第1話 キッドごっこ
第1話 キッドごっこ
「ノリちゃん、ちゃんと公園に着いてから着るのよ」
玄関で靴を履いていた則人は、肩に掛けた袋をぽんと叩いた。
「わかってるよ!」
「帰る時も、公園を出る前に脱ぐこと」
「それもわかってる!」
何度も言われている約束だ。
最近は『ビーストギア』がかなり流行っていて、街を歩けばキッドの絵が入った服を着ている子や、鞄にキーホルダーをつけている子も珍しくなくなった。
則人だって、できることなら自慢の着ぐるみキットを着たまま歩きたい。けれど、お母さんとの約束は約束だ。
だから着ぐるみキットは袋に入れ、公園までは普通の服で向かう。
「じゃあ、行ってきます!」
「はい。気をつけてね」
「はーい!」
元気よく返事をすると、則人は家を飛び出した。
◇
公園へ着いた則人は、いつものように人の邪魔にならない場所を選び、袋から着ぐるみキットを取り出した。
しばらくして、そこに現れたのは着ぐるみ姿のキッド。
「配信開始!」
びしっと構える。
もちろん、本当に変身したわけではない。
それでも則人にとっては、これで十分だった。
「そこまでだ、怪人!」
目の前には誰もいない。
けれど、則人には見えている。
巨大な怪人が現れ、みんなを困らせている。そして、その前に立ちはだかるのは正義のヒーロー、キッド。
「とうっ!」
拳を繰り出し、続けて蹴り。
「やあっ!」
少し離れたところで遊んでいた小さな子供が、それに気づいた。
「キッドだ!」
則人はすぐに振り向き、見よう見まねの決めポーズを取る。
「いいねよろしく!」
子供が嬉しそうに笑った。
それを見た則人も、ますます楽しくなる。
今日も絶好調だった。
◇
そんな則人を、少し離れたところから見ている三人の男の子がいた。
則人より少し年上。小学校の高学年くらいだろうか。
そのうちの一人が、着ぐるみ姿の則人に気づいた。
「あ、キッドじゃん」
「ほんとだ」
「すげえ。あんなのあるんだ」
最初は普通に見ていた。
どうやら三人とも『ビーストギア』は知っているらしい。
だが、そのうち一人が笑った。
「でも、あれ着て遊ぶのはちょっと恥ずかしくね?」
「まあ、小さい子なら分かるけど」
「俺だったら無理だな」
くすくすと笑う声が聞こえ、則人の動きが少しだけ止まった。
それでも聞こえないふりをして、もう一度構える。
「怪人め!」
「本物のキッドでもないのに」
「着ぐるみ着て何してんだろ」
また聞こえた。
則人は拳を下ろし、少しだけ唇を尖らせる。
「……好きだから、いいもん」
小さな声だった。
向こうには届かなかった。
◇
やがて男の子の一人が、則人のところまで歩いてきた。
「ねえ」
「何?」
「それ、暑くないの?」
「暑いけど、大丈夫」
「ふーん」
そこまでは、ただの質問だった。
けれど、後ろにいた別の子が笑う。
「そこまでして着たいんだ」
則人の眉が少し下がった。
「着たいから着てるんだよ」
「別にいいけどさ」
「俺なら絶対着ないな」
また笑われる。
則人はむっとした。
でも、喧嘩をしに公園へ来たわけではない。せっかく着ぐるみキットを持ってきたのだから、楽しく遊びたいだけだった。
何か言い返そうとしたものの、うまく言葉が出てこない。
相手は年上。
しかも三人いる。
則人は、着ぐるみの手をぎゅっと握った。
その時だった。
「何笑ってんの?」
後ろから声がした。
則人が振り返る。
「さとるくん!」
さとるくんは、そのまま則人の横を通り過ぎ、三人の前に立った。
「別にいいだろ」
一人が首を傾げる。
「何が?」
「好きで着てるんだから」
「別に着るなって言ってないし」
「じゃあ笑うなよ」
さとるくんの声は、まだ落ち着いていた。
則人が後ろから声をかける。
「さとるくん、いいよ」
けれど、さとるくんは振り返らなかった。
「よくないだろ」
「でも……」
「ノリちゃん、嫌だったんだろ?」
そう聞かれて、則人は少し迷ってから頷いた。
「……うん」
さとるくんは改めて三人を見る。
「本人が嫌がってるのに、笑うのおかしいだろ」
男の子の一人が困ったような顔をした。
「ちょっと言っただけじゃん」
「ちょっとなら何言ってもいいの?」
「そんな怒ること?」
「怒るだろ」
則人は、さとるくんの背中をじっと見つめていた。
自分より少し大きな背中。
年上の子たちを相手にしても、一歩も引かない。
自分が何も言えなくなった時に、代わりに前へ出てくれた。
格好いい。
本当に、ヒーローみたいだった。
◇
男の子の一人が口を開く。
「いや、だから俺は――」
「だから、人が好きなもの馬鹿にするなって言ってるんだよ!」
さとるくんの声が、その言葉を途中で遮った。
男の子が眉を寄せる。
「……まだ喋ってんだけど」
「何?」
「だからさ――」
「何回言っても同じだろ。ノリちゃんが好きで着てるんだから、ほっとけばいいじゃん!」
また、最後まで聞かなかった。
けれど。
則人は、そのことに気づいていない。
さとるくんが自分を守ってくれている。
今の則人に見えているのは、それだけだった。
「さとるくん……!」
着ぐるみキットを着た自分の前に立っている、さとるくん。
本物のキッドみたいに強いわけでもない。
特別な力があるわけでもない。
それでも。
今の則人には、その背中がどんなヒーローよりも格好よく見えていた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




