第五章 第六話 ねこみみ、つける?
第五章 第六話 ねこみみ、つける?
「おじさん……?」
母親のスマートフォンに映った写真を見ながら、則人は目を丸くした。
ドブネズミのような大きな着ぐるみ。その顔の部分から覗いているのは、見慣れた眼鏡のおじさんだった。
「知ってる人なの?」
「うん。ゴンさんのおみせにくるおじさん」
「そうなの? なんか、すごいことになってるわね」
母親からスマートフォンを返してもらうと、則人はすぐに自分のキッズ携帯を取り出した。
「サトルくんにれんらくしなきゃ」
「あんまり遅くならないようにね」
「うん!」
則人は家を出た。
◇
「やっぱり、あのおじさんだよ」
合流したサトルに、則人が言った。
「ゴンさんのお店のおじさん?」
「うん」
「くさいの?」
「そこ?」
「だって、みんなくさいってかいてる」
「そうだけど……」
二人が歩き始めたところで、則人のキッズ携帯が鳴った。
「もしもし?」
『ノリちゃん! こっちに怪人がいる!』
美緒だった。
「えっ?」
則人の足が止まる。
「そっちにもいるの!?」
『にも?』
「こっちも! ゴンさんのおみせのおじさんが、かいじんになっちゃってる!」
『えっ!? あのおじさん!?』
電話の向こうから咲子の声も聞こえた。
『おじさんって、あの常連のおじさん?』
「うん!」
『こっちは、私とさっちゃんが前に見かけた女の人なの。白いネズミみたいな着ぐるみになってる』
「だれ?」
『あ、ノリちゃんは知らないんだった。とにかく、こっちにもいるの。来られる?』
則人はサトルを見た。
「でも、ぼく、おじさんのところに……」
『そっか……』
「どうしよう」
その時だった。
「何をそんなに困っておる」
すぐ近くから声がした。
「ぬらりひょん!」
則人が振り向く。
「え?」
サトルも同じ方向を見た。
「ノリちゃん、だれとはなしてるの?」
「ぬらりひょん!」
「いるの?」
「いるよ!」
「ふむ。そちらにも怪人が現れたか」
「うん! みおちゃんたちのところにもいるの。でもぼく、いまおじさんのところにいかないと」
「そちらなら、もう手を打っておる」
「え?」
「天女に道具を持たせて、美緒たちのところへ向かわせた」
「ほんと?」
「ああ。元へ戻すのは、おぬしの役目じゃ。それまでなら何とかなるじゃろう」
則人はすぐに携帯へ戻った。
「みおちゃん!」
『なに?』
「ぬらりひょんが、てんにょさんをそっちにむかわせたって!」
『天女さん!?』
美緒の声が一気に弾んだ。
「ぼくは、おじさんのところにいく!」
『分かった。こっちは私たちで見てる!』
「うん!」
通話を切る。
則人はぬらりひょんへ向かって頭を下げた。
「ありがとう!」
「礼は後じゃ。早う行け」
「うん! サトルくん、いこう!」
二人は走り出した。
「ぬらりひょん、まだいる?」
走りながらサトルが聞く。
則人が振り返った。
「もういない」
「いついなくなったの?」
「わかんない」
二人はそのまま、おじさんのいる場所へ急いだ。
◇
「だから、近づかないでって言ってるでしょ!」
白いガスネズミが腕を振る。
ぶしゅっ。
甘ったるい香水が辺りへ広がった。
「うわっ、きつい!」
「また出た!」
「だから私も止めたいの!」
周囲の人たちは鼻を押さえて離れていく。
中にはスマートフォンを向けている人もいた。
「撮らないでよ!」
ぶしゅっ。
「うわー!」
「もう! 何なのよこれ!」
美緒と咲子は、少し離れた場所からその様子を見ていた。
「本人が一番困ってるね」
「うん。暴れたいわけじゃなさそう」
「でも、私たちじゃ元に戻せないし」
「ノリちゃんも、あのおじさんのところに行かないといけない」
二人が顔を見合わせた時だった。
「美緒さん。咲子さん」
咲子が振り返る。
「あ、天女さん」
「来たの!?」
美緒も慌てて振り返る。
「どこ?」
「そこ」
「見えない!」
咲子の前で、天女が二つの物を差し出した。
「ぬらりひょん様から、こちらを預かってまいりました」
「……糸電話?」
咲子が一つを受け取る。
そして、もう一つ。
「……猫耳?」
美緒がすぐに食いついた。
「何それ、かわいい!」
「ぬらりひょん様と連絡を取るための道具です」
咲子は糸電話から伸びた糸を目で追った。
すぐ先で切れている。
「……切れてますけど」
「はい」
「はい?」
「大丈夫です」
「何が?」
天女は微笑んでいる。
咲子は猫耳カチューシャも見た。
嫌な予感がした。
「まさか、これも使うんですか?」
「はい」
「……これ、つけるの?」
「はい」
咲子は周囲を見回した。
人がいる。
もう一度、猫耳を見る。
「……無理」
「えー、かわいいのに」
美緒が言った。
「じゃあ、美緒がつける?」
「つける!」
即答だった。
「早いなあ……」
咲子から受け取ると、美緒は何のためらいもなく猫耳カチューシャを頭につけた。
「どう?」
「似合ってる」
「ほんと?」
美緒が笑った、その直後だった。
「あ」
目の前に、天女がいる。
「お久しぶりです、美緒さん」
美緒の顔が一気に明るくなった。
「天女さん!」
「はい」
「見える! また見える!」
「ふふ。お久しぶりです」
「久しぶり! すごい! 今、普通に見える!」
美緒は天女の周りを回った。
「この猫耳すごい! これつけてたらずっと見えるの?」
「美緒」
咲子が呼ぶ。
「あっ、待って!」
美緒は周囲を見回した。
「ほかにもいる!」
「美緒」
「あそこ! あれ何!?」
「美緒」
「えっ、こっちにも――」
咲子が美緒の肩をつかんだ。
「怪人」
「……あ」
美緒が白いガスネズミを見る。
「忘れてた」
「忘れないで」
天女が口元を押さえて笑った。
◇
「で、これが糸電話?」
美緒が切れた糸を持ち上げる。
「ほんとに途中で切れてるよ?」
「大丈夫だそうです」
「ほんとに?」
美緒は糸電話へ向かって声をかけた。
「ぬらりひょんさん、聞こえますかー?」
猫耳から声がした。
『聞こえておる』
「うわっ!」
美緒が飛び上がる。
「猫耳から声した!」
『聞こえておると言っておる』
「すごい! 糸切れてるのに!」
『妖怪の道具に普通を求めるでない』
「これ、どうなってるんですか!?」
『それを聞くために連絡したのか?』
「違った!」
咲子が額に手を当てる。
「目的、二回目」
「分かってるって!」
『本当に分かっておるのかのう』
「分かってます!」
天女がまた笑った。
◇
白いガスネズミは、人通りの少ない方へ移動していた。
「もう……何なのよ、これ」
ぶしゅっ。
「また!」
女は自分の腕を押さえた。
「出ないでよ!」
美緒たちは少し距離を取りながら追う。
「どうする?」
「まず、あの人に落ち着いてもらおう」
咲子が答えた。
「このまま人が多いところにいたら、また写真撮られるし」
「うん」
「あの人、誰かを襲おうとしてるわけじゃないから」
美緒は頷いた。
「前からそうだった」
「何が?」
「怒ってるっていうより、ずっと疲れてた」
美緒は女性の背中を見る。
「何かあるんだと思う」
咲子も女性を見た。
「じゃあ、聞いてみよう」
「うん」
◇
「くさっ!」
サトルが鼻を押さえた。
「サトルくん!」
「だってくさい!」
「聞こえてるよ!」
声が飛んできた。
「おじさん!」
ドブネズミの着ぐるみを着た男が振り返る。
「来るな!」
「おじさん!」
「来るなって!」
男が腕を振った。
ぶしゅっ。
「うっ!」
則人も思わず鼻を押さえた。
男の顔が引きつる。
「ほら見ろ!」
「ち、ちがう!」
「何が違うんだよ!」
「くさいけど!」
「正直だな!」
「でも、おじさんがわるいんじゃないよ!」
男が黙った。
則人は鼻を押さえながら、一歩近づく。
「ぼく、おじさんとはなしにきたの!」
「来るな!」
「いく!」
「何でだよ!」
「だって、おじさんこまってるでしょ!」
「困ってねえよ!」
「こまってるよ!」
「何が分かるんだよ!」
「わかんないよ!」
男が止まった。
「だから、ききにきたんだよ」
男は何も言えなかった。
◇
「すみません!」
美緒が声をかけた。
白いガスネズミが振り返る。
「……何?」
美緒を見て、少し眉を寄せた。
「あんた……また来たの?」
「はい」
「今の私に近づかない方がいいよ。香水ひどいから」
「知ってます」
「そこは否定してよ」
「でも、本当にすごいんで」
「……あんた結構ひどいね」
女が少しだけ笑った。
咲子が一歩前へ出る。
「話、聞かせてもらえませんか?」
女の表情が戻った。
「何であなたたちに?」
美緒が答える。
「私、この前からあなたのこと気になってたんです」
女は美緒を見る。
それから、その頭を見る。
猫耳。
「……その猫耳で?」
「これは今関係ないです!」
咲子が横から言った。
「かなり関係あるけど」
「さっちゃん!」
天女が笑う。
女には、その姿は見えていない。
女は美緒と咲子を交互に見た。
そして、小さく息を吐いた。
「……何なのよ、ほんと」
さっきまでより、その声から少しだけ力が抜けていた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




