子は気まずそうに目を逸らす。
「でも、その……昨日は悪かった」
「?」
「笑ったの」
則人は驚いた。
少し考えてから頷く。
「うん。ぼくも、ごめんね」
「なんでお前が?」
「ぼくも、ちゃんとお話聞いてなかったから」
男の子が少しだけ笑う。
「まあ、お前よりそっちの方が聞いてなかったけど」
そう言って、さとるくんを見る。
◇
「俺?」
さとるくんが自分を指差した。
「お前、昨日ずっと怒ってたじゃん。こっちが何言っても、途中でずっと喋るし」
さとるくんの顔が少し引きつる。
「だってお前らが――」
そこまで言って、止まった。
男の子たちが、さとるくんを見る。
則人も見る。
さとるくんは一度口を閉じ、小さく息を吐いた。
「……まあ、それはそうだな」
「だろ?」
「うん」
気まずそうに頭を掻く。
「悪かった。ノリちゃんのこと助けたくて、俺ばっかり喋ってた」
「……ほんとにな」
「そこまで言う?」
「だってほんとじゃん」
「……まあ、そうだけど」
則人が隣で笑う。
今度は、誰も誰かの言葉に被せなかった。
◇
少しして、年上の男の子たちが歩き出した。
「じゃ、俺ら行くわ」
「うん!」
則人が手を振る。
そのうちの一人が、もう一度着ぐるみキットを見た。
「……それ、暑くないの?」
「暑いよ!」
「じゃあ、なんで着てんだよ」
「好きだから!」
即答だった。
男の子が笑う。
「やっぱ変なの」
「変じゃないよ!」
「はいはい」
今度は誰も怒らなかった。
男の子たちは笑いながら、公園を出ていった。
◇
姿が見えなくなってから、さとるくんが声を掛ける。
「ノリちゃん」
「なに?」
「言えたじゃん」
則人は一瞬きょとんとしてから、嬉しそうに笑った。
「うん! ぼく、自分で言えた!」
「やればできるじゃん」
「さとるくんも待てたね!」
「俺?」
「うん! 途中で喋らなかった!」
さとるくんの顔が微妙になる。
「……俺、褒められるところそこ?」
「すごいよ!」
「なんか嬉しくないなあ」
「なんで?」
「分かんないけど」
二人で笑った。
「じゃあ、遊ぼ!」
則人が走り出す。
「おう!」
「今度はさとるくんが怪人ね!」
「なんで俺なんだよ!」
「ぼくがキッドだから!」
「それずるくない?」
いつもの公園に、いつもの二人の声が響く。
怪人はいない。
大きなスピーカーの音もない。
ただ、二人が遊んでいるだけだった。
◇
その時。
「ノリちゃーん!」
どこかから声がした。
「ん?」
則人が振り返る。
誰もいない。
「どうした?」
「今、誰かぼくのこと呼んだ?」
「俺じゃないよ」
「でも、聞こえたよ?」
則人は辺りを見回す。
公園の木。
遊具の陰。
ベンチの向こう。
誰もいない。
「気のせいじゃない?」
「そうかなあ」
則人は首を傾げた。
少しして。
「まあ、いっか!」
すぐに遊びへ戻っていく。
その頃には、さっきの声がどこから聞こえたのかなど、すっかり忘れていた。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




