↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
着ぐるみモンスター  作者: 内田紀人
ミラーカメレオン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/115

閑話四 看板娘、はじめました

閑話四 看板娘、はじめました


 夕方。ゴンさんの店は、今日も常連客を中心に賑わっていた。


「ゴンさん、これってどんな酒?」


 客がメニューを指さすと、ゴンさんは待ってましたとばかりに酒瓶を手に取った。


「これはな、まず米が――。この辺りは水もいいんだが、それだけじゃなくて仕込みがな。それで香りは――」


「あなた」


「冷やしてもいいんだが、俺は少し温度を上げた方が――」


「あなた!」


 ようやくゴンさんが振り返る。


「なんだよ」


 料理を両手に持った奥さんが、呆れた顔をしていた。


「まだ一杯も注ぎ終わってないの?」


「今、大事なところなんだよ」


「仕事の方が大事!」


 常連たちが笑う。


「いつもの始まったな」


「まだ日本酒だからいい方だよ」


 別の客が、店内に並んだ光の巨人のフィギュアを指さした。


「ゴンさん、そういやこの光の巨人――」


「おっ、分かるか!」


 ゴンさんの顔が一気に輝く。


「それは初期の――」


「仕事!」


 また奥さんの声が飛んだ。


「分かったよ!」


「分かってないから言ってるの!」


 店は元々常連が多い。それに加えて最近は客も増えている。ただ、奥さんには、忙しい理由を客の数だけのせいにはできない気がしていた。


「……やっぱり、人を入れましょう」


「何の話だ?」


「アルバイト」


「まだ言ってんのか?」


「あんたが日本酒と光の巨人の話をしてる時間を減らせば、もう少し考えるけど」


「仕事はしてるだろ」


「してから言って」


「…………」


「募集するからね」


 ゴンさんは返事をしなかった。奥さんは、それを了承と受け取った。


 数日後。


「さっちゃん」


 則人に呼ばれ、咲子が振り返った。


「ゴンさんのおみせ、ひとたりないんだって」


「そうなの?」


「うん。おてつだいしたら、おかねもらえるって」


「アルバイト?」


「それ!」


 咲子は少し考えた。ゴンさんの店なら知っているし、則人から紹介された店でもある。そして頭に浮かぶのは、最近すっかり仲良くなった天女だった。


『咲子さん、こちらのお菓子も気になります』 『今度、あちらのお店にも行ってみたいです』


 また言う。きっと言う。


「……少し貯めておいた方がいいかも」


「なにを?」


「なんでもない」


 咲子は苦笑した。


「教えてくれてありがとう。ちょっと聞いてみる」


「うん!」


 その話を美緒にすると、思った以上に早く食いついた。


「ゴンさんのところでバイト?」


「うん」


「私もやろうかな」


「決めるの早くない?」


「バイト探そうかなって思ってたし」


「それだけ?」


「……それだけじゃないけど」


 美緒の頭には、天女の羽衣と同じ生地や、不思議なアクセサリーが浮かんでいた。そして、ついこの間勝手に下界へ遊びに来た朱雀も。


「天女たちともっと仲良くなったら、また面白いもの見せてもらえるかもしれないし」


「それ、バイトする理由?」


「半分くらい」


「半分もあるんだ……」


「朱雀ともまた話したいし」


「それは完全に関係ないから」


「どこかでつながるかもしれないじゃん」


「つながらないと思う」


「やってみないと分かんないでしょ」


「まあ、美緒がやりたいならいいけど。採用するか決めるのはゴンさんだからね」


「あ」


「そこからだから」


 二人が働きたいと店へ来ると、奥さんはすぐに乗り気になった。


「いいじゃない」


 しかしゴンさんは腕を組む。


「いや、でもなあ。うちは居酒屋だぞ。二人とも酒飲めねえだろ」


「飲まないよ」


「そういう意味じゃなくてな。うちは日本酒にもかなりこだわってんだ。客に聞かれても説明できねえだろ」


 奥さんが即座に返した。


「そこはあんたが説明すればいいじゃない」


「でもよ」


「説明したくて仕方ないんでしょ?」


「まあ……」


「じゃあ問題ないじゃない」


 さらに奥さんは二人を見る。咲子は市松人形を思わせる端正な和風美少女。美緒は咲子とは違うが、人当たりがよく愛嬌がある。


「それに、こんな看板娘が二人も来てくれるのよ?」


「看板娘だって」


 美緒が嬉しそうに咲子を見る。


「そこに反応しない」


「いいじゃん」


「咲子ちゃんは綺麗だし、美緒ちゃんは愛嬌あるし。接客なんて覚えればいいの」


「いや、だからな……」


「それとも、これからもあんたが日本酒と光の巨人の話をしてる間、私一人で全部回せっていうの?」


「…………」


「どうなの?」


 ゴンさんは黙った。


「……分かった。とりあえず、やってみろ」


「やった!」


「ありがとうございます」


 奥さんは満足そうに頷く。


「決まりね」


「お前が店主みたいだな」


「実際、誰が店を回してると思ってるの?」


 ゴンさんは何も言い返せなかった。


 初仕事は、思ったより順調だった。特に咲子は覚えるのが早い。


「咲子ちゃん、これ三番にお願い。帰りに五番のお皿も下げてくれる?」


「はい」


 料理を運び、そのまま空いた皿を回収して戻ってくる。動きに無駄がない。


「さっちゃん、速くない?」


「普通でしょ」


「それ絶対普通じゃないって」


「空手と比べたらこれくらい」


「比較対象がおかしいの!」


 一方、美緒は客との会話にすぐ馴染んだ。


「美緒ちゃん、おすすめどれ?」


「え?」


 常連に聞かれ、一瞬だけ迷う。けれどメニューを見て、


「私はこれ好きです」


 と答えた。


「じゃあ、それにしようかな」


「はい!」


 それだけだった。相手が求める正解ではなく、自分が好きなものを自分で言う。美緒はそのまま注文を奥さんへ伝えに行った。


 そして人手が増えた。


 これで店は楽になる――はずだった。


「ゴンさん、この酒なんだけど」


「おっ、それはな」


 始まった。


「美緒ちゃん、こっちお願い!」


「はい!」


 しばらくすると別の客が、


「ゴンさん、この光の巨人って――」


「おお! そこに気づいたか!」


「ゴンさん、注文入ってるよ」


 咲子が声をかける。


「あ」


「あ、じゃないでしょ」


 奥さんが呆れる。


「人が増えたからって、前より喋ってない?」


「気のせいだ」


「気のせいじゃない」


 常連たちは笑っていた。


 しばらくすると、店にはもう一つ変化が起き始めた。


「今日、咲子ちゃんいる?」 「美緒ちゃん、今日も入ってる?」


 二人目当ての客まで現れるようになった。


「ほら、言ったでしょ。看板娘」


 奥さんは得意げだが、ゴンさんは複雑そうだった。


「美緒ちゃん、今日何時まで?」


 若い客が美緒へ尋ねる。


「今日は――」


「おい」


 ゴンさんの声が飛んだ。


「何?」


「見張ってるからな」


「何を?」


「口説くなよ」


「まだ何も言ってないよ!」


「ゴンさん、怖いって」


 美緒が笑う。


 別の客が咲子へ注文しているだけでも、


「見張ってるからな。口説くなよ」


「注文してるだけだって!」


「また言ってる」


 常連が笑い、奥さんが、


「そんなこと言ってないで仕事!」


 とゴンさんを追い立てる。


 ある夕方、店の扉が開いた。


「ただいま!」


「おう、おかえり」


「おかえり、ノリちゃん」


 ゴンさんと奥さんが当たり前のように返す。則人にとって、この店は母親が迎えに来るまで過ごす、いつもの場所だった。


 ただ今日は一人ではない。


「ん? 今日はさとるも一緒か」


「つれてきた!」


「お邪魔します」


「いいのよ。さとる君も一緒に食べる?」


「腹減ってるなら食ってけ」


 さとるは少し迷ってから、


「じゃあ……いただきます」


 と頭を下げた。


「さっちゃん!」


「おかえり、則人」


「美緒ちゃんも!」


「おかえり」


 美緒も笑って手を振る。


「……前より賑やかになったね」


 さとるが店内を見回す。


「俺もそう思う」


 ゴンさんが答えた。


 その時、則人が店の端を見た。


「あ」


「どうしたの?」


「やっぱり、おちゃのんでる」


「え?」


 さとるにははっきり見えない。ただ、店の隅に誰かがいるような気配だけは感じる。


 そこでは、いつ来たのか、ぬらりひょんが当たり前のように茶を飲んでいた。


「いつ来たんだよ」


 ゴンさんが言う。


「さっきからおるぞ」


「声くらいかけろよ」


「忙しそうだったからの」


「誰のせいで忙しいと思ってんだ」


「わしではなかろう」


「……それはそうだけどよ」


 別の場所には天女もいた。ゴンさんはそちらへちらりと目を向ける。


「……あいつにも後で何か差し入れてやらねえとな」


 一般の客には見えていない。こっそり何か出してやるつもりだった。


「……いるの?」


 美緒が咲子へ小声で聞いた。


「誰が?」


「ぬらりひょん」


「いるよ」


「どこ?」


「あそこ」


 咲子が場所を示す。美緒には姿までは見えないが、何となくそこに何かがいる感覚はある。


「よし」


「何が、よし、なの?」


 美緒はそちらへ歩いていく。


「ぬらりひょん!」


「見えてるの?」


 さとるが驚く。


「見えてない」


「なのに行くんだ……」


「お願い! 天女見えるようにして!」


「またか」


 姿のない場所から声だけが返る。


「お願い!」


「仕方ないのう」


 次の瞬間、美緒の目が大きくなった。


「あ!」


 ぬらりひょんがいる。そして、その向こうには天女も。


「天女!」


「美緒さん!」


 美緒はすぐに天女のところへ向かった。


「この前の続き! また何か持ってきた?」


「今日は――」


 二人は楽しそうに話し始める。美緒は仕事中だということを完全に忘れていた。


「おい、美緒!」


 ゴンさんが反射的に叫ぶ。


「バイト中に妖怪と遊ぶな!」


 店内が一瞬だけ静かになった。


「…………」


 ゴンさんが固まる。奥さんも咲子もゴンさんを見る。一般客が首を傾げた。


「……妖怪?」


「…………いや」


 ゴンさんは数秒考えた。


「妖怪みたいに仕事の邪魔するなって意味だ」


「どういう意味?」


「細かいことは気にすんな」


 奥さんが小声で、


「自分で言っといて何よ」


 と呆れる。


 美緒は笑っている。天女も笑っている。


「笑ってないで働け!」


「はーい!」


 やがて忙しい時間も落ち着いた。


「疲れた……」


 美緒が椅子へ座り込む。


「美緒、体力なさすぎ」


「さっちゃんと比べないで」


 奥さんは二人を見て笑った。


「でも、助かったわ」


 ゴンさんも腕を組む。


「まあ……思ったよりやるな」


「もっと褒めていいよ」


「調子乗るな」


 少し離れたところでは、則人とさとるが食事をしている。店の端では、ぬらりひょんがまだ茶を飲んでいる。天女の前には、いつの間にかゴンさんがこっそり置いた小さな差し入れがあった。


 人間。妖怪。妖怪が見える者。姿までは見えなくても、何となく感じる者。


 いつの間にか、いろいろな者が同じ店に集まっていた。


「賑やかになったわね」


 奥さんが言う。


「……なりすぎじゃねえか?」


 ゴンさんが苦笑した。


 その時、若い常連が美緒へ声をかけようとした。


「美緒ちゃん――」


「おい」


「まだ何も言ってないよ!」


「見張ってるからな。口説くなよ」


「だからまだ何も言ってないって!」


「あなたは仕事!」


 奥さんの声が飛ぶ。


 店内に笑い声が広がった。


 ゴンさんの店は、少しずつ。


 ただの居酒屋ではなくなり始めていた。




※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。