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着ぐるみモンスター  作者: 内田紀人
ガスねずみ編

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第五章 第九話 もうひとりいるから!

第五章 第九話 もうひとりいるから!


「いくよ!」


則人がピコピコハンマーを握り直した。


「ちょ、ちょっと心の準備を――」


ぶしゅっ!


「またー!」


強烈な整髪料と加齢臭が広がる。


則人が慌てて飛び退いた。


「くさーい!」


「だから俺のせいじゃねえって!」


男も叫ぶ。


「俺だって止めたいんだよ!」


「おじさん、うごかないで!」


「動いてねえよ!」


ぶしゅっ。


「出てるじゃん!」


「勝手に出るんだよ!」


少し離れたところで、サトルが鼻を押さえている。


「ノリちゃん、うしろからいけば?」


則人が振り返る。


「それだ!」


「おい」


男が二人を見る。


「本人の前で攻略方法を相談するな」


則人は男の後ろへ回ろうとする。


すると男も反射的に則人の方を向いた。


「おじさん、こっちみないで!」


「人が後ろに回ったら見るだろ普通!」


ぶしゅっ!


「うわっ!」


則人がまた逃げる。


「もう!」


「俺に怒るなよ!」


サトルが言った。


「じゃあ、おじさんがめをつぶればいいんじゃない?」


「目?」


「うん」


「目を閉じても臭いは止まらねえだろ」


「でも、こわくないよ」


男が黙った。


ピコピコハンマーを見る。


則人を見る。


「……本当に戻るんだな?」


「うん!」


「痛くないんだな?」


「たぶん!」


「そこは言い切れよ!」


則人が笑う。


男は大きく息を吐いた。


「……分かった」


足を止める。


腕も動かさない。


「よし」


「おじさん?」


「来い」


「いいの?」


「早くしろ。また出る前に」


則人が頷いた。


「うん!」


男は目を閉じる。


「……やれ!」


則人が走る。


ぶしゅっ!


「うわっ!」


臭い。


それでも今度は止まらない。


「ノリちゃん、がんばれ!」


「うん!」


「早くしろー!」


「いまいく!」


則人は臭気の中へ飛び込んだ。


ピコピコハンマーを振り上げる。


「えいっ!」


ピコッ。


ハンマーが着ぐるみに当たった。


「いてっ!」


男が反射的に声を上げる。


一拍。


「……あれ?」


目を開けた。


「痛くねえ」


則人が首を傾げる。


「いたくないよ?」


「叩かれたら反射で言うだろ!」


「そうなの?」


「そういうもんなの!」


サトルが聞く。


「ほんと?」


「お前まで疑うな!」


◇


男がもう一度何か言おうとした、その時だった。


身体を包んでいた着ぐるみが揺れた。


「……ん?」


黒い毛並み。


大きなネズミの頭。


背中のタンク。


身体を走る管。


腕の散布装置。


太い尻尾。


それらが、男の身体から少しずつ離れていく。


「お、おい」


男が自分の胸元を見る。


「何だこれ」


着ぐるみが剥がれていく。


中から現れたのは、いつもの男だった。


眼鏡。


普段の服。


自分の手を見る。


腕を見る。


身体を見る。


「……戻った?」


「うん!」


則人が笑う。


男は頭を触った。


顔を触る。


尻尾があったはずの後ろも確認する。


「本当に戻ってる……」


サトルが近づいた。


男を見る。


そして。


くんくん。


「おい」


くんくん。


「何で嗅ぐ」


サトルが少し考えた。


「まだちょっとにおう」


「それは俺本来の匂いだ!」


男が叫んだ。


則人が笑う。


「よかったね、おじさん!」


「今の会話のどこに『よかった』があった!?」


「もどったから!」


「……まあ」


男は自分の手をもう一度見た。


「そうだな」


小さく笑った。


◇


男から剥がれた着ぐるみは、地面には落ちなかった。


ふわりと浮かび上がる。


「……おい」


男が指をさす。


「今度は何だ?」


ドブネズミの形を残した着ぐるみ状の何かが、ゆっくりと空へ昇っていく。


男は口を開けたまま見上げた。


「俺の着ぐるみ……」


どんどん高くなる。


「どこ行くんだ?」


則人も見上げる。


「わかんない」


「分かんねえの!?」


「うん」


「お前、さっきまであんなに自信満々だっただろ!」


「もどすのはできるよ」


「その後は知らねえのかよ!」


着ぐるみ状の何かは、そのまま空高く昇っていった。


男はしばらく見送っていた。


「……今日一日で、分かんねえこと増えすぎだろ」


◇


「でも」


則人が男を見る。


「もどれてよかったね」


「ああ」


男は頷いた。


少し間を置く。


「ありがとな」


「うん!」


「お前にも」


男はサトルを見る。


「ぼく?」


「そうだよ」


「ぼく、なにもしてないよ」


「臭い臭い言ってただろ」


「それ、おれいいうこと?」


「……違うな」


男が笑った。


則人も笑う。


男は少しだけ真面目な顔になった。


「明日、会社行ったらさ」


「うん」


「聞いてみるよ」


「なにを?」


「パソコン」


男は頭を掻いた。


「若い奴に、最初から教えてくれって」


則人の顔が明るくなる。


「うん!」


「嫁にも、また飯でも行こうって言ってみる」


サトルが聞いた。


「ことわられたら?」


男は一瞬だけ黙った。


そして。


「別の日!」


今度は迷わなかった。


則人とサトルが笑う。


「おぼえた!」


「うるせえ!」


男も笑った。


◇


その時だった。


ゴンッ!


「いたーい!」


則人が頭を押さえてしゃがみ込んだ。


「えっ!?」


男が飛び上がる。


則人の横には、大きなタライが転がっていた。


「何だ!?」


男が周囲を見る。


誰もいない。


「どっから降ってきた!?」


則人は頭を押さえながら顔を上げた。


そこにはタライ小僧がいた。


もちろん、男には見えていない。


タライ小僧は、いつものように採点を始めようとする。


「それでは今回の――」


その時。


則人のキッズ携帯が鳴った。


「あ!」


則人が出る。


「もしもし?」


『ノリちゃん? そっちどう?』


美緒だった。


「みおちゃん! おじさん、もどったよ!」


『ほんと!? よかった!』


「うん!」


『じゃあ、こっち来られる?』


則人の顔が変わった。


「あ!」


もう一人いる。


「いまいく!」


通話を切る。


「あ、ノリちゃん!」


タライ小僧が慌てる。


「まだ採点が――」


則人は振り返った。


「ごめんねー!」


「え?」


「もうひとりいるから、あとでねー!」


「ちょ、ちょっと待って! 採点が!」


「サトルくん、いこう!」


「うん!」


二人はそのまま走り出した。


「待ってー! 採点! 採点がまだー!」


タライ小僧の声を背中に受けながら、則人とサトルは遠ざかっていった。


◇


「……」


男だけが、その場に残された。


足元には、突然空から降ってきたタライ。


さっきまで自分を包んでいた着ぐるみは、空へ消えた。


則人は、誰もいない場所を見て何かと話していた。


その相手へ謝ったかと思えば、


もう一人いる。


そう言って、サトルと一緒に走り去った。


「……」


男は右を見る。


誰もいない。


左を見る。


やっぱり誰もいない。


空を見上げる。


もちろん、もう何もない。


「……何だったんだ、今日」


答える者はいない。


男はしばらく、その場に立ち尽くした。


そして、ぽつりと呟く。


「……俺、このあとどうすりゃいいんだ?」

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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