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着ぐるみモンスター  作者: 内田紀人
ミラーカメレオン編

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閑話三 朱雀、お忍び中 前編

閑話三 朱雀、お忍び中 前編


「では、行ってくる」


「お待ちくださいませ!」


 朱雀が歩き出した、その直後だった。


 老成した羊飼い風の配下が、慌てて前へ回り込む。


「なんじゃ?」


「なんじゃ、ではございません! どちらへ行かれるおつもりです!」


「下界じゃ」


「それをお止めしているのです!」


 朱雀は、なぜ止められているのか分からないとでも言いたげに首を傾げた。


「少しくらいよかろう」


「よくありませんぞ!」


 隣では天女も困った顔をしている。


「朱雀様。やはり黄龍様にお話ししてからの方が……」


「話せば止められる」


「それは止められるようなことをなさろうとしているからです!」


「では、話さなければよい」


「そういう問題ではございません!」


 老成した配下が頭を抱えた。


 朱雀は本気だった。


 目的は一つ。


「美緒という娘に会ってみたいのじゃ」


「そのためだけに四聖獣のお一人が規則を破られるおつもりですか!」


「そのためだけ、ではない」


「ほかにも何かあるのですか?」


「下界の菓子も食べたい」


「悪化しましたぞ!」


 天女が口元を押さえる。


「朱雀様らしいと言えば、朱雀様らしいですが……」


「天女殿。笑っておられる場合ではありませんぞ」


「すみません」


「何をそんなに心配しておる」


 朱雀はまるで散歩へ出る程度の気軽さで言った。


「少し下界を見て、美緒に会い、菓子を食べて戻ってくる。それだけではないか」


「それだけの中に規則違反がいくつ入っているとお思いですか!」


     ◇


「そもそも」


 老成した配下は、まだ朱雀を説得することを諦めていなかった。


「朱雀様ご自身が、許可もなく下界へ降りられる。それだけでも問題なのです」


「うむ」


「なぜ頷かれるのです」


「聞いておるからじゃ」


「理解していただきたいのですが!」


 朱雀は平然としている。


「さらに、人の姿を取られるおつもりなのでしょう?」


「当然じゃ。あの姿のまま街を歩くわけにもいくまい」


「それも勝手にしてはならぬことでしょう!」


「分かっておる」


「分かっていて、なぜなさるのです!」


「美緒に会いたいからじゃ」


 老成した配下の肩が落ちた。


 まったく話が進まない。


 天女がおそるおそる尋ねる。


「でも朱雀様。美緒さんには、普段は私たちの姿が見えませんよ?」


「それも問題ない」


 朱雀はあっさり答えた。


「わらわと共におれば、おぬしらも下界の者から見えるようにしてやれる」


「…………」


 老成した配下の顔が、さらに険しくなった。


「それもなさるおつもりで?」


「せっかく下界へ行くのじゃぞ。見えなければ不便であろう」


「規則違反を一つずつ増やさないでいただけますかな!」


 朱雀は指を折った。


「下界へ降りる」


「一つ」


「人の姿になる」


「二つ」


「おぬしらを人間にも見えるようにする」


「三つ」


「三つくらいではないか」


「三つもです!」


「細かいのう」


「細かくありません!」


 天女が困ったように朱雀と老成した配下を見比べる。


「やっぱり……やめた方がいいのでは?」


「天女」


「はい?」


「美緒に会いたくはないのか?」


「それは……」


 天女は少し考えた。


「直接お話ししてみたいです」


「ほれ」


「天女殿!」


「でも、行ってよいとは言っていません!」


「では、わらわ一人で行く」


「それが一番困るのです!」


 二人の声が重なった。


     ◇


 結局。


 朱雀は行った。


 そして。


 天女と老成した配下も一緒だった。


 二人とも賛成したわけではない。


 むしろ最後まで反対していた。


 だが。


「朱雀様お一人で下界へ行かせるよりは、まだましですな……」


「そうですね……」


 そこだけは、二人の意見が完全に一致していた。


     ◇


 下界へ降りた朱雀は、自らの姿を人間へと変えた。


 四聖獣としての気配を抑え、街中を歩いていても不自然ではない姿を取る。


 さらに。


 朱雀が軽く手を振ると、天女と老成した配下の周囲にも淡い力が広がった。


「これでよい」


 天女が自分の手を見る。


「不思議な感じですね」


 今なら、勘のいい人間だけではない。


 普通の人間からも、三人の姿が自然に見える。


「これなら店にも入れるぞ」


 朱雀は楽しそうだった。


「朱雀様」


 老成した配下が、すぐに釘を刺す。


「お忘れではないでしょうな?」


「何をじゃ?」


「この状態を、いつまでも維持できるわけではありませんぞ」


「ああ」


 朱雀自身が人間の姿を保つ。


 それに加えて、天女と老成した配下まで人間から認識できるよう力を使い続ける。


 いくら朱雀でも、永遠に続けられるものではない。


「半日もあれば十分じゃ」


「その半日を満喫するおつもりなのが問題なのです」


「せっかく来たのじゃから当然であろう」


「観光ではございませんぞ!」


「お忍びじゃ」


「言い換えても駄目です!」


     ◇


 そして。


 もう一つ。


 老成した配下には、何より心配なことがあった。


「朱雀様」


「今度はなんじゃ」


「ぬらりひょん様には、くれぐれもお気をつけください」


 朱雀の表情が、ほんの少しだけ真面目になる。


「分かっておる」


「本当に?」


「わらわとて、あやつに見つかるのはまずいことくらい分かる」


 天女も思わず周囲を見回した。


「ぬらりひょん様に見つかったら……」


「黄龍様へ伝わるでしょうな」


「間違いなくの」


 そこだけは、朱雀も理解していた。


 ぬらりひょん。


 下界にいる妖怪たちの中でも、大きな力と影響力を持つ存在。


 そして何より。


 黄龍とは、茶を飲みながら話をするほどの間柄である。


「見つかれば、帰った時にはすべて知られておる」


「ですから、今からでも戻られては?」


「それは嫌じゃ」


「即答ですか」


「美緒に会っておらぬ」


「そこまで会いたいのですか……」


「天女の話を聞いたら、面白そうだったからの」


 朱雀は楽しそうに笑う。


 それから、二人へ念を押した。


「よいか」


「はい」


「ぬらりひょんにだけは見つかるな」


 老成した配下が深いため息をついた。


「そもそも下界へ来なければ、見つかる心配もなかったのですがな」


     ◇


「…………」


 咲子は、目の前にいる三人を見た。


 一度。


 それからもう一度。


「…………」


「なんじゃ?」


 人間の姿を取った朱雀が、不思議そうに尋ねる。


「いや」


 咲子は天女を見る。


「なんで?」


「申し訳ありません……」


 天女が小さくなった。


 次に、老成した配下を見る。


「止めたんですけどね」


「止まりませんでした」


「でしょうね」


「どういう意味じゃ?」


「そのままの意味」


 咲子は額へ手を当てた。


「朱雀、これ大丈夫なの?」


「大丈夫じゃ」


「何が?」


「半日程度なら問題ない」


「時間の話じゃないんだけど」


「細かいのう」


「みんなそれ言われて困ってるんでしょ!」


 朱雀は気にしていない。


「それより美緒は?」


「…………」


「呼んでくれ」


「そのために来たの?」


「それだけではない」


「ほかに何?」


「菓子も食べたい」


「帰って」


「なぜじゃ!」


 天女が、とうとう小さく吹き出した。


「天女まで笑わないでよ」


「すみません。でも……」


 咲子は三人を見る。


 どう考えても。


 すでに嫌な予感しかしなかった。


     ◇


「で、何?」


 しばらくして。


 咲子に呼び出された美緒がやって来た。


「急に呼び出して」


「ごめん」


「また天女?」


「まあ……そんな感じ」


「何その言い方」


 美緒が周囲を見る。


 そして。


「…………え?」


 止まった。


 いつもと違う。


 今までなら。


 何かがいる。


 そんな感覚だけだった。


 姿は見えない。


 声も聞こえない。


 ところが今日は。


 三人いる。


 はっきりと。


「…………」


 美緒が一人の女性を見る。


「もしかして」


 指さす。


「天女?」


「はい」


 返事が聞こえた。


「…………」


 美緒の目が大きくなる。


「聞こえた!」


「美緒」


「天女の声、聞こえた!」


「落ち着いて」


「だって、前は全然聞こえなかったじゃん!」


 天女も嬉しそうに笑う。


「ようやく直接お話しできますね」


「ほんとだ!」


 美緒が一気に距離を縮める。


「この前の生地、すごかった!」


「ありがとうございます」


「他にもあるの?」


「もちろんです」


「見たい!」


「美緒」


 咲子が止める。


「今日は天女が主役じゃないから」


「え?」


 美緒が、もう一人の女性を見る。


 その人物は、先ほどから楽しそうに美緒を観察していた。


「じゃあ……誰?」


 女性が口元を上げる。


「わらわが朱雀じゃ」


「…………」


 美緒が固まった。


「朱雀?」


「そうじゃ」


「四聖獣の?」


「そうじゃ」


「…………」


 美緒がゆっくり咲子を見る。


「本物?」


「本物」


「なんでいるの?」


「私が聞きたい」


「会いに来たのじゃ」


 朱雀が当然のように言う。


 美緒が自分を指さした。


「私に?」


「そうじゃ」


「なんで?」


「面白そうだったからじゃ」


「…………」


 美緒が少し笑った。


「理由、軽くない?」


「会ってみたいと思ったから来た。それで十分であろう?」


 咲子が横から口を挟む。


「十分じゃないからみんな困ってるんだけどね」


     ◇


 朱雀は、美緒をじっと見る。


「おぬしが美緒か」


「そうだけど」


「天女から聞いたぞ」


「何を?」


「わらわのところの品を、何でも『エモい』と言っておったそうじゃな」


「…………」


 美緒が天女を見る。


 天女が微笑む。


「言った」


「えもい、とは、とても良いという意味なのじゃろう?」


「うーん」


 美緒が少し考えた。


「それだけじゃないんだけど」


「では何じゃ?」


「なんていうか……」


 美緒が言葉を探す。


「いい感じで」


「うむ」


「心に来るっていうか」


「心に来る」


「見た瞬間、これ好きってなる感じ」


「ほう!」


 朱雀の目が輝いた。


「なるほど!」


 何かを理解したように大きく頷く。


「では、あの羽衣の生地は?」


「めっちゃエモい」


「髪飾りは?」


「あれもエモい」


「天女の巾着は?」


「エモい」


「やはり!」


 朱雀が嬉しそうに笑う。


「わらわのところには、エモいものがたくさんあるということじゃな!」


「うん。それは間違いない」


「そうであろう!」


 美緒も楽しそうに笑う。


 咲子は二人を見る。


「…………」


 老成した配下も、同じように二人を見る。


「…………」


 やがて。


 二人の視線が合った。


「まずい気がする」


「奇遇ですな。私もです」


     ◇


「美緒」


「何?」


「下界には、もっとエモいものがあるのか?」


「いっぱいあるよ」


「例えば?」


「服とか」


「ほう」


「アクセサリーとか」


「ほう!」


「雑貨とか、小物とか」


「まだあるのか!」


「あるある」


 朱雀がどんどん前のめりになる。


 美緒も楽しそうに指を折っていく。


「あと、スイーツも見た目かわいいのいっぱいあるし」


「それじゃ!」


 朱雀が立ち上がるような勢いで身を乗り出した。


「美緒」


「何?」


「案内せよ!」


「いいよ!」


「ちょっと待って!」


 咲子が即座に割って入る。


「朱雀様!」


 老成した配下も同時だった。


 天女だけが、少し楽しそうに二人を見る。


「面白そうですね」


「天女も乗らない!」


 咲子と老成した配下の声が、きれいに重なった。


 朱雀と美緒は顔を見合わせる。


 そして。


 どちらからともなく笑った。




※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

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