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着ぐるみモンスター  作者: 内田紀人
ミラーカメレオン編

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閑話二 普通ってむずかしい 前編

閑話二 普通ってむずかしい 前編


「朱雀様、こちらをご覧ください」


 天女が嬉しそうに差し出したものを、朱雀は興味津々で覗き込んだ。


「なんじゃ?」


「下界のお菓子です。咲子さんから教えていただきました」


「ほう」


 朱雀の目が輝く。


「こちらのお店では、季節によって違う味が出るそうですよ」


「季節ごとに?」


「はい。それから、こちらのお店には――」


「お二方」


 低い声が割って入った。


 朱雀と天女が同時に振り返る。


 そこには、いつもの老成した羊飼い風の配下が立っていた。


「なんじゃ?」


「欲しい物が増える一方ですぞ」


「…………」


「…………」


 朱雀と天女が顔を見合わせた。


「欲しい物があるのは、悪いことではなかろう」


「もちろんです。しかし、下界の物を手に入れるには、下界の金銭が必要なのでしょう?」


「そうですね……」


 天女が困ったように頷く。


 以前、咲子から少しだけ教えてもらっている。


 下界では、店にある物を欲しいからといって、そのまま持って帰るわけにはいかない。


 お金というものを払い、その代わりに品物を受け取る。


 そこまでは分かった。


 問題は。


「お金が足りません」


 天女がしょんぼりと言った。


「ならば、増やせばよい」


 朱雀は簡単に答える。


「どうやってです?」


「…………」


 朱雀が止まった。


「それを今から考えるのじゃ」


「考えていなかったのですね」


 老成した配下がため息をついた。


     ◇


「あ」


 天女が何かを思い出した。


「そういえば、咲子さんが以前、『アルバイト』という言葉を使っていました」


「あるばいと?」


 朱雀が首を傾げる。


「なんじゃ、それは」


「ええと……」


 天女も考え込んだ。


「働くこと……だと思います」


「働く?」


「はい。何かをして、その代わりにお金をいただくような……」


「ほう」


 朱雀は少し考える。


「では、加護を与えるようなものか?」


「加護?」


「人間に加護を与える。人間は感謝して供え物をする。それと同じであろう?」


「…………」


 天女が老成した配下を見る。


 老成した配下は首を横へ振った。


「かなり違いますな」


「違うのか?」


「違います」


「では、天啓を授ける方か?」


「そちらでもありません」


「難しいのう」


 朱雀は本気で分からないらしい。


 天女の方は、もう少しだけ理解できる。


 下界へ降りて。


 人間と暮らして。


 生活を手伝う。


 何かの仕事をする。


 そういう話なら、天女にも馴染みがあった。


「お店でお手伝いをしたり、物を運んだり……そういうことではないでしょうか」


「それをすると金がもらえるのか?」


「たぶん」


「ならば、やればよい」


 朱雀が即決した。


「誰がです?」


「わらわと天女が」


「…………」


 天女が止まった。


 老成した配下も止まった。


「朱雀様」


「なんじゃ」


「下界の普通の者には、我々が見えぬ場合があることをお忘れですかな?」


「…………」


「あ」


 天女も今さら気づいた。


「お店の方に私が見えなかったら……働けませんね」


「むう」


 朱雀が腕を組む。


 しばらく考えて。


「ならば黄龍に頼めば――」


「朱雀様」


 また遮られた。


「なんじゃ。まだ最後まで言っておらぬぞ」


「言わずとも分かります」


「では話が早い」


「早くありません」


 老成した配下は、じっと朱雀を見る。


「先日は、ご自身をガチャの対象へ加えてほしいとお願いされたばかりでしょう」


「そうじゃが?」


「今度は、普通の人間すべてから見えるようにしてほしいと?」


「頼むだけならよかろう」


「わがままが過ぎますぞ」


「…………」


 朱雀が口を尖らせた。


 天女も申し訳なさそうに言う。


「朱雀様。さすがにお願いしすぎかもしれません」


「天女までそちらにつくのか」


「今回は……」


「むう……」


 朱雀は不満そうだったが、さすがに黄龍のところへ向かおうとはしなかった。


     ◇


「そういえば」


 しばらくして、天女が再び口を開いた。


「下界には、『バザー』なるものもあるらしいですよ」


「ばざー?」


「はい」


「それはなんじゃ?」


「…………」


 天女が止まる。


「知らぬのか?」


「名前だけ……」


「またか」


「申し訳ありません」


 老成した配下が助け舟を出した。


「我々の知るところで申せば、市場のようなものではありませんかな」


「市場!」


 朱雀の表情が明るくなる。


「ならば分かるぞ!」


「おそらく朱雀様が想像されているものより、だいぶ小規模だと思われますが」


「細かいことはよい」


「よくありませんぞ」


「市場なら、物を売ればよいのであろう?」


「まあ……大きくは間違っておりません」


 朱雀が胸を張った。


「ならば簡単ではないか!」


 自分たち自身が下界で働けない。


 ならば。


 自分たちの作った物を、下界で売ればいい。


 咲子なら、自分たちの姿も見える。


 下界のことも、自分たちよりはるかに詳しい。


「咲子に頼めばよい!」


「また咲子さんにお願いするのですか?」


「相談くらいはよかろう」


 天女は少し考えてから、


「……そうですね」


 と頷いた。


 老成した配下だけが、すでに何か嫌な予感を覚えていた。


     ◇


「では、何を売る?」


 朱雀が聞く。


「そうですね……」


 天女は少し考えてから、一枚の生地を持ってきた。


「こちらはいかがでしょう?」


 朱雀が手に取る。


 光を受けるたび、表面の色合いがわずかに変わる。


 滑らかで。


 軽く。


 それでいて、ただ薄いだけではない。


 朱雀にとっては見慣れたものだった。


「美しいではないか」


「はい」


「これでよい」


「いけません」


 老成した配下が即答した。


「なぜじゃ?」


「これを下界の市場へ持っていって、一体いくらで売るおつもりです?」


「高く売ればよい」


「そういう問題ではありません!」


「なぜじゃ。高く売れるなら、その分たくさん菓子が買えるではないか」


「そういう考え方だから困るのです!」


 天女が別の物を取り出す。


「では、こちらの髪飾りは?」


 細かな装飾が施され、光の角度によって淡く輝いている。


「いけません」


「こちらの織物は?」


「それもです」


「では、この小物なら――」


「さらにいけません」


「なぜです?」


「なぜ分からないのです!」


 朱雀が呆れたように老成した配下を見る。


「おぬし、先ほどから駄目しか言っておらぬぞ」


「皆様が、とんでもない物しか出してこられないからです!」


「ならば、下界の者に見てもらえばよい」


「最初からそう申し上げているのです」


「そうだったか?」


「そうです!」


     ◇


 結局。


 下界の感覚が分かる者に、実際に品物を見てもらうことになった。


 朱雀は残る。


 下界へ向かうのは、天女と老成した羊飼い風の配下。


 相談相手は咲子だった。


 そして。


「見てほしいもの?」


 咲子に呼ばれ、美緒もやって来た。


「うん。この前話した天女、覚えてる?」


「覚えてるよ」


 美緒が周囲を見回す。


「今いるの?」


「いる」


「どこ?」


「私の隣」


「…………」


 美緒は目を凝らした。


 何となく。


 そこに何かがいるような感覚はある。


 けれど。


 姿は見えない。


 声も聞こえない。


「やっぱり見えない」


「今はぬらりひょんいないからね」


「ずるいなあ」


「私に言われても」


「で、何を見ればいいの?」


 咲子が天女から一枚の生地を受け取った。


 そして。


 美緒へ差し出す。


「まず、これ」


「布?」


「うん」


「それを見ればいいの?」


「とりあえず」


「分かった」


 美緒は、何気なく手を伸ばした。


 指先が生地へ触れる。


「…………」


 動きが止まった。


 もう一度。


 指先でなぞる。


「…………何これ?」


「どう?」


「いや」


 美緒は生地を両手で持った。


 光へかざす。


 角度を変える。


 表面を撫でる。


 裏返す。


「これ、何の生地?」


「聞いてみる」


 咲子が隣の天女を見る。


 天女が何でもないことのように答えた。


「…………」


 咲子が少しだけ目を丸くする。


「何?」


 美緒が聞く。


「羽衣と同じ生地だって」


「…………羽衣?」


「うん」


「羽衣って」


 美緒は手の中の生地を見る。


 そして。


 ゆっくり咲子を見る。


「天女が着て、空飛ぶやつ?」


「そうみたい」


「…………」


 もう一度、生地を見る。


「待って」


「何?」


「そんなの本当にあるの?」


「今触ってるじゃん」


「いや、そうなんだけど!」


 美緒の目が、一気に変わった。


「これ、どうやって作ってるの?」


「え?」


「素材何?」


「ちょっと待って」


「なんでこんな手触りなの?」


「美緒」


「この光り方どうなってるの?」


「一個ずつ!」


「だって気になるじゃん!」


 咲子は苦笑しながら、天女へ質問を伝え始めた。


 天女も、美緒がそこまで興味を示すとは思っていなかったらしい。


 嬉しそうに一つずつ答えていく。


 咲子がそれを美緒へ伝える。


 けれど。


 聞けば聞くほど。


「……何それ」


 美緒には、分からないことが増えていった。


「そんな素材、普通にあるの?」


「向こうにはあるみたい」


「向こうって妖怪側でしょ?」


「そう」


「じゃあ、こっちには?」


 咲子が天女へ聞く。


 返事を聞いて。


「同じものは、たぶんないって」


「…………」


 美緒は生地を見つめる。


「世界中探しても?」


「そこまでは天女にも分からないって」


「でも、普通に売ってるような物じゃないんでしょ?」


「うん」


「何それ……」


 最初は。


 ただ、珍しいものを見せてもらうだけのつもりだった。


 でも。


 美緒は、もう生地から目を離せなくなっていた。


「……これ、本当に布なんだよね?」


 咲子が天女へ聞く。


 返事を聞いて、少し笑う。


「布だって」


「空飛ぶ布だけど?」


「空飛ぶ布だけど」


「普通に言わないでよ」


 美緒は、もう一度その不思議な生地を光へかざした。


 自分の知らないものが、目の前にある。


 そのことが。


 なんだか、ものすごく面白かった。


関連作品


『着ぐるみモンスター Another』 https://kakuyomu.jp/works/2912051606059823634


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

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