第五章 閑話四 毎日は駄目です
第五章 閑話四 毎日は駄目です
「じゃあ、今日も美緒に連絡しましょ!」
朱雀が楽しそうに言った。
その後ろで、いつもの執事役が静かに目を閉じる。
「朱雀様」
「なに?」
「昨日も美緒殿とお話しされております」
「うん」
「一昨日もです」
「うん」
「その前の日もでございます」
「そうね」
「……」
「なによ?」
執事は少し間を置いた。
「毎日ではございませんか」
朱雀が首を傾げる。
「連絡できるようになったんだから、毎日話せばいいじゃない」
「そういう問題ではございません」
「何が駄目なの?」
「美緒殿にも生活がございます」
「知ってるわよ」
「学校もございます」
「知ってる」
「ゴン殿のお店でのアルバイトもございます」
「それも知ってる」
「では、なぜ毎日連絡なさるのですか」
朱雀は当然のように答えた。
「話したいから」
「……」
執事は額に手を当てた。
◇
少し前まで。
朱雀は、美緒と直接話すことができなかった。
天女ならば、下界とこちらを行き来できる。
下界で見聞きしたことを天女から聞くこともできる。
だが。
朱雀が話したかったのは、美緒本人だった。
下界で暮らす女子高校生。
どんな服が流行っているのか。
どんな食べ物がおいしいのか。
人間の女の子は普段何をして遊んでいるのか。
聞きたいことはいくらでもある。
以前には、自分たちで何とか連絡手段を作れないかとまで考えていた。
ところが。
思わぬところから、その問題は解決した。
ぬらりひょんが用意した猫耳カチューシャ。
そして、途中でどう見ても糸が切れている糸電話。
美緒が猫耳を預かることになったことで、必要があれば離れた場所からでも連絡を取れるようになった。
朱雀にとっては願ってもないことだった。
だから。
連絡できるなら連絡する。
毎日。
「何が悪いの?」
「頻度でございます」
執事は即答した。
◇
「じゃあ、一日おき」
「多うございます」
「三日に一回」
「まだ多うございます」
「じゃあ一週間!」
執事が少し考える。
「……その程度でしたら」
朱雀の目が大きくなった。
「そんなに空けるの!?」
「朱雀様ご自身がおっしゃったのですが」
「だって、一週間なら絶対もっと短くしろって言うと思ったから!」
「交渉のための数字でございましたか」
「そうよ!」
「堂々とおっしゃらないでください」
朱雀は頬を膨らませた。
「美緒だって話したがってるわよ」
「それが余計に問題なのでございます」
「なんで?」
「お二人とも止まりませんので」
朱雀が黙った。
心当たりはある。
かなりある。
「……そんなに?」
「昨日、どれだけお話しされたか覚えておられますか?」
「マカロンの話をして……」
「はい」
「服の話して……」
「はい」
「髪型の話して……」
「はい」
「お菓子の話して……」
「最初のマカロンもお菓子でございます」
「あと、学校の話!」
「そこまでで相当なお時間でございました」
朱雀は少し考える。
「でも楽しかったわよ?」
「存じております」
「美緒も楽しそうだったし」
「それも存じております」
「じゃあいいじゃない」
「だからこそ、誰かが止めなければならないのでございます」
「面倒ねえ」
「私の台詞でございます」
◇
それでも、その日は連絡を許してもらえた。
ゴンさんの店。
美緒は猫耳カチューシャをつけていた。
手には、例の糸電話。
途中でぷつりと切れている糸の先に、もちろん何もない。
それでも声は届く。
『美緒ー!』
猫耳から声が聞こえた。
美緒の顔がぱっと明るくなる。
「朱雀さん!」
『聞こえる?』
「聞こえます!」
『ねえ、昨日の続きなんだけど!』
「はい!」
『マカロンって、色によって味が違うんでしょ?』
「違いますよ!」
『やっぱり!』
美緒もすっかり慣れた様子で答える。
「チョコとか、いちごとか、ピスタチオとか」
『ぴすたちお?』
「ナッツです」
『どんな味?』
「えーっと……」
美緒が考える。
「ピスタチオ味です」
『説明になってない!』
「食べてもらうのが一番早いんですけどね」
『食べたい!』
少し離れたところで、天女が笑っている。
「朱雀様、ずっとマカロンのお話をされていますね」
『だって気になるんだもの!』
「この前は服のお話でしたよね」
『それもまだ途中!』
美緒が食いつく。
「そうだ! 朱雀さん、この前言ってた服なんですけど――」
『なに!?』
執事の声が割って入った。
『美緒殿』
「はい?」
『どうか朱雀様をあまり煽らないでいただけますでしょうか』
「煽ってないですよ!」
『お二人とも同じことをおっしゃいます』
朱雀が不満そうに言う。
『いいじゃない。話くらい』
『話だけで終わればよろしいのですが』
「終わりますよ」
『美緒殿』
「はい」
『今、一瞬目を逸らされませんでしたか?』
「見えないのに、なんで分かるんですか!?」
『何となくでございます』
朱雀が笑った。
◇
美緒が聞いた。
「そういえば朱雀さんのところって、ほかにどんな妖怪がいるんですか?」
『いっぱいいるわよ』
「見たい!」
『見る?』
「見たいです!」
『じゃあ――』
「朱雀様」
執事が止めた。
『なによ』
「見せようにも、糸電話でございます」
『……』
「美緒殿から、こちらを見ることはできません」
『……あ』
美緒も、
「……あ」
と声を漏らした。
朱雀は少し考える。
『じゃあ、見えるようにすれば――』
「新しい通信手段を考え始めないでください」
『まだ何も言ってない!』
「お顔を見れば分かります」
『美緒には見えてないじゃない!』
「私は見えておりますので」
『ずるい!』
「何がでございますか」
美緒が笑う。
「でも、見てみたいなあ」
朱雀の目が輝く。
『でしょ!? だったら――』
「朱雀様」
『……はい』
「下界へ行く話へ持っていかないでください」
朱雀は口を尖らせた。
◇
しばらくして。
通信が終わった。
「もっと話したかったのに」
朱雀は不満そうだった。
「十分でございます」
「まだ服の話が途中だった」
「次回になさいませ」
「明日?」
「一週間後でございます」
「長い!」
「先ほど決まりました」
「五日!」
「一週間」
「六日!」
「一週間でございます」
「一日しか違わないじゃない!」
「でしたら一週間で問題ございませんね」
「そういうことじゃない!」
朱雀が頬を膨らませる。
執事はようやく一息ついた。
しかし。
話はそれで終わらなかった。
◇
「ところで」
青龍が言った。
「朱雀の件だが」
朱雀が振り返る。
「私?」
「お前が勝手に下界へ降りた件だ」
「またその話?」
白虎が腕を組む。
「罰を受けたから終わり、というわけにもいかんだろう」
「ちゃんとガチャ二回できなかったじゃない」
「それを罰だと思っているのか?」
「罰でしょ?」
「反省したのか?」
「したわよ!」
青龍と白虎が朱雀を見る。
「……」
「なによ、その目!」
「いや」
青龍が言う。
「やはり、あまり効いていないなと思ってな」
「効いたわよ!」
「どの程度だ?」
「ガチャ回せなくて寂しかった!」
白虎が頭を抱えた。
「そこなんだよ」
玄武が静かに言う。
「禁止するだけでは、また同じことが起きるかもしれぬ」
「起こさないわよ!」
朱雀が言う。
誰も返事をしなかった。
「なんで誰も信じないの!?」
◇
そこで。
以前にも出ていた話が、改めて持ち上がった。
四聖獣自身も、ガチャの対象にする。
正式な手続きを踏み。
決められた条件を守るのであれば。
四聖獣も下界へ行けるようにする。
朱雀が身を乗り出した。
「それ、本当にやるの!?」
青龍が言う。
「まだ相談だ」
「やりましょ!」
「だからまだ――」
「絶対やりましょ!」
白虎が呆れる。
「お前のためだけの制度じゃないぞ」
「分かってるわよ」
「本当か?」
「本当!」
玄武が話を続ける。
「ただし、自由に行き来できるわけではない」
朱雀の勢いが少し落ちる。
「……条件あるの?」
「当然だ」
◇
一つ。
四聖獣の誰かが下界へ行く時は、その者が普段行っている黄龍の補佐を、代わりに務める者を一人置く。
黄龍の仕事は、ガチャだけではない。
則人の働きをどう評価するか。
採点に関わる判断。
東洋側の世界に関する様々な役目。
そのほかにも、数え切れないほどある。
四聖獣は、それぞれ黄龍を支えている。
一人抜ければ。
当然、その分を誰かが埋めなければならない。
白虎が腕を組む。
「……これ、誰がやりたがるんだ?」
青龍も考える。
「仕事量を知っている者ほど嫌がるだろうな」
玄武が頷く。
「責任も軽くはない」
周囲にいた配下たちの空気が変わった。
誰も目を合わせない。
一歩。
また一歩。
なぜか少しずつ四聖獣から離れていく。
「おい」
白虎が言った。
「なぜ離れる」
「いえ」
「何でもございません」
「ちょっと用事を思い出しまして」
「私も」
「私もです」
「待て!」
白虎が止める。
その横で。
朱雀だけは困っていなかった。
「……」
いつもの執事を見る。
執事も朱雀を見る。
目が合った。
朱雀が、にこっと笑う。
「……」
執事は静かに胃の辺りを押さえた。
「朱雀様」
「なに?」
「まだ何もおっしゃらないでくださいませ」
「私、何も言ってないわよ?」
「分かります」
「何が?」
「私でございますね」
朱雀が目を丸くする。
「まだ何も言ってないってば!」
「何年お仕えしているとお思いですか」
「でも、できるでしょ?」
「できるかどうかではございません」
「じゃあ、できるのね!」
「そういう意味では――」
「決まり!」
「決めないでください!」
朱雀が笑う。
「大丈夫よ。あなたならできるもの」
執事の手が、さらに胃を押さえる。
「その信頼が、今は非常に重うございます……」
「どうしたの?」
「朱雀様が下界で楽しまれている間の自分を想像いたしました」
「まだ行ってないわよ?」
「今から胃が痛くなってまいりました」
朱雀は不思議そうに首を傾げた。
◇
そして、もう一つ。
下界へ行く時は、基本的に妖怪の姿で行くこと。
むやみに人間体にならない。
人間体になれば。
妖怪を認識できない普通の人間からも、その姿が見えるようになる。
人間社会へ必要以上に入り込むことにもなりかねない。
だから。
遊びたいから。
買い物したいから。
そんな理由で勝手に人間体になることは認めない。
朱雀が手を上げる。
「服を見に行く時は?」
「妖怪の姿で見なさい」
「試着は?」
「する必要がありません」
「えー!」
白虎が聞く。
「戦う時は?」
全員が白虎を見る。
「……何だ?」
青龍が聞く。
「誰と戦うつもりだ」
「下界には、ぷろれすというものがあるらしいな」
白虎の目が輝いていた。
「それに、空手」
朱雀が言う。
「あるわね」
「あれは何だ?」
「人間が戦うんじゃない?」
「強いのか?」
「知らない」
白虎が腕を組む。
「一度、下界の強い者と戦ってみたいな」
「駄目に決まっておる」
玄武が即座に言った。
「なぜだ!」
「なぜ分からぬ」
「戦ってみなければ、どれほど強いか分からんだろう!」
「分からなくてよい」
白虎が不満そうな顔をする。
◇
「大学」
今度は青龍が呟いた。
朱雀が見る。
「なに?」
「下界には大学という場所があるそうだな」
「あるわよ」
「高校とは何が違う?」
「知らない」
「何を学ぶ?」
「知らないってば」
「研究というものも行うらしい」
「そうなの?」
「図書館という施設もある」
青龍の目まで輝き始めた。
「どの程度の書物が集められているのだろうな」
白虎が青龍を見る。
「お前も行く気じゃないか」
「調査だ」
「俺も調査だ」
「お前は戦いたいだけだろう」
「強さを調べるんだ!」
朱雀が手を上げる。
「私は服と食べ物!」
青龍が続く。
「大学と研究施設」
白虎も負けじと言う。
「プロレスと空手」
玄武が三人を見る。
「……まだ誰が下界へ行けるとも決まっておらぬのだが」
三人が同時に答える。
「分かってる!」
玄武は少し黙った。
「分かっている者の顔には見えぬな」
◇
いつの間にか。
真面目な話し合いだったはずの場は、すっかり変わっていた。
「最初は私でしょ?」
朱雀が言う。
「なぜだ」
青龍が返す。
「私が最初に下界へ行ったから!」
「それは違反だ」
「じゃあ経験者!」
「違反の経験を実績にするな」
白虎も割って入る。
「公平に決めればいいだろう」
「どうやって?」
「勝負」
「却下」
青龍が即答する。
「では知識を競うか」
白虎が睨む。
「お前が有利なだけだろ」
「じゃあ、どうするのよ」
朱雀が考える。
そして。
「あ!」
嫌なほど明るい顔になった。
「ガチャで決めればいいじゃない!」
一瞬。
全員が黙った。
白虎が顎に手を当てる。
「……公平ではあるな」
青龍も考える。
「恣意的に決めるよりは――」
玄武が二人を見る。
「待て」
「何だ?」
「ガチャを回すために下界へ行く者を、ガチャで決めるのか?」
「……」
再び沈黙。
朱雀が言った。
「楽しそうじゃない?」
「楽しさで制度を決めるでない」
玄武が静かに返した。
◇
少し離れたところで。
朱雀の執事役は、まだ胃を押さえていた。
朱雀がそれに気づく。
「まだ痛いの?」
「ええ」
「大丈夫?」
「朱雀様」
「なに?」
「原因は朱雀様でございます」
「まだ下界に行ってないのに?」
「行かれる未来が、あまりにも鮮明に見えるのでございます」
朱雀は少し考えた。
そして、にっこり笑う。
「その時はよろしくね」
「やはり私なのでございますね……」
執事は、さらに深く胃を押さえた。
その横では。
「プロレスなら、まずどこへ行けばいい?」
「大学というものは誰でも入れるのか?」
「下界で食べるなら、最初はマカロンよね!」
四聖獣たちの話は、もう完全に下界へ行く前提になっていた。
玄武が静かにため息をつく。
正式なルールが決まるのは。
どうやら、もう少し先になりそうだった。
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※本作は、作者とChatGPTが合作しながら制作しています。物語の根幹となる設定・構成・キャラクター・展開は作者が主体となって制作し、AIが生成した文章についても作者が確認・修正・全面的な推敲を行っています。作品としての最終的な判断と責任は、すべて作者にあります。




