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着ぐるみモンスター  作者: 内田紀人
ガスねずみ編

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第五章 第十話 まず、応募してみる

第五章 第十話 まず、応募してみる


「みおちゃーん!」


声が聞こえ、美緒が振り返った。


「ノリちゃん!」


則人とサトルが、こちらへ向かって走ってくる。


「おじさん、もどったよー!」


「よかった!」


美緒が笑顔で手を振る。


咲子も二人を見て、ほっとしたように笑った。


そして。


二人が近づいてきたところで、美緒の表情が変わった。


「……ん?」


「どうしたの?」


「ノリちゃん……」


美緒が鼻を動かす。


「くさい」


「えっ!?」


則人が止まった。


サトルが自分の服を嗅ぐ。


「おじさんのにおい」


「サトルくん!」


「だって、いっぱいあびたから」


「ぼくも?」


「ノリちゃんのほうがいっぱいあびてた」


「やだー!」


白いガスネズミの女も鼻を動かした。


「……何、この匂い」


美緒が則人とサトルを見る。


「ノリちゃんたち、さっきまで別の怪人のところにいたんです」


「そこでいっぱいあびたのー!」


則人が訴える。


「なるほどね……」


女が少し顔をしかめた。


その拍子に腕が動く。


ぶしゅっ。


甘く華やかな香水が辺りに広がった。


則人の目が大きくなる。


「あ!」


「なに?」


「さっきとちがう!」


則人が鼻を動かした。


「いいにおい!」


女が少しだけ嬉しそうな顔をする。


「そう?」


「うん!」


もう一度嗅ぐ。


「……でも」


「でも?」


「くさすぎる!」


「どっちなのよ!」


女が叫んだ。


サトルも鼻を押さえる。


「いいにおいだけど、くさい」


「だからどっち!?」


美緒も鼻を押さえた。


「しかもノリちゃんたちについてる匂いと混ざって……」


咲子が少し距離を取る。


「これは、ちょっと……」


「さっちゃん、にげないで!」


「逃げてない。距離を取ってるだけ」


「おなじだよー!」


女は自分の香水。


則人とサトルには、別の怪人から浴びた強烈な匂い。


二つが混ざり合って、何とも言えない匂いになっている。


美緒が鼻をつまんだ。


「なんかもう、何の匂いか分かんなくなってきた」


「私のせいだけじゃないからね!」


「ぼくもなにもしてないよー!」


「ぼくだって」


サトルも言った。


咲子が三人を見る。


「誰も悪くないのに、全員臭いってすごいね」


「さっちゃん!」


◇


則人は改めて白いガスネズミを見た。


「このひと?」


「うん」


美緒が頷く。


「私とさっちゃんが前に見かけた人」


女は則人を上から下まで見る。


小さい。


どう見ても小学生だ。


「……この子が?」


「はい」


「私を元に戻すの?」


「うん!」


則人が胸を張った。


「ぼくがもどすよ!」


女は美緒を見る。


「本当に?」


「大丈夫です」


サトルが言った。


「さっき、ひとりもどした」


「さっき?」


「おじさん」


「ああ……もう一人のネズミ」


「ちゃんと戻ったみたいですよ」


美緒も言った。


女の表情が少し緩む。


「……そっか」


自分と同じような姿になった人が、元に戻れた。


それだけで、少し安心できた。


◇


「おねえさん」


則人が声をかけた。


「何?」


「もう、だいじょうぶ?」


「大丈夫って?」


「どうしたいか、わかった?」


女は少し考えた。


それから、美緒と咲子を見る。


「……仕事は、今すぐ辞めない」


二人は黙って続きを待った。


「今の仕事だって、全部嫌いなわけじゃないから」


「うん」


「でも、求人には応募してみる」


女は自分自身に言い聞かせるように続けた。


「面接受けて、話を聞いて……受かったら、その時また考える」


咲子が頷く。


「それでいいと思います」


「今までやってきたことも書いてみる。接客してきましたって」


美緒が笑った。


「はい」


「人の顔とか、話したこと覚えるのも。相手に合わせて話すのも」


「全部、お姉さんができることですから」


女は少し照れたように笑った。


則人が聞く。


「だめだったら?」


女の表情が止まる。


以前なら。


応募して駄目だった。


やっぱり自分には無理だった。


そこで全部を諦めていたかもしれない。


けれど。


「……別のところ探す」


女は答えた。


咲子が微笑む。


「一個駄目だったからって、全部駄目なわけじゃないですもんね」


「うん」


女は頷いた。


「やっと、そう思えるようになったかも」


◇


女がふと、美緒を見た。


「ところでさ」


「はい?」


「その猫耳、いつまでつけてるの?」


「……え?」


美緒が自分の頭を触る。


猫耳。


「あ」


咲子が呆れた。


「忘れてたでしょ」


「忘れてない!」


「じゃあ、何で今『あ』って言ったの?」


「それは……」


天女が隣でくすくす笑っている。


美緒がそちらを見る。


「天女さんまで笑わないでください!」


女が眉を寄せる。


「……また誰かいるの?」


「います」


「見えないけど?」


「天女さんです」


「……もう聞かない」


女は、それ以上考えるのをやめた。


◇


美緒は、途中でぷつりと切れている糸電話を手に取った。


「ぬらりひょんさん」


糸電話へ向かって話す。


「こっちも、もう大丈夫だと思います」


少しして、猫耳から美緒だけに声が届いた。


『ふむ』


美緒は返事を待つ。


『本人が自分でそう決めたのなら、よかろう』


「じゃあ?」


『ああ』


美緒の顔が明るくなる。


「分かりました!」


咲子が聞く。


「大丈夫?」


「うん」


美緒は則人を見る。


「ノリちゃん!」


「なに?」


「ぬらりひょんさんが、大丈夫だって!」


「わかった!」


女が二人を交互に見る。


「何が大丈夫なの?」


「もとにもどしていいって!」


則人が答えた。


「……許可がいるの?」


「うん!」


「誰の?」


「ぬらりひょん」


女は美緒を見る。


「それ、さっき言ってた?」


「はい」


「妖怪の?」


「はい」


「本当にいるの?」


美緒は満面の笑みで頷いた。


「います!」


「……そう」


女はもう、それ以上考えないことにした。


◇


則人はその場で待った。


女が首を傾げる。


「戻してくれるんじゃないの?」


「もうちょっとまって」


「また何かあるの?」


「うん」


「何?」


「ハンマー」


「ハンマー?」


サトルが空を見る。


「あ」


「きた!」


何かが飛んできた。


則人が両手を伸ばす。


ぱしっ。


ピコピコハンマーを受け取った。


女の目が点になる。


「……今、どこから飛んできたの?」


「てんぐさん!」


「天狗?」


「うん!」


女は空を見る。


何もいない。


「……見えないんだけど」


美緒は空を見て目を輝かせた。


「天狗!」


「えっ!?」


「ほんとに天狗いる!」


「美緒」


咲子が呼ぶ。


「今度は天狗! すごい!」


「美緒」


「待って、ちゃんと見たい!」


「怪人」


「……あ」


女が美緒を見る。


「また忘れた?」


「忘れてません!」


「今、完全に忘れてたよね」


「忘れてません!」


咲子がため息をついた。


◇


則人がピコピコハンマーを持って近づく。


女がハンマーを見る。


「……それ?」


「うん」


「それで戻るの?」


「うん!」


「ピコピコハンマーじゃん」


「そうだよ」


「もっとこう……ないの?」


「なにが?」


「いや……もういい」


女は諦めた。


則人が一歩近づく。


ぶしゅっ!


「うわっ!」


甘い香水が広がった。


則人が飛び退く。


女が慌てる。


「ごめん!」


「さっきとちがう!」


則人が鼻を動かす。


「いいにおい!」


「でしょ?」


「でも、くさすぎる!」


「またそれ!?」


サトルも鼻を押さえた。


「こうすい、つよい」


「私だってこんなにつけてないの!」


美緒が則人を見る。


「しかもノリちゃん、別の怪人の匂いが残ってるから」


「えっ?」


「混ざってすごい」


則人が自分の着ぐるみを嗅ぐ。


「……くさっ!」


「自分で言った!」


女が笑った。


「もう何なのよ、これ」


◇


「どうすればいい?」


女が聞いた。


「なるべくうごかないで!」


「分かった」


女は両腕を身体の横につけた。


じっとする。


ぶしゅ。


「……出たけど」


「ちょっとだからだいじょうぶ!」


「本当?」


「たぶん!」


「また『たぶん』なの?」


サトルが言った。


「ノリちゃん、よくたぶんっていう」


「サトルくん!」


女はピコピコハンマーを見る。


「……痛くない?」


「いたくないよ」


「本当に?」


「さっきのおじさんも『いてっ』っていったけど、いたくなかったよ」


「何その説明」


「はんしゃ」


サトルが言う。


女はますます不安そうになった。


「余計怖くなったんだけど」


則人がハンマーを握り直す。


「いくよ!」


女は目を閉じた。


「……お願い」


則人が走る。


ぶしゅっ。


「うっ!」


香水が直撃する。


それでも止まらない。


「えいっ!」


ピコッ。


ハンマーが着ぐるみに当たった。


「いたっ!」


女が反射的に声を上げる。


一拍。


「……あれ?」


目を開けた。


身体を確認する。


「痛くない」


則人が笑う。


「ね?」


女も思わず笑った。


「分かってても言っちゃうのね、これ」


◇


白い着ぐるみが揺れ始めた。


「……あ」


丸い耳。


白い毛並み。


身体のタンク。


散布装置。


長い尻尾。


それらが、少しずつ女の身体から離れていく。


中から元の女性の姿が現れた。


女は自分の手を見る。


身体を見る。


顔を触る。


「……戻った」


美緒が駆け寄る。


「よかった!」


咲子も笑う。


「よかったですね」


「うん……」


女性は自分の腕を見る。


もう散布器はない。


尻尾もない。


「本当に戻った……」


則人も笑った。


「よかったね!」


女性は自分の服を嗅いだ。


「……香水は?」


美緒も少し近づく。


くん。


「まだちょっとします」


「それは元々つけてる分!」


「あ、そっか」


「もう!」


女性が笑った。


◇


身体から剥がれた着ぐるみは、地面には落ちなかった。


ふわりと浮かび上がる。


「あ」


女性が見上げる。


白い着ぐるみ状の何かが、そのまま空へ昇っていく。


「……あれ、どこ行くの?」


則人も見上げた。


「わかんない」


サトルが言う。


「さっきもいった」


女性が則人を見る。


「え、二回目なのに分からないの?」


「うん!」


「自信満々に言わないでよ」


着ぐるみ状の何かは、どんどん高くなっていった。


やがて、空の向こうへ消えていく。


◇


「終わったね」


美緒が言った。


「うん!」


則人が頷く。


その時。


ゴンッ!


「いたーい!」


則人が頭を押さえてしゃがみ込んだ。


女性が飛び上がる。


「何!?」


大きなタライが地面へ転がる。


「またタライ!?」


美緒には見えていた。


「うわっ!」


目を輝かせる。


「タライ小僧だ!」


「今度こそ採点します!」


タライ小僧は則人を指さした。


「さっきはごめんね」


「本当ですよ!」


美緒がすぐにタライ小僧へ近づく。


「すごい! 本当にタライ小僧なんだ!」


「え?」


「そのタライ、自分で落としてるんですか?」


「ちょ、ちょっと待ってください」


「何点つけるんですか? いつも来るんですか?」


「美緒」


咲子が呼ぶ。


「ちょっと待って! 今タライ小僧が!」


「知ってる」


「もっと見たい!」


「採点させてあげて」


タライ小僧も必死になった。


「そうです! 採点させてください!」


女性には、もちろんタライ小僧は見えない。


見えるのは、突然空から落ちてきたタライ。


頭を押さえている則人。


そして、何もない場所へ興奮して話しかけている猫耳姿の美緒。


女性が咲子を見る。


「……何が起きてるの?」


咲子は少し考えた。


「説明すると長いです」


「……じゃあいい」


女性も考えることを諦めた。


◇


タライ小僧が大きく息を吸った。


「それでは!」


美緒がまだ横から覗き込んでいる。


「美緒さん、ちょっと離れてください!」


「はい」


「今度こそ!」


タライ小僧が則人を見る。


「採点します!」


則人が首を傾げる。


「こんどこそ?」


「さっきの分もです!」


「おじさんの?」


「そうです!」


タライ小僧は胸を張った。


「今回は――二人分まとめて採点します!」


「ふたりぶん!」


則人の顔が明るくなる。


美緒も、また身を乗り出した。


「二人分って、どうやって採点するの?」


「だから今からやります!」


タライ小僧の叫びが響いた。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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