閑話三 朱雀、お忍び中 後編
閑話三 朱雀、お忍び中 後編
朱雀のお忍びは、いつの間にか美緒による下界案内へと変わっていた。
「朱雀、これ!」
美緒が店先の小物を指さす。
「こういうのもエモい」
「ほう!」
朱雀がすぐさま覗き込む。
「なるほど。色も形も面白いのう」
「でしょ?」
「天女、見よ」
「かわいいですね」
天女も隣から覗き込んだ。
「美緒さん、こちらはどうでしょう?」
「それもいい!」
「天女も乗らない!」
咲子がすぐに止める。
「そうでした」
天女は申し訳なさそうに笑った。
少し後ろでは、老成した羊飼い風の配下が周囲へ絶えず目を配っている。
朱雀の力によって、今の三人は普通の人間からも自然に認識される。
だからこそ、目立つ行動は避けたい。
「ぬらりひょん様……おられませんな」
そう確認した直後。
「次は菓子じゃ!」
「この先にいいところあるよ!」
「案内せよ!」
「任せて!」
「朱雀様!」
「美緒!」
咲子と老成した配下の声が重なる。
二人は顔を見合わせた。
「……大変ですね」
「そちらもですな」
妙なところで意気投合していた。
◇
「うまい!」
朱雀の目が輝いた。
美緒がすすめたスイーツを口にした瞬間だった。
「でしょ?」
「これはよい!」
「こっちも食べてみて」
「おお!」
「朱雀様、食べすぎですぞ」
「まだ時間はある」
「時間の問題ではありません」
天女も一口食べる。
「美味しいです」
「それもおすすめ!」
「では、もう一口――」
「天女殿!」
老成した配下の声が飛ぶ。
天女が手を止めた。
「……一口だけです」
「あなたまで完全に楽しんでおられますな」
咲子が隣で深いため息をつく。
「なんで私、三人の面倒見てるんだろ……」
「日頃の私も、だいたいそのような気分です」
「仲間だね」
「ですな」
その前では。
「朱雀、これもエモいよ」
「おお! わらわも『エモい』の使い方が分かってきたぞ!」
「いい感じ」
「先生がよいからの!」
「誰が先生よ」
すっかり意気投合した二人が楽しそうに笑っていた。
◇
「朱雀様」
しばらくして、老成した配下が呼びかけた。
「そろそろ戻ることもお考えください」
「まだ早い」
「もう十分楽しんだでしょう」
「まだ見ておらぬものがある」
朱雀が美緒を見る。
「そうであろう?」
「いっぱいあるよ」
「ほれ」
「美緒さん、どうか朱雀様を煽らないでいただけますかな」
「あ、ごめんなさい」
「美緒には何も悪くないぞ」
「朱雀様が一番悪いのです!」
美緒が吹き出した。
「二人、仲いいね」
「どこがじゃ!」
「どこがです!」
また声が重なる。
「ほら」
「美緒!」
その時だった。
朱雀の表情が止まった。
「…………」
先ほどまで浮かれていた目が、急に鋭くなる。
「朱雀?」
美緒が首を傾げる。
老成した配下も異変に気づいた。
「まさか……」
天女も周囲を見る。
咲子には、何か大きな気配が近づいているのが分かった。
「ぬらりひょん?」
「おそらくの」
朱雀が短く答えた。
老成した配下の顔が引きつる。
「帰りましょう」
「うむ」
「え?」
美緒が驚いた。
「もう?」
「事情が変わった」
朱雀が天女へ目を向ける。
「行くぞ」
「はい」
咲子が呆れたように言う。
「完全に逃げる人の動きじゃん」
「逃げるのではない」
「じゃあ何?」
「戦略的撤退じゃ」
「同じでしょ!」
◇
「もう帰るの?」
美緒が少し残念そうに聞いた。
朱雀は一瞬だけ止まり、美緒を見る。
「今日はな」
「今日は?」
「また会おう」
「朱雀様?」
老成した配下が即座に反応する。
「今、『また』とおっしゃいましたな?」
「聞き間違いじゃ」
「はっきり聞きましたぞ」
朱雀は気にせず、美緒へ笑った。
「おぬし、やはり面白い娘じゃ」
「朱雀も面白いよ」
「そうであろう!」
「褒めてないかもしれないけど」
「何?」
「冗談」
美緒が笑う。
朱雀も笑った。
「次は、もっと下界のことを教えよ」
「いいよ」
「美緒!」
咲子が慌てて止める。
「次を約束しない!」
「あ」
美緒が今さら思い出す。
「そういえば朱雀、今日ここにいること自体ダメなんだっけ」
「そう!」
朱雀は胸を張った。
「細かいことはよい」
「よくない!」
「では、さらばじゃ!」
「逃げた!」
朱雀は天女と老成した配下を連れ、下界をあとにした。
◇
「危なかったのう」
上界へ戻った朱雀が息をついた。
「何がです?」
「ぬらりひょんじゃ」
「そもそも朱雀様が――」
老成した配下が言いかけて。
止まった。
天女も止まる。
「…………」
朱雀だけが、まだ気づいていない。
「どうした?」
「朱雀様」
老成した配下が静かに言った。
「前を」
朱雀が顔を上げる。
「…………」
黄龍。
青龍。
白虎。
玄武。
全員そろっていた。
「…………」
朱雀が止まる。
白虎が一歩前へ出た。
「朱雀」
「なんじゃ?」
「どこへ行っておった?」
「散歩じゃ」
「どこまでじゃ!」
「少し遠くまで」
「下界であろうが!」
「…………」
朱雀が黄龍を見る。
「なぜ知っておる?」
「ぬらりひょんから聞いた」
「見つかっておったのか!?」
「そこに驚くところではない」
青龍が額を押さえた。
◇
黄龍が静かに告げる。
「許可なく下界へ降りた」
「うむ」
「人の姿を取った」
「うむ」
「自分の配下を一般の人間からも認識できるようにした」
「うむ」
「美緒という人間にも力を及ぼしたな」
「うむ」
白虎が叫んだ。
「認めればよいという話ではない!」
「やったことを認めただけじゃ」
「そういうところじゃ!」
青龍も呆れたように朱雀を見る。
「なぜそこまでして行った?」
「美緒に会いたかった」
「それだけか?」
「菓子も食べたかった」
「増やすな」
「下界の店も見たかった」
「さらに増やすな!」
玄武が静かに口を開いた。
「つまり、見つからなければよいと思っておったのじゃな」
「…………」
朱雀が目を逸らす。
「朱雀?」
「そのようなことは言っておらぬ」
「顔に出ておるぞ」
◇
その後。
朱雀は、こってり絞られた。
黄龍から。
青龍から。
白虎から。
玄武から。
天女と老成した配下は、何度も、
「止めたのですが……」
と説明する羽目になった。
ようやく説教が終わる頃。
黄龍が朱雀を見る。
「分かったか?」
「分かった」
「もう勝手に下界へ降りぬな」
「…………」
「朱雀」
「分かった。もう勝手には行かぬ」
白虎が疑わしそうに睨む。
「本当じゃろうな?」
「しつこいぞ」
「おぬしが言うな!」
◇
長い説教が終わったあと。
「疲れたのう……」
朱雀が大きく伸びをする。
老成した配下がため息をついた。
「これに懲りて、しばらくは大人しくしてくださいませ」
「分かっておる」
「本当に?」
「しつこいのう」
朱雀は少しだけ考えた。
「……勝手に行かなければよいのじゃろう?」
「朱雀様」
「なんじゃ?」
「今、何と?」
「何も言っておらぬ」
「聞こえましたぞ」
朱雀はそっぽを向いた。
◇
「天女」
「はい?」
「下界には、離れたところにいる者同士で話せる道具があるのであろう?」
「すまーとふぉん、というものですか?」
「それじゃ」
「それがどうかしましたか?」
「毎回、下界へ行かねば美緒と話せぬというのは不便じゃ」
老成した配下の眉が動いた。
「朱雀様?」
「こちらにも、似たようなものがあればよかろう」
「作るのですか?」
「作るか、探すか。それはこれから考える」
老成した配下が深いため息をつく。
「先ほどまで何について叱られていたか、覚えておられますかな?」
「下界へ勝手に行ったことじゃ」
「では?」
「これは下界へ行かぬ方法を考えておる」
「…………」
朱雀は満足そうに頷いた。
「次に天女が正規に下界へ降りる時、美緒へ渡してほしい物を用意する」
天女が少し笑う。
「美緒さんなら、喜びそうですね」
「そうであろう!」
「天女殿まで……」
老成した配下が頭を抱える。
朱雀は楽しそうに笑った。
「それに」
「まだ何か?」
「次に下界へ行くなら、もう少し上手く――」
「朱雀様?」
「何も言っておらぬ」
「今、はっきり聞こえましたぞ」
「気のせいじゃ」
朱雀は、まったく懲りていない顔で笑っていた。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。




